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免疫力を強くする 【読書感想】

「免疫力を強くする」と謳う健康食品やサプリメントは多数あるが、医学的に信頼できるエビデンスを持つものはほぼ皆無である──。

このような警鐘を鳴らす本書。結論から言うと、免疫力を強くするには血流やリンパの流れをよくすることがサプリメントよりずっと役に立つ。そしてストレスをなくすことだ。具体的には、ゆっくりと呼吸をしながらウォーキングやヨガなどの筋肉運動をする、あるいはゆっくりと体温を上げる。

ただし、詳細は後述するが、この場合の上がる免疫力というのはからだの防衛能力の全体のことで、一部の細胞が活発になるとか「部品」の話ではない。

免疫系の特徴に目を向けると理解しやすい。肝臓、腎臓、膵臓などの組織ではすべての大事な細胞が一つの臓器中に存在するのに対して、免疫系では免疫細胞がつくられる一次リンパ組織(骨髄・胸腺)と、免疫細胞が実際に機能する二次リンパ組織(秘蔵、リンパ節など)が地理的に離れている。

これらの組織の間を、血管とリンパ管がつなぐことで、様々な組織を通って免疫系の機能を維持している。したがって、これらの細胞の往来をスムーズにしてやれば、その分免疫系全体の能力が高くなるということになる。

免疫系を形成する組織および器官(一次リンパ組織と二次リンパ組織)
出典:JBスクエア

そもそも免疫系はかなり個人差がある。少数の有名人が「良くなりました!」という広告は新聞やテレビで数多くあるが、信用は出来ない。(そもそもお金をもらってるというのは置いておいて)

薬の有効性の証明は本来厳しい試験を突破する必要がある。

例えば、ブラセポ効果を取り除くために被験者と観察者双方に薬を伏せる「二重盲検法」(ダブルブラインド)が必要になる。用量依存性(投与量が変われば効果が変わるのか)、時間依存性があるかも確認しなければならない。


二重盲検法のイメージ
出典:User Life Science

しかし、健康食品のデータは単一用量や単一タイムポイントのデータしか示していない。また、著者が観たところそういった業者の示す「論文」にも疑問がある。例えばキノコや海藻に豊富に含まれている「βーグルカン」があり、一般的にはこれが免疫力をアップすると広告されている。

しかし、βーグルカンの論文を実際に検討すると、マウスの実験がほとんどで、さらにとても経口で接種できないほどの大量に投与しているのが大多数だ。そもそもβーグルカンは分子量に応じて働きを変えるのでなかなか簡単ではない。βーグルカンが大量だから身体にいいとも言えないのだ。

私の体験だが、父ががんになった時に、日本でもがんの治療で高名な病院で診察させてもらい、そこで「日常の食品などで役に立つものはないのか?」と聞いたのだが、その際には「ない」と答えられた経験がある。

栄養不足を補う目的のサプリメントはわかるのだが、免疫力UPなどを謳う健康食品の市場がデカいのはなかなか怖い話である。

免疫力は強くできるのか?

そもそも免疫力とは何か。それを科学的に測定できるのか。

実際のところ免疫系には「細菌やウイルスを追い出す」「寄生虫感染を防ぐ」など多種多様な機能があり、関与する細胞がおおよそ決まっているもののそれらが相互作用している。つまり個々の細胞だけ見ても免疫全体の機能は判断できない。採血をしても、リンパ球など98%が血液を循環していない細胞も存在する。採血による検査も他に簡単に免疫細胞を摂取できる材料が存在しないからだ。

このように免疫能力の検証が容易でない中でも、免疫学者である筆者が自信を持って言えるのが「ワクチン接種」。現在、存在する医薬品の中では最も確実に免疫力を上げる。

感染症を防ぐ身体の仕組み

病原体とは病気を起こす微生物のことで、感染症は病原体によってもたらされる病気のことである。しかし私たちの体には病原体の侵入・拡散を防ぐさまざまな仕組みが存在する。

