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ようもうとみどり
2022年1月31日 22:50
薄荷風味の雪が降ったせいで、息を吸えば気管から肺まで行き過ぎたさわやかさが駆け巡った。ひょっとすると美味しい雪が食べられるかもしれない。そんな思いで準備をしたけれど、共づれは誰もいなかった。みんな鼻が貫かれてしまうと言って嫌がる。頼みの綱にしていた犬も過去一番に嫌がるものだから、結局一人になってしまった。それからどうしたかって、わたしも出ることはやめました。窓から眺めたつららに淡く浅葱色が
2021年12月25日 21:03
雪を見て男は安心した。自分の手先が赤く痛むことも、息が白いことも喜んだ。光り輝いた粒が空を舞う。祝福するように、祈るように。しかし、男はそれを喜ばなかった。恨み言をぷらぷらさげ、ひとり寂しく祝福された道を進む。「ねえ、綺麗なものを綺麗って言えた方がいいよ」通りすがりの男の言葉に、彼女は我慢がならず咎める。背筋をびくりと震わせ、男はおそるおそる後ろを振り返った。「異常に見えるんだ。飾
2021年8月20日 19:26
痛々しい声が雪原に響き渡る。夏に鳴くことを許されなかったコオロギは、命の時を止められて冬の解き放たれた。身を置くための草花はすでにしなびれ、あくる日のため子孫が生を勝ち取れるように定められた使命を全うし力尽きている。一方、冬に歌うキリギリスはコオロギの身の上を憐れみ、得られるかもわからぬ対価を求めて流れものとして各地を転々としていた。懐かしい声に警戒と安堵を得る。コオロギの本能はそれが夏