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問題解決手法

■はじめに

企業における中長期計画の施策検討、業務改善、プロジェクトの再計画などを行う際に、現状を分析し、問題や課題発見から施策を立てることは、当たり前のプロセスとして理解している人は多いと思いますが、コンサルティングを通して、問題と課題を正しく理解し、整理している人が意外に少ないことに気づかされます。
正しい問題の定義と原因分析、それに対する課題の整理がされていないと、施策自体が間違ったものとなり、時間も労力もムダになります。

本記事では、今さら聞けない、問題と課題の違いから、正しい問題分析と定義の思考と方法について説明します。

<問題と課題の定義>

■問題と課題の違い

いきなりですが、以下は問題と課題どちらに該当するでしょうか。
1.リピート客が少ない
2.広告費をおさえてコストを削減する
3.アンケートの回答率が悪い
4.人材育成に力を入れる

正解は、問題が1と3、課題が2と4です。

言葉の意味を正確に理解せず(なんとなく理解している気になって)、曖昧に使っている人は意外に多いようです。
目標に向かって最短距離で実行するためには、まず、「問題」と「課題」の言葉を正確に理解していきましょう。

まず「問題」について説明します。

問題とは、ありたい姿や目標があり、その地点に到達していない現状とのギャップです、“解決しなければならないこと”です。

問題とは

例えば、ある企業は目標に“商品Aの売上高を昨年比20%増”を掲げていたとします。
半年経った現状は商品Aの売上高が昨年比50%で、このままいくと20%増は達成できない見込みです。
ここでの問題は、たとえば、「営業1人あたりの売上高が低下」といった、なぜ目標に到達できないかということが“解決しなければならないこと”になります。
一見、「商品Aの売上高が昨年比の20%増を達成できない」と問題定義しそうになりますが、20%増に届かない状態は結果であって、問題ではありません。

商品Aの問題定義

「問題」を取り違えてしまうというケースについてもお話しておきます。

主力商品Bのシェアが下がっているという現状があったとします。
原因分析をせずに担当者の思い込みで「商品自体が問題だから、商品の性能を改善しよう」という解決策を出したらどうなるでしょうか。本当に商品自体に問題があるのであれば、性能を見直すという解決策はムダにはなりませんが、なぜシェアが下がっているのか分析していくと、実は市場自体が縮小していることが問題だということが分かりました。
市場自体が縮小していてはいくら性能を改善してもシェアが戻ってくるとは限りません。本来の解決策は、事業シフトに向けて、既存ビジネスの縮小や、資源をほかの事業に充てるか、または撤退する、などといった内容になり、当初の思い込みで問題を見誤ってしまうと、時間もコストもムダな施策となります。

真の問題とは

「問題」が特定できても、その問題が誤っていれば、解決策もムダに終わりますので、最短距離で目標達成するためには、本質的な問題を見誤らないことが重要です。

次に、「課題」について説明します。
課題は、目標達成(ギャップを埋める)するためにやるべきことです。

先に挙げた商品Aの例で見てみると、問題は「営業1人あたりの売上高低下」でした。
なぜ営業1人あたりの売上高が低下しているのか原因を分析する必要がありますが、原因を特定したあとで、目標達成するためにやるべきこと「課題」が見えてきます。

原因分析と課題設定

上記より、課題発見には、問題から原因分析を行うことが重要なステップであることが分かると思います。
原因をはっきりと特定し、目標達成するための正しい対策を打ちましょう。原因を分析するための手法は後述にて紹介します。

「問題」「課題」の違いが理解できたところで、問題解決のフレームワークについてご紹介します。考え方である“思考編”と手法である“技術編”にわけてそれぞれ説明します。

<問題解決の思考>

問題解決の思考法として「ゼロベース思考」と「仮説思考」があります。

■ゼロベース思考

ゼロベース思考とは、先入観や思い込みにとらわれずゼロから物事を考える思考法です。
私たちはこれまでの経験や価値観、知識などをもとに物事を判断しがちです。
問題を解決しようとする際、これまでの環境や経験の枠の中で解決策を考えていないでしょうか?また、その中で思考を巡らせ、いつの間にか「きっとこうだろう」と思い込んでいることがよくあると思います。そういった状況では、既成の枠の中で解決策を出すにも限界があり、柔軟な発想ができなくなります。
ビジネスを取り巻く環境変化が少なく、企業の成長が安定している場合は、これまでと同じ思考で解にたどり着くかもしれませんが、消費者ニーズや働き方の多様化などビジネス環境が複雑化している現代では、イノベーションが求められ、新たなアイデアを生み出すゼロベース思考が重要視されています。

ゼロベース思考のポイントは「自分自身を客観視する」「顧客視点で考える」です。

「自分自身を客観視する」
ゼロベース思考の足かせは自分自身の先入観や思い込みといった既成の枠です。
過去の成功体験や失敗体験から無意識に物事を判断していることや、上司がこう言ったから、ある本ではこう書いてあったからと自分で枠を作り思考を狭めていることがあります。
「なぜ正しいのか?」「本当に意味はないのか?」と常に自分に問いかけ客観視することがポイントです。

「顧客視点で考える」
いろいろと考えていく中で何に重きを置いて解を出せばいいのかわかなくなることがあります。そのようなときは「顧客にとって価値があるのか」を念頭に考えてみます。

