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廃ヒール集積場

ここは世界でただひとつ、折れたヒールの集積所だった。

ベルトコンベアにのせられて世界中のヒールが集まってくる。
ブーツのヒール、おろしたてのヒール、中途半端に折れたがため不格好なヒール。

流されてきたヒールは初めに水洗いされ、細かい汚れが落とされる。
次は一度ヒールを乾かす。
乾いたヒールはブラシが担当する区画に運びこまれ、さらに汚れが落とされる。

この三つの工程を越えただけであったが、ヒール自体はこの時点ですでに現役と変わらないくらいの変化を遂げる。そこから先は、扱うものの種類によって辿る経度は変わる。なんせ今は、個性のあるヒールもまたこのベルトコンベアを流れることから、ものによっては、過程を重ねることでさらに折れてしまいこともあるのだ。

ある程度きれいになったところで、ようやくアライグマが現れる。
彼らは洗う動作から修練を積み、やすりがけの技能を身に着けている。激しい気性をヒールの形を崩して整えることで発散し、彼らにとっては半ば天職のようになっている。たまにあまりにも小さなヒールがやってくると、食事と間違えて口にしてしまうこともあったが、アライグマ達はこの仕事に満足していた。

整えられたヒールには、ときどき刺繍が施されることがあった。
申し込めば記念品として仕上げて返送することが可能で、それは集積所のサービスの一環となっている。この作業はキツツキが担当し、部屋にはコツコツコツ、という音が止むことなく響き渡っている。

全行程を終えられたヒールたちは、行く先が決められる。
再利用されるか、記念品として元の持ち主に送られるか、廃棄されるか。

大抵のヒールは再利用され、様々な形となって役割を与えられる。
ときには、リンゴの芯として紛れ込む個体もあるようだが、その行く先のすべては誰にもわからない。




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