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小説 スーパーマリオにのめり込みすぎた小学3年生の末路

起 四角い電子機器と、初老男性との出会い

 小3の夏休み、私は待望の3DS を買ってもらった。年齢的にも世代的にも、大人気だったdsを持っている者は一目置かれる傾向にあったので、これからは選ばれし者として見える景色が変わるぞと意気込んでいたかは覚えていないが、とにかく喉から手が出るほど欲しかったdsに、私は爆発しそうなくらい興奮していた。 
 メタリックのようなキラキラした青のコンパクトなボディーに、高鳴る鼓動を押さえつけ、ふたを開く。カチッという小気味良い音を立ててカセットを入れ、電源を入れる。ソフトは王道の「スーパーマリオ」を選んだ。でもこれは今までのマリオとは違う。従来マリオは横移動しかできなかったが、この「3Dワールド」では映像が立体的になっていて、マリオの動ける範囲が広がっている。前後移動もできる。
 ポップな音楽が流れ、画面上に世界中から愛されているあの初老の男性が軽快に登場した。年齢を感じさせない身のこなしに感動がこみ上げる。ついにこの瞬間がきた!私のテンションは最高潮だった。慣れない操作に戸惑いつつも、「ワールド 1-1」に挑戦してみる。 
…楽しい。楽しすぎる。達成感やばい。たぬきになって空飛んでた。なんか木とが登れちゃった。どうしよう。楽しすぎる。一日一時間の約束なんて守れたもんじゃなかった。新しい技術習得と外敵防御に一時間は短すぎた。

承 どチートをかます小賢しい小3の誕生

 やっている途中に気づいたことがある。それは、五回連続でミスると無敵になり、十回連続でミスるとゴールまで一飛びできるアイテムが出てくるということだ。1つのステージに手こずって次に行けないことがないように、という任天堂側の粋な計らいだろう。 
 ところで当時の私はとにかく好奇心旺盛だった。早く進みたい。どんな世界で、どんな音楽で、どんな敵がメインなのか、そればかり気になった。
 だがその未熟さが間違いを引き起こした。早く進みたいあまり、始まるやいなや、マリオの立っている山やら産やら乗り物やらから投身自殺を図った。手っ取り早く無敵マリオになって、ゴールまで難なく進む作戦だ。そう、私はまさに「ザ 邪道」を突き進んでいたのだ。
 ・・・それでもマリオは怒らないし泣かない。毎回笑顔で「イヤッホォホホオオオオウウウ!!!!!!」と叫びながらなんの躊躇いもなく落下していく。私は若干申し訳なさも覚えつつ、その機能のお陰でステージ全クリを果たした。

転 私の強みは課題解決力であります

 だがそれで終わりではなかった。「ワールド」ステージが終わると、それと同じ要領の「スペシャル」ステージも存在していたのだ。スペシャルでは、敵やコース、アイテムがワールドのそれらよりもバージョンアップしている。
 けれども私の作戦は変わらない。「S1ー1」、ピンク色の夕焼けに背を向け、開始直後に五回連続落下した。「イヤッホォホホオオオオウゥゥ!!!!」6回目、無敵アイテムが出てくる。
 …はずだった。あれ、おかしい。出てこないな。何でだろう。数え間違いかな?もう一回落ちておこう。「イヤッホオホホオオオオウゥゥ!!!!」ところが、何度ミスしても同じだった。私はパニックになって、何度も落ち続けた。「イヤッホオホホオオオオウゥゥ!!」やめて、嘘だと言って。出てこないとかありえない。だって私は、もうあれがないとやっていけない身になってしまったのだから!「イヤッホオホホオオオオウウウ!!!!!」「いやああああああぁぁぁ!!!」
 
というような葛藤が、私の心の中で繰り広げられたかは覚えていないが、絶望の中で私は現実を悟った。スペシャルでは、無敵マリオは一切出てこない仕組みになっていたのだ。全て自分の力でクリアしなくてはならない。私は急に任天堂から見放されたような気持ちになった。心なしかマリオまでも私をあざ笑っているかのような表情をしていた。それに「スペシャル」では、真っ黒のマリオの分身とやらが追いかけてきたり、制限時間が極端に短かったり、クッパが骨のみのいかついビジュアルになっていたりと、精神的に追い込まれることが多かった。 
 しかしここで泣き寝入りするわけにはいかない。私はまず本屋に出向き、攻略本を購入した。ここには全ステージのポイント、裏技などが、さながら英文読解の解説本の如く事細かに記載されている。その日から私はそれを熟読し、その学びを現場での実踐に役立てた。ジャンプの A ボタンとダッシュのYボタンが埋没していくほど毎日やりこんだ。ちなみに「解説本」というジャンルで言えば、こんなに真剣に読み込んだのは最初で最gおっと接続が、
 今まで私は無敵アイテムに甘えていたのだ。敵を倒しながら進むのが醍醐味のマリオなのに、そもそも敵を寄せ付けない格好で歩いているなんて言語道断だ。これまでやってきたことは反則のようなもので、マリオプライドに反する行為だったと私は大いに反省した。

結 私(マリオ)に越せない壁はない

 そして私は、ついにマリオプレイヤーの巨匠と言われてもおかしくないほどにまで成長を遂げた。「スペシャル」も全クリした私は、もの足りなくなり、これまで保存してきたデータをすべて削除して「ワールド」からすべて自力でクリアすることを決意した。この時点でかなり熱達した技術を持っていた私にとって、幼き頃の思い出に別れを告げ、新たな道を歩み始めることに躊躇はいらなかった。
 ピーチが再び攫われる。マリオが再びクッパの城に戦いに行く。物語とプレイヤーは同じでも、その技のなす所にはもはやかつての面影もないのだ。dsのボディーも、メタリックブルーからパステルピンクに変わっている。初期の画面の小ささによる視力低下を懸念した母親が、二代目を購入したのだった。
 もう、何があっても動じない。物語上のトラブルにも眉一つ上げず、無表情でボタンを連打する。これが巨匠だ。画面上では素マリオが元気よく動き回り、一切の無駄な動きなく敵をなぎ倒し、最短最速でクリアする。そして全コース全ステージを全て自力でクリアした。残りのライフ「xOO」は※3000を超えたため、なぜかマリオが帽子を脱ぐという恩恵も受けた。そして厳しい条件で全ステージをクリアした者にしか現れない秘密のステージも登場し、それもクリアした。
 
 これこそ甘えから巣立つということだ。これがたぶんいいかんじにのちのちの人生に生かされてくるだろう。そのためにまずは食べて寝よう。そしてそれから考えよう。とりあえず読んでくれた人がいたらスキが欲しいです。コメントもくれたらさらに嬉しいです。この経験をめっちゃいいかんじに生かすためのモチベーションになりそうです。

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