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夢見る月
疲れた月は瞳を閉じた。
夜空から月の光が消え、お月見がなくなり、潮の満ち引きもなくなった。誰が初めに言い出したか、寂しいという声は高まり、月の瞳を開けようと人々は行動を起こした。
「お疲れ様です。でも、閉じてばっかだと開ける時にでも難儀するでしょう。ね、開けておくんなまし」
翁はモップを手にして月を洗った。孫の要望に応えようとして、きっと目脂がたまっているんだろうと汗を流した。
初めに次からクレーターがなくなった。
次には空から落ちてきた石が取り除かれた。
翁はモップを片手に月中を歩き回り、ついには月の凹凸をすべて平らに変えてしまった。
「お前はどうして眠りを邪魔する」
月はとうとう口を開いた。
「そりゃ寝過ぎはいかんからです」
「人間の尺度で言えばな。だが、俺は今ようやく夢を見はじめていたんだ」
「ではいつ目を開いてくれるんで?」
「しばらくしたらな。だが、今じゃない」
翁はもじもじとした。月をきれいにした時間を差し引いて、孫とはあとどれだけ一緒にいれるのか。
「少しだけ、一晩だけでいいのです。あっしが孫と一緒にあなた様を眺めることができるだけで」
月は悩んだ。そして、眠気まなこを擦りはじめる。
「綺麗にしてくれたのはお前だろう。仕方ない」
次の返事に翁は笑みをこぼした。
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