例えば、皮膚表面の角質、気道や腸管の内側の粘液、口の中の唾液、目の表面を覆う涙などは病原体に対する殺菌性を持った物理的なバリアーだ。

そしてこれらのバリアを突破しても、組織に住み着いている白血球(マクロファージや樹状細胞など)が殺菌性物質を放ったり、病原体を食べてくれる。足りなければ血管を介して新たな白血球が運び込まれる

このような仕組みを合わせて「自然免疫(機構)」という。

さらに自然免疫機構を突破して体内に侵入してきた病原体に対抗する仕組みがある。

それが、一度侵入した細菌やウィルスを記憶し、次に同じ病原体が侵入した時に反応して攻撃する仕組みを「獲得免疫(機構)」だ。この2段構えで排除する。


免疫の仕組み(出典:免疫療法コンシェルジュ

獲得免疫は自然免疫より高度な仕組みであり、これを利用したのがワクチンとなる。これらの仕組みからなる免疫の強さが、「病原体の量」×「感染力の強さ」からなる病原体の強さと対抗することで勝敗が決まるのだ。

本書の所感ーワクチンは概ね有効だが、リスクも救済策の問題もある。

さまざまな言説が飛び交う新型コロナウイルス界隈の話にうんざりし、一度しっかり仕組みを理解しよう!と思って本書を手に取った。

新型コロナ前に出た本であるため、主に「健康食品」をやり玉に挙げているが、それでも基本的にはこれらに意味がなく、ワクチンが感染症に対抗するベターな対策であることが分かったと思う。

ワクチンが全く無害というわけではない。ただ、現実的には摂取できるワクチンで、重大事故が起こる確率はとても低い。例えば子宮頸がんワクチンの場合は100万回に1~10回程度で、飛行機が墜落する100万回に9回よりもやや低いと言える。

とは言え、「ワクチン=(100%)安全」も誤りである。筆者は必要性が低い病気などに対して無理に打つ必要はなく、実際に日本脳炎に対してはウイルスを持つ蚊がほぼいないことから「無理に打つ必要はないのではないか」といったトーンで話している。

(もちろん、麻疹や結核、破傷風などほとんどの感染症に対してはワクチンの有効率や感染の確率などを示して、打った方が得という話をしている)


ワクチンを接種した後に起こるあらゆる好ましくない健康上の問題のことを「有害事象」といい、その中でワクチンが原因で起きたものを「副反応」というが、これらは見えにくい。

特に我が国においては、ワクチン接種後の健康被害は厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会)が判定することになっている。ワクチン接種の立案・実施に関わる厚生労働省が、そのリスクを評価する時点で中立性が損なわれていると言えるだろう。

この審議会のメンバーも厚生労働省が選ぶし、選考過程は外から見えない。結果、500万円以下ではあるが、ワクチンメーカーから資金提供を受けている研究者も参加することがある。

実際、ワクチンの副反応・有害事象による救済策は障害年金や障害児育成年金まで用意されているが、評価が厳しくかなかな支給されていない傾向にある。

「情報不足のため、ワクチン接種との因果関係は不明」という結論がしばしばみられることに筆者は苦言を呈している。平成29年のワクチン関連で給付があったのは112件のみであったし、ほとんどは医療費と医療手当の支給のみだった。こうした姿勢は改めていくべきではないかと思う。

「ワクチンはゼロリスクではなく、健康な人に国が推奨するものであるから、健康被害があれば大きな非難が挙がるのは当然」

難しい本だった

正直に言うと、生物の教科書の内容をほとんど忘れていたこともあり、内容が難しいなと感じた。理解できないというか読み飛ばしてしまった部分が多いため、また再度チャレンジしたいと思う。後半の癌の話はあまりついていけなかった。

図もたくさんあり、さすがはブルーバックス。免疫に興味がある人にとっては素晴らしい本だと思う。

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