ポタージュ3
11月ってものすごく結婚が多いですね。
おめでとうと思う反面、なんだかやりきれないものを感じます。
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https://note.com/wolfheart/n/naa48b014271f
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https://note.com/wolfheart/n/n7dce92c3c4e8
ポタージュ
「そういやさ、あたし今日告られたんだよね。」
確かにそう聞こえた。
思わず空になった缶を握ってしまう。完全に出遅れたな、と嘲笑うようにコンポタージュの缶は冷たかった。
「そうなんだ。誰に?」
自然と缶を握る力が強くなる。下を向いていては何かが溢れて零れそうになるので、慌てて空を見上げた。けれど逆効果だった。その日は月が綺麗な夜だった。
「ほら、あんたと同じサッカー部の・・・あんまり評判良くない奴。」
それだけで誰のことを言っているのかはすぐにわかったが、正直どうでもよかった。もしかしたらもうこの公園で二人、愚痴を言い合うのが今夜で最後になるかもしれない。いや、そんなことよりも、だ。
「ああ、あいつか。」
「それでさ、あいつ告白する時なんて言ったと思う?『俺さ、顔も悪くないだろ。』だってさ。信じられる?」
「嫌なら断ればいいじゃん。」
自然と言葉に悪魔が宿る。きっと、酷い目つきなんだろう。
「うーん、そうなんだけどさ。」
「どうしたの。」
「あたしさ、一応告白されるの初めてなんだよね。」
なんだ、そうなんだ・・・と思った。
「だからさ、いくらいい噂を聞かない奴でも嬉しくてさ。もしうまくいく恋なら大事にしたいんだよね。」
突然の彼女らしさに、思わず顔を見てしまう。黒くて、まっすぐで、青い目。そうか、こんな目をしてたんだった。久しぶりに彼女の目を見た気がする。最近は横顔ばかり見ていたんだな。月の光が彼女を照らす。僕は彼女から目をそらした。
「まあ、評判なら私もよくないんだけどね。」
僕が初めて見た彼女は、頭からずぶ濡れで廊下を歩いている姿だった。その日は気持ちいいくらいの晴れの日だったので、彼女が驟雨に打たれたのではないことがすぐにわかった。
彼女の後ろには、彼女を嗤う二、三人の女子。あとの者は隠す気もなく二度見をする。僕もその中の一人だった。
「なんだよ。」
「ごめん、なんでもない。」
あまりに日常からかけ離れた光景。突っかかられても目が離せなかった。黒くて、まっすぐで、青い目。綺麗だと思ってしまった。
「ジロジロ見んな。」
何食わぬ顔で去っていく彼女の背中を、見えなくなるまで見ていた。あまりにも強い背中。高校二年生が持つ強さではなかった。それが少し悲しかった。
同情だろうか。彼女がずぶ濡れでなくても同じことを思えただろうか。
彼女のよくない噂はその日から流れ始めた。