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幽霊エンジン

何年か前の事。仕事を終わらせた私と同僚はくたくたになった作業着を来て道路の横をトボトボと歩いていた。
 時間も夜8時を回っており辺りはいつのまにかすっかり暗くなり、私達の横をヘッドライトを照らす車が何台も横切っていく。

「なぁ、明日の・・・」

と私が明日の準備はどうなってるのか?と振り返って同僚に聞こうとした時、私の言葉はそこで止まった。何か奇妙な音が聞こえる。音はだんだんとこちらに近づいてくる。

バタバタバタバタ

何か柔らかいものが硬いものを叩いているような音。その音が何層も重なっているような感じだった。

バタバタバタバタ

「え??」

その音はもうすぐそこまで迫って来ていた。その音の主。それはこちらに向かってくる車だった。ヘッドライトをこちらに浴びせながら走ってくる。ただ一つおかしいのはその車の車体の下が妙に青白い。

バタバダバタバタバタ

その車が私の横を通過しようとしていた。車は最近では見ないような角のしっかりとしたカクカクとした感じの昔の車だった。そしてその車が通り過ぎようとした時私は思わず声をあげた

「え??」

先程見た車体の下の青白いもの。それが後ろから見るとはっきりと確認できた。

それは車体の下から生えるように伸びる、いくつもの青白い人の手。その手がバタバタと手のひらを地面にあて、そして指でグッと押すようにして車を動かしているかのようだった。その手は50本以上あるように見え、全部不規則に動いていた。なんとなく動いた後にふわっと青い残像のようなものが残りそれが煙のようにも見えた。

バタバタバタバタ

次第に車は私達から遠ざかって行き、やがて見えなくなった。

あの車は一体どこに運ばれていくのか、それともあの車自体この世に存在しないものだったのか。

あれ以降、運ばれる車を見る事はない。


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