トラウマ治療の国際的な専門家、ジェニーナ・フィッシャーの話

以下2つの動画でジェニーナ・フィッシャーが話している内容を紹介します。とても分かりやすく、大切な話だと思うので。

Dr. Janina Fisher: Recognizing Trauma
Dr. Janina Fisher: Recognizing Trauma - YouTube

「死んでしまいたいと思ったり、眠りについてもう二度と目覚めなくていいと思うとき、また、アルコールを飲みすぎたり、ギャンブルをやりすぎたり、何等かの依存行動を続けているとき、自分では良くないことだとわかっているのにやめることができない時、それらはトラウマ症状である可能性があります。

ほんの少しでも自分でそれに気づいた時は、しばし思いとどまって情報にアクセスして、あなたの感情や問題を理解してほしい。悪いのは自分なのだと思ったり、気が狂いそうだと感じるのは、トラウマを受けた人にとって、非常に正常な、普通の症状であるとお伝えしたいと思います。」

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トラウマ治療モデルの統合について
Dr. Janina Fisher - Intro to Integrating Treatment Models - YouTube

1989年は、トラウマ治療がまだ始まったばかりでしたが、当時から治療に携わってきました。1980年代、90年代には、トラウマ治療というものは、存在していませんでした。

児童虐待、性的暴行、戦闘、家庭内暴力など、一般的な人生経験(残念ながら一般的と言わざるを得ないのですが)は、長期にわたって、トラウマの影響があることが明らかになっていました。しかし、どのようにトラウマを治療すれば良いのか、わからなかったのです。

フロイトが提唱した対話による治療は行われていたので、トラウマを受けた人々に、体験した出来事を話すように促していました。しかし結果的に、話すことによって、悪化したり、恥じる気持ちにとらわれたり、希死念慮をもつようになることが多かったのです。

これらの様々な問題を解決するために、あらゆる治療モデルにおける、あらゆる技法・介入・考え方を統合して、それらをうまく機能させながら治療を行ってきました。

認知行動療法(CBT)や、カール・ロジャーズのミラーリング(Rogerian Mirroring)も、トラウマ治療として用いられてきました。私たちは、口うるさくもないし、孤立してもいません。トラウマ治療にはどのモデルが優れているかと比較しているわけでもありません。ただ、トラウマ症状に本当に苦しんでいる人々をどのように助けるか、ということが重要なのです。

当時から30年が経過し、トラウマ治療の世界は、様変わりしました。現在トラウマとは、頻繁に起こりうるものだと世界的に広く認知されています。私たちは、トラウマが生じる時代に生きていて、全ての人にトラウマの影響があります。

トラウマ治療の世界では、非常に多くの治療法が存在していて、それぞれの治療法は、エビデンスを示しながら、その治療法の正しさを主張して、クライアントを呼び寄せます。

私(Janina Fisher)は、少し時代遅れの人間で、かつてトラウマ治療における方針であった「人々に効果があるのであれば、どのような治療法であっても使用すべきだ」という考えを持っています。トラウマをもつ患者に何が役に立つのか、彼らに何が必要なのか、ということが問題なのです。

様々な治療法を対立させるのではなく、どのように統合できるかを考えています。セラピストには、ひとつの手法だけでなく、さまざまな手法を柔軟に、創造的に使ってほしい。

EMDRのトレーナーから、手法が役に立たないときは、上手く工夫して使用するように助言されました。全ての治療法には、すばらしい効果があるが、セラピストがどんなに手をつくしても、その効果が及ばない患者も必ず存在します

私(Janina Fisher)は、1995年からEMDRのセラピストであり、1999年からはEMDR国際協会の認定コンサルタントですが、EMDRは、ほとんどのクライアントには効果があったが、わずかの割合で、苦しみ、無気力になり、圧倒され、機能不全になる人々がいました。

そこで、べッセル・ヴァン・デア・コーク(『身体はトラウマを記録する』著者)に触発されて、センサリーモーター・サイコセラピー(SP)を学びました。

EMDRに効果のなかった数パーセントの患者に対して、身体を中心としたセラピーを行ったところ、彼らは落ち着き、正常化しました。彼らは、正式な方法によるEMDRには耐えられなかったが、センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の一部をうまく取り込んだEMDRには耐えることができました。

センサリーモーター・サイコセラピー(SP)は、多くの患者に対して非常に良い効果がありました。身体という言葉に拒否反応がある一部の患者には、身体という用語を使わずに適応し、大きな効果を得ることができました。

精神分析療法にも、センサリーモーター・サイコセラピー(SP)を取り入れたところ、効果がありました。

内的家族システム療法(Internal Family Systems Model:IFS)においても、パーツ心理学を統合することで、より大きな効果があることが明らかになっています。

セラピストが自身の専門を選択して実践するとき、「私はEMDEのセラピストです/IFSのセラピストです/SPのセラピストです/SE(ソマティック・エクスペリエンス)のセラピストです/エネルギーのセラピストです」等と名乗りますが、どんなに手を尽くしても、それらの治療法に耐えられなかったり、回復していかなかったり、全く効果のないクライアントが必ずいます。その時に、ひとつの治療法の他に、他の治療法の要素を取り入れることで、クライアントだけでなく、セラピストにも良い影響があります。

セラピストがあらゆる手を尽くしても、クライアントがなかなか回復していかないとき、自分自身について悩むセラピストが多いですが、セラピストが用いている治療法について疑問を持つ人は少ないようです。

そこで私(Janina Fisher)の提案は、1990年代はじめに行っていた様々な療法を統合してトラウマ治療を行うことであり、それは現在、多くのセラピストが複数の治療法を学んでいるので、それらを統合することは、非常に効果のある賢明な方法であると思います。

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(感想)
トラウマ治療として、一つの治療法だけでなく、様々な手法の良さを柔軟に取り入れた方が良い、というのは、セラピストに対してだけでなく(もちろん、セラピストの方々にはそうあって欲しいですが)クライアントの立場でも同じように思います。自分に合った方法を探して、良いと思った治療法の要素を取り入れていくことで、より自分に合った方法で回復していくことができると思います。

心理学の分野は細分化されて、様々な名前が付けられ、その専門を名乗って仕事をされる方々が多いようです。様々な資格があるので、資格を取らなければ名乗れない、資格がないのに名乗ることはできない、ということもあるでしょう。

それでもセラピストの方々には常に、クライアントが良くなることを最優先に考えて欲しいし、個別のクライアントに必要だと思われることを臨機応変に取り入れて欲しい。クライアントは、苦しい思いを抱えながら、なんとかしたくて、高いお金を払ってセラピーへ行くのだから。

何かの本で読んだか、動画で聞いた言葉ですが(出典を探したけど見つからないので、見つけたら加筆します)「セラピーとは、オーダーメイドの一品料理をつくるようなこと」といった言葉がありました。

私自身もそういう思いで、いかに深く自分を癒していけるか、どこまでそれができるのか、この先も様々な療法を学び続けたいと思います。

自分の知らなかった世界で、何十年にもわたり、このような研究が進められていたことを本当に心強く感じるし、様々な治療法を学ぶことで自分が癒されていくような、そんな希望を持っています。