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導く女の子

以前大阪にいた頃の話。駅直結のビルの地下にある居酒屋の調理場で私は働いていた。その居酒屋は地下の飲食店の中でもあまり目立たないような場所にあったがなぜだか結構なお客様が来て繁盛していた。特にある時期は大入りが出たほどお店は賑わっていた。

 お店は11時から15時までランチをしていて夜の営業は17時から23時まで。その間の2時間はお店を閉めて従業員の休憩時間となる。あるものは座敷で寝たり、あるものはお喋りをしたりして各々の時間を過ごしていた。

普段なら私もその輪に加わるのだがその時はなぜか調理場で1人携帯をいじっていた。蛍光灯に照らされた下で携帯のゲームか何かをしていた。

その時

「ん?」

不思議な感覚が左手に伝わった。携帯を持っていないだらんとしていた左手、その左手に何かが触れた感覚があった。そこに目をやるとそこには赤い着物を着た肩まである黒髪の小さな女の子が立っていた。その女の子が私の手を握っている。

誰だろう?

と思い顔を見ようとしたが女の子は私の手を握ったまま前に一歩進んだので顔が見えなかった。私の手を強く握っているわけでも無かったがこっちに来てと言う意思表示は伝わった。私は疑うことも無く彼女の後を手を引かれながらついていく。

2人は調理場の裏口から従業員の通路まで出た。通路の左手には一階に上がる階段があったが彼女はその階段には目もくれず階段前まで行くと私の手を離してそのままどこかに行くかのようにスゥーと消えていった。

「・・・・・」

私は訳がわからずしばらくその場に立ち尽くしていた。だが彼女の意思と意図はしっかりと伝わっていた。

私もここを出るからあなたもここを出た方がいい・・・

と。

何の根拠も無かったが私はあれだけ繁盛していた居酒屋を辞めて別のホテルで働くことにした。

不思議な事にその居酒屋は突然の営業不振になり、半年ほどで潰れることとなった。

その時に私は思った。

ああ、座敷童子って本当にいるんだな・・・

と。

しかしなぜ彼女が私にその事を教えてくれたのか未だに分かってはいないが、私はその後また彼女と出会うことになる。

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