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ひつじにからまって

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ひつじにからまっているものがたりたち
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#月

花かんむりと月

花かんむりと月

パステル色の光を放ち、月は優しく空を滑る。レンゲソウ、スターチス、ユーカリなどで組まれた花かんむりを被り、月の明かりをたっぷりと含み、原色とは異なる淡い色合いが空を彩る。

「今日のお月さまはどう?」
「きれい。お花をたっぷり被っているわ」
「こぼれた花びらをつかめたらいいね」
「いつものことよ。わけないわ」

虹彩は深い色合いを瞳に移し、スミレ色の彼女の瞳はそっと夜に隠される。街灯に照らされチラ

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夢見る月

夢見る月

疲れた月は瞳を閉じた。
夜空から月の光が消え、お月見がなくなり、潮の満ち引きもなくなった。誰が初めに言い出したか、寂しいという声は高まり、月の瞳を開けようと人々は行動を起こした。

「お疲れ様です。でも、閉じてばっかだと開ける時にでも難儀するでしょう。ね、開けておくんなまし」

翁はモップを手にして月を洗った。孫の要望に応えようとして、きっと目脂がたまっているんだろうと汗を流した。

初めに次から

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月輪

月輪

薄雲に投影された月光は虹の環を作り出す。
そこに物語が与えられているのかは、空を仰いだ人にゆだねられる。その傍らで物語になりきれない幾多の生命活動が脈を打つ。衝動を目にした狼は遠吠えを響かせ、自然界に向け本能をむき出しにした。自らの内に海を持つサボテンは次の雨を心待ちにし、空を行く鳥に恋をする。

彼女の瞳はその光を取り込むことで何を映すのだろうか。ぼくはそれが気になって、時計の時針が十二時を超え

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恋をした月

恋をした月

月食がはじまろうとしている。
月に一度の楽しみに、おとめ座銀河団は地球に暮らす人々は熱狂していた。

月が赤くなるということは、月を持つ我々にしか得られない天体現象である。そう人々は語り、赤くなった月をフライパンで熱した太陽の種ともてはやした。

「星辰の流れを読むならば、次回の月食は十日が三回過ぎたとき」

じきに彼らは失う恐怖を抱くようになった。いつまでこの月が赤くなる様を我がものとできるのか

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