顧客とは商品やサービスを購入・提供するお客様だけではありません。総務や人事といったバックオフィスであれば全社員が対象になり、情報システム部であればシステムユーザが対象になります。

過去にヒットした商品やサービスであっても、現代の技術や価値観に合っていなければ売れないでしょう。過去の実績や価値観に固執せず、今、顧客は何を求めているか、顧客にとっての価値とは何かといった顧客視点で考えることがポイントです。

■仮説思考

仮説思考とは、今ある限られた時間と情報の中で最も妥当だと思える仮説(仮の答え)を立て、結論を導き出す思考法です。
ビジネスでは時間的な制約がボトルネックとなるため、限られた状況の中で成果を出すことが求められます。時間をかけずその時点で結論を持ち、実行(アクション)に移すことで効率的な問題解決に繋がることから仮説思考が重要視されています。

仮説思考のポイントは「実行(アクション)に結びつく結論であること」です。
具体的な実行に結びついていなければ、何の結果も得られず、単なる状況の分析や解説になってしまい、ビジネスでは意味を持ちません。

たとえば、以下のようなX事業とY事業の利益推移のグラフがあったとします。
これを見て「X事業の収益性が悪化し、利益は下降傾向にあるから改善が必要だ」と言われても、そのために何をどのようにすれば良いか、組織が共通認識できる具体的な実行がわかりません。

事業別利益推移

具体的な実行に結びつく仮説を立てるにはSo What?(だから何?)を繰り返し、実行可能なレベルまで落とし込む必要があります。

So Whatによる仮説立て

上記の例は、各事業の推移からX事業は撤退、Y事業に注力するといった結論を導き、Y事業は資金の投入と人材の配置を具体的な実行としています。
また、仮説の方向性が間違っていないか、各事業の市場動向についてデータ収集し、検証することで裏付けることができます。
仮説を立てることで、必要な情報も特定できるため、情報収集に時間を取られることがないことも仮説思考の利点です。

<問題解決の技術>

問題解決の原因を分析する際や解決策の策定時に、思考の広がりと深さを論理的に押さえるための技術として、「MECE」と「ロジックツリー」があります。

■MECE

MECE(ミッシー/ミーシー)とは、「ほかに考えられる原因はないか?」「解決策が重複してないか?」というモレやダブりがないかを考えることです。

モレがあることで、原因分析や解決策を策定するときに、重要な要素を見落とすこととなり、効果的なアクションには結びつきません。前述したゼロベース思考で「既成の枠」がある場合もモレにつながります。

また、ダブりがあることで、特定の要素を複数回分析するなどのムダや、解決策が重複し非効率な経営配分につながることになります。
モレとダブりをなくすため、必要に応じて前提条件を明確にし、人によって捉え方が異ならないようにしておくこともポイントです。

MECE検討前後

MECEを意識した原因分析や解決策策定は、既存のフレームワークを活用すると効率的です。以下は、既存のフレームワークの一例です。

MECEを意識したフレームワーク(一例)

■ロジックツリー

ロジックツリーは問題の原因や解決策を「MECE」の考え方に基づいて、ツリー状に論理的に分解・整理する方法です。
MECEのモレやダブりをチェックできる他、原因・解決策を具体的に落とし込むことができます。また、前後の因果関係を明らかにできるといったメリットがあります。

ロジックツリーの優れた点

問題に直面し原因を考えるときに、思い付きで手を打とうとすると、解決策が具体的であっても的が外れればムダになります。問題の本質を特定せず、間違った解決策を実行しないようロジックツリーを使って的を外さないようにしましょう。

■原因分析のロジックツリー

問題の本質を特定し、解決策につなげるためのロジックツリーは
「Why?」(なぜ)を繰り返すことがポイントです。

原因分析のロジックツリー

「問題」から考えられる「原因」を出し、“広がり”を押さえます。
さらに「原因」に対して、Why?と自問自答し、原因を深堀することで、“深さ”を押さえます。

また、Why?を繰り返すことで、根本的な原因を突き詰めることができ、解決策の方向性も見えてきます。

■解決策のロジックツリー

原因分析のロジックツリーにて根本的な原因である“解決すべき課題”が特定できたら、具体的な解決策に落とし込みます。
問題解決で重要なことは仮説思考でも出てきた、「実行(アクション)に結びついていること」です。アクションに結びついていない解決策は誰がいつ動けばいいのかわからず、原因分析の作業もムダになります。

解決策のロジックツリーでは「So How?」(だからどうする?)を繰り返すことがポイントです。

解決策のロジックツリー

■ロジックツリー作成時に意識すること

原因分析のロジックツリーと解決策のロジックツリーを作るときのポイントは、前述した「ロジックツリーの優れた点」を意識することです。
以下、3点を意識し、的外れな結論にならないようにします。

ロジックツリー作成時のポイント

■最後に

本記事では、今さら聞けない、問題と課題の違いから、正しい問題分析と定義の思考と方法について説明してきました。
繰り返しになりますが、最短距離で目標達成するためには、本質的な問題を見誤らないことが重要です。
問題と課題を正しく理解・整理することにより、複数人で行う取り組みにおいても議論が進み、正しい問題の定義と原因分析、それに対する課題の整理がされることで、施策自体の方向性も大きなズレをなくすことができると共に、時間や労力のムダも防ぐことができます。

ぜひ、ゼロベース思考・仮説思考の考え方を基に、MECEを意識したロジックツリーで問題解決に取り組んでみてください。

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