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夏夜に咲く | #夏の想い出 ショートショート


肌にまとわりつく、ぬるい空気。

息を吸う度に入りこむ、湿度。

遠くから聞こえる、セミの鳴き声。

高いところから射しこむ、太陽の明るさ。


意識が戻るにつれて、私に、夏の朝が訪れる。


「もう朝か...」


少し濡れた肌で、体調を確認し、

意識を戻した私は、

目覚ましが鳴らない様に設定を消し、

吸い込んだ空気をすべて吐き出しながら、

ゆっくりと立ち上がる。



昨晩の雷雨が嘘のように、雲一つない空。


私は空を窓越しに見ながら、

『天気が心配だったけれど、夏祭りありそうだね。』

『前に言ってくれた様に、時間通り行くね。』

とLINEを打つ。


返信を待ちながら、

コーヒーとパンを咀嚼し、心身を満たす。


すると、

『良い天気になって、良かった!😊花火も見れそうだね。』

『うん!○○駅で、18時に!👍🏻』

と、あの人らしく、絵文字付きの返信。


私は、OKと描かれたお気に入りのスタンプで返す。

すぐに既読が付いた。


それを見て、私は、ゆっくりと椅子から立ち上がりながら、自室に戻る。


自室に、そのまま置いてあった、先週、買った浴衣を吊るした。

専門店で買った訳ではないが、

自分なりに吟味して買った、

紺地に、大きな白い朝顔が描かれた浴衣。


しばらく、眺めていると、ノック音が聞こえ、母が顔をのぞかせた。


「今日は、その浴衣、着て行くんでしょう?着替える時、声かけて。手伝うから。」


私は、「うん、ありがとう。声かけるね。」



そう、私は、この浴衣を着て、今晩、夏祭りに行く。


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先々週のある日。

思いもよらず、ある人から、

『再来週の日曜日、夏祭りがあるんだ。一緒に行かない?』

と、夏祭りのURL付きで、連絡が入った。


私は、夏祭りに馴染みはなかったが、

少し行ってみたいなと思ったので、二つ返事で答えた。

すると、あの人は、

『ありがとう!😊じゃあ、当日、○○駅で集合でいい?』

と、返信が来た。

その後、待ち合わせについて、時間と場所を決めた。



その夏祭りは、様々な露店が開かれるのもさることながら、

夏祭りの終盤に、花火が盛大に打ち上げられることで有名、

とHPに書かれていた。


「花火か...久しぶりだな...」

思わず、呟いた言葉と共に、幼少期の記憶が始まる。


打ち上げ花火を最後に見たのは、幼稚園に通っていた