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【最速レポート】最澄と天台宗のすべて

今年は伝教大師・最澄の没後1200年

昨日10月12日、上野・東京国立博物館にて特別展「最澄と天台宗のすべて」が開幕した。本年2021年は天台宗を比叡山から日本に広めた伝教大師・最澄(766?~822)の没後1200年にあたり、その大遠忌を記念しての企画。本稿ではこの展覧会の最速レポートをお届けする。

特別展「最澄と天台宗のすべて」概要

展示は6部構成で、第1章では「最澄と天台宗の始まり」と題して書状(国宝)を中心に展示。有名な『国宝とは何者ぞ、宝とは道心なり』といった言葉や、中村哲氏の座右の銘としても注目された『亡己利他(己を忘れて他を利する)』などの文言を確認することができる。

第2章は「教えのつらなり」と題して、天台宗が密教を取り入れての発展を紹介。これを展示していいの?と驚くような密印の図解(国宝)も。修行についても触れ、千日回峰行のVTRは多くの来場者が食い入るように見つめていた。

第3章「全国への広まり」では各地の仏像が勢ぞろい。ユーモアにあふれた造形のお姿や、思わず息を呑むほど威厳のある佇まいまでさまざま。ここに一堂に会しているすべての仏が日本各地で800年以上拝まれてきた仏なのだと思うと、感慨深くなる。それぞれの仏に手を合わせ、まさに「拝観」している来場者の姿が印象的だった。深大寺から出品されている2体(うち1対は国宝)がハイライトか。

第4章は「信仰の高まり」をコンセプトに、浄土思想に着目。死後に極楽往生を願う浄土教思想は、われわれに「地獄」のイメージを決定付けたエポックメイキングな思想だった。「死んだら地獄にいく」「閻魔さまに舌を抜かれる」といった発想の原点をここで確認できる。

第5章では「教学の深まり」として絵巻や掛軸などが多く陳列され、第6章では「現代へのつながり」として織田信長の比叡山焼き討ち以降を扱う。寛永寺が大きく取り上げられていたのは、会場とのつながりにも縁るのだろう。(※会場の東京国立博物館は、寛永寺の境内だった場所に建っている)

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筆者(天台宗僧侶)の、個人的なツボは

天台宗では「すべての生き物が仏になれる」という根本のもとに「円(法華経)・密(密教)・禅・戒」を柱とする。この四本柱をどう自らのうちに立てていくか?が近年の筆者の問題意識であった。4つ全部網羅していかなければならないと思うと大変だ。1つでも心もとない、及ばない、まだ足りない。そんな状況を打破するようなキッカケがあるだろうか?と、この展覧会に足を運んだ。

会場内は老若男女問わず、熱心なまなざしを注ぐ方が多く見受けられた。バッタリ居合わせた諸先輩方や、会場スタッフをされていた先輩(会場内では“限定御朱印”が頒布され、そこに天台僧が日付を入れてくれる仕組み)と久しぶりに対面で言葉を交わし、展示品をゆっくりと見た。

「円(法華経)・密(密教)・禅・戒」の四本柱を全部網羅していかなければならないなんて。1つでも心もとない、まだ足りない。長年そう思っていたはずが、ゆっくりと時間をかけて見ているうちに、ゆっくりと、考え方も変容してきた。

「まだ足りない」じゃない。「もうできてる」んだ。

不安や不足感を駆動力にしなくていいんだ。だって「もうできてる」のだから。

発想の転換といってしまえばそれまでだが、この安心を得るのに、何年もかかった。もうできてるからといって、探求はやめない。それにきっとまた不足感に打ちのめされることもある。けれど同時に、「もうできてる」のだという安心。そこに気づけたことが、この展覧会の大きな収穫だった。

帰山してそのまま、寺で法要を勤めた。参拝者に「午前中この展覧会に行った」旨を伝えると、「多くの仏像が博物館に集まっているということは、その仏さまは(本来いるはずの)お寺を留守にしているんですよね?そういうときって、仏さまの“たましい”って、どこにあるんでしょうか」という質問が。その問いについても、しばらくディスカッションは弾んだ。

丁寧に観ると2時間、おかざき真理コラボグッズも

緊急時宣言も全国解除となった10月に開幕したというのも後押しとなったのだろう、朝には140人が列をなしたという。原則、日時指定券を購入していく必要があるので、人数は制限され、場内はスムーズにゆったりと観ることができる。当日券も販売され、混雑状況は遂次SNSで確認できる。

先に紹介した千日回峰行のVTR以外にも、アーカイブ映像から最新の記録まで、豊富に上映されていて、すべての展示物を丁寧に観れば90分、映像で30分、正味2時間コースといったところだろうか。入場料(前売日時指定券)が2,100円と多少お高く、図録が3,000円、それだけで合計5,000円以上、さらに物販も、と思うとどうしても出費がかさんでしまうのは致し方ないが、全国から国宝級の名品が集結するこの勝縁を逃す手はない。

おわりに ~道を弘むるは人に在り~

天台宗の総本山・延暦寺をはじめ、各地の寺院が守り伝えてきた秘仏や仏画などを展示する特別展「最澄と天台宗のすべて」。企画段階からかれこれ8,9年だろうか、めでたくも今般、実現の運びとなった。東京展は11月21日までの開催、そののち九州、京都を巡回する。

最後に付け加えておきたいのは、「最澄と天台宗のすべて」といっても、当然、これが「すべて」ではないという事だ。1200年にわたって受け継がれてきた法灯のすがたとしてここに展示されている品々は「すべて」ではなく「一部」だ。

仏像や仏画だけあっても教えは伝わらない。そこに信仰や救済を見出し、祈り、伝え、連綿とつないできた「人」こそが主役なのだ。道を弘むるは人に在り。伝教大師1200年の大遠忌の今年、これを機に、是非とも多くの方に縁を結んでいただきたいと思う。

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Text by 中島光信(僧侶・ファシリテーター)

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