地方自治体は、来る人・買う人を選んでよい。というお話

中小企業診断士のフクダです。
こんなタイトルを付けると、少し前に物議を醸した「池田町の七か条」みたいに排他的な印象を受けるかもしれませんが、もっと戦略的なお話です。

「ない」ことの贅沢

しばらく前から、ある小さな町の地域ブランド産品作りをお手伝いしています。

私は以前からこの地域が好きで、たびたびバイクなどで訪れていました。美しい山里の景色と温泉があり、美味しいお蕎麦屋さんもあります。川沿いでは水遊びやBBQもできます。

昔よく訪れていた時は、「ある」ものにばかり目がいっていましたが、最近頻繁に訪れるようになって「ない」ものに気づきました。

この町には高速道路も大きな幹線道路もありません。新幹線も特急もないし、東京からの直通電車もない不便な場所です。

そのため、駅前の巨大なショッピングセンターも、幹線道路沿いにありがちな巨大看板のファストフード店、全国チェーンの飲食店、家電店、ディスカウントストアなどもありません。

非日常を味わいたくて旅に出たのに、見慣れた巨大看板を見て、いきなり「日常」に引き戻されてしまうことがあります。
この町にはそれがないのです。

「客筋」が店の命運を分ける

私は仕事柄、食に関係した経営者の方々とお付き合いが多く、中には食通の経営者も多くいらっしゃいます。
そういった方々とお話していると、よく「客筋」のお話が出てきます。

「あのお店は美味しいんだけれど、客筋が悪くなったので行かなくなった」
ちょっと有名になると、お金はあるけれどお行儀の良くない人や、同伴のお姉様ばかりになってしまう。
すると、それまで通っていた「良いお客さん」が、居心地悪くなって去ってしまうのです。

ある食通の社長さんは、銀座の老舗洋食店を贔屓にしています。丁寧なつくりで美味しいのですが、決して安くはないし流行りの店でもありません。同じような価格帯で見栄えの良いお料理を出すお店は沢山あります。
なぜそのお店を選ぶのか伺ったところ
「あのお店で食事すると、見たくないものを見ないですむから」

確かにそのお店は、品の良い大人のお客さんばかりでした。
あえて価格帯を高くしてハードルを上げることで、お行儀の良いお客さんしか来ないようにしていたのです。
富裕層のお店選びってそういうことなのか、と驚きました。

観光客の「数」を追うと起きること

同じようなことは、お店だけでなく町でも起こります。
年間何百万人、何千万人と観光客が訪れる大観光地は、お客さんを選べません。中には来て欲しくないようなトラブル客も混ざります。
観光政策の成果指標はどうしても「数」になりがちなので、とにかく人を集めたくて無料イベントをした結果、タダ目当てのお客さんばかりでくたびれ損、という話はよく聞きます。

大観光地ならば体力勝負でこういった全方位戦略ができますが、小さな自治体は使える予算も人材も限られます。
いたずらに来る人を増やすのではなく、町にとって「来て欲しい人」に絞って、メッセージを送る必要があるのです。

町に来てほしいのはどんな人?

この町で地域ブランド産品に関わる方々に、「どんな人達に、この町に来て欲しいですか?」と尋ねてみました。
すると最初に、「来て欲しくない人たち」の話が色々出てきました。

キャンプやBBQでやってきて、地元にお金を落とさず、ゴミだけ落として帰っていく人。
アウトドアで羽目を外して、騒音を撒き散らす人などなど。
「客筋の悪い町」に来る人々ですね。

逆に来て欲しいのは、地域にお金を落としてくれる人、マナーの良い人、センスの良い人、この町の良さを分かってくれる人たちです。

そこで、この地域産品に関わる方々と
「良いものを分かってくれて、品質に合った価格で買ってくれるお客さんに絞って、この地域ブランド産品を広めていこう」
という方針を決めました。
無料イベントはしない。無料配布もしない。飲食店も安売りはしない。
少人数でも、分かってくれる方に適正価格で販売していこう、という方針に落ち着きました。

「客筋の良い町」を目指す

実際にこの町は、「あるものとないものの贅沢」に気づいたセンスある人々が集まりはじめました。
芸術家、デザイナー、料理研究家、写真家、WEB関連など、会社勤めでない自由な職業の人達が移住したり、週末の2拠点生活を始めました。

若い人たちが、おしゃれなパン屋さんやカフェ、セレクトショップなどを開いて人気になっています。休日にはこのお店を目当てに訪れる人も数多くいます

観光客向けの施設やお店も、比較的価格帯は高いものの、デザインやセンスの良い温泉やキャンプ場が増えました。
観光客の数はメジャー観光地ほどではないものの、「客筋の良い町」になっています。

ないものを生かして、人数を追わず、高付加価値の商売が成り立つ町。
これは地方自治体の方向性としてありだと感じています。


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