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仮説:確率加重関数の解釈と応用

この記事が提供するもの

累積プロスペクト理論は、規範的ではなく記述的なモデルの提供を目指した理論であるため、数式の構成に厳密な意味での必然性はありません。

それにも関わらず、累積プロスペクト理論は近年行われた大規模追試で強い再現性を(しかも国や言語の壁をかなりの程度乗り越えて)示しており、信頼がおけるモデルだと言えます。
参考:Replicating patterns of prospect theory for decision under risk

そうなると、モデルを日常生活に応用したくなるのが人情です。

そのようなわけで、この記事は累積プロスペクト理論の日常への活用を推進する一環として、累積プロスペクト理論のモデル内に含まれる確率加重関数をどのように(特に$${\gamma}$$について)解釈すれば良いのか、その解釈にもとづくならばどのような応用が可能か…について、筆者の考えを示すものです。

累積プロスペクト理論の大雑把な構成

人がどのように意思決定を行なうのかについて説明を試みるモデルです。
以下、ある主体が行なう意思決定を累積プロスペクト理論がどのように説明しているか、概略を示します。

ある主体が行おうとする意思決定を、「編集」と「評価」という2つの段階に分けて考えます。
「編集」段階の意思決定主体は選択肢を認識し、参照点を(無自覚的に)決定します。
その後、「評価」段階で意思決定主体は各選択肢について「プロスペクト」と呼ばれる値がどれくらいかを評価し、もっともプロスペクトの高い選択肢を選びます。
ある選択肢のプロスペクト$${V}$$は、その選択肢を選ぶことにより生じうる不確定な結果$${x_i}$$が$${n}$$通りあり、$${i}$$番目の結果の発生確率が$${p_i}$$だとすると、次のような式で求められます(累積プロスペクト理論では)。

$$
V(x_1, p_1;…x_n,p_n) = \sum_{i=1}^n v(x_i) \cdot \pi(pi)
$$

ここで$${v(x_i)}$$は$${i}$$番目の結果が起こった時の、主体が感じる価値(効用)を示す関数、価値関数です。
また、$${x \geq 0}$$の時$${v(x) = x^\alpha}$$、$${x < 0}$$の時に$${v(x) = -\lambda(-x)^\beta}$$ですが、この記事ではこの詳細を掘り下げはしません。

本記事の主題である確率加重関数は右辺の$${\pi(p_i)}$$です。
この$${\pi}$$は円周率とは無関係なことに注意してください。

確率加重関数の紹介と解釈

累積プロスペクト理論での確率加重関数は、下記のように定義されます。

  1. $${\pi_n^+ = w^+(p_n), \ \pi_{-m}^- = w^-(p_m)}$$

  2. $${\pi_i^+ = w^+(p_n + … + p_i) - w^+(p_n + … + p_{i+1})}$$

  3. $${\pi_i^- = w^-(p_{-m} + … + p_i) - w^-(p_{-m} + … + p_{i-1})}$$

ここで3つの式それぞれの意味解説は省略します。
興味があれば確率加重関数の理論的展開(2013,  中村)を参照してください。
注目していただきたいのはどの式も右辺に$${w(p_\square)}$$という関数が登場することです。
この$${w(p_\square)}$$は、事象$${\square}$$の発生確率について、

  • 入力:(神の視点から見た)客観的な確率

  • 出力:主観的な確率 (意思決定主体は何%と予測するか)

…という変換機能を提供します。

最も標準的な$${w(p)}$$の定義は、次の通りです。

$$
w(p) = \frac{p^\gamma}{\sqrt[\gamma]{p^\gamma + (1 - p)^\gamma}}
$$

この$${w(p)}$$が本記事の主題です。
見ての通り、$${p}$$と$${\gamma}$$という2つの変数のみで構成されています。
$${p}$$は客観的な確率値です。
「じゃあ$${\gamma}$$は何なのか?」
という疑問について考える前に、まずは$${p}$$と$${\gamma}$$をさまざまに変えた時の$${w(p)}$$の変化をグラフで見てみましょう。

上のグラフには計7本の線が引かれていますが、色によって3つのグループに分けることができます。

  • 青系統の色の線:$${\gamma < 1}$$

    • $${p}$$が低い場合には主観的確率予測値 > 客観的確率となりやすい

    • $${p}$$が高い場合には主観的確率予測値 < 客観的確率となりやすい

  • 黒色の線: $${\gamma = 1}$$

    • 主観的確率予測値 = 客観的確率

  • 赤系統の色の線: $${\gamma > 1}$$

    • $${p}$$が低い場合には主観的確率予測値 < 客観的確率となりやすい

    • $${p}$$が高い場合には主観的確率予測値 > 客観的確率となりやすい

グラフを見るに$${\gamma}$$は「意思決定主体における確率変化兆候に対する敏感さ」と解釈できると、筆者は考えています。

また、The probability weighting function(Prelec, 1998)などで示されているように、$${p}$$と$${w(p)}$$は、多くの場合で$${0.3 \leq p \leq 0.4}$$の範囲で交差することが知られています。
ここから、多くの場合で$${0.5378 \leq \gamma \leq 0.7401}$$と期待できます。
これを利用して先ほどのグラフの線を減らすと、多くの場合において我々は下図のような確率評価バイアスを持っていると予測されます。

確率加重関数の応用

日々の暮らしや業務では、

  • 複数回発生していて

  • 今後も発生するかもしれないけれど

  • 客観的な確率$${p}$$は未知だし

  • その推計を行なうための材料も揃ってない(揃えるコストが高い)

…という事象に出会うことが少なくありません。
筆者は、このような状況へ確率加重関数の逆関数を適用できないかと考えています。

つまり、確率加重関数自体を客観的確率への判断バイアスの一種と捉えて、バイアス混みの主観的確率にその逆関数を適用することで、バイアスを除去した主観的確率が得られるのではないかというわけです。

  • $${w(p)}$$:意思決定主体による主観的確率

  • $${\gamma}$$:0.5378 〜 0.7401

…という前提で逆算した$${p}$$を、意思決定主体の経験や観測に基づいたバイアスの少ない主観的確率と評価できると、筆者は考えています。

近似解を出すプログラムの関係上、グラフが少しガタついていますが、概ね次グラフに示すような対応関係となります。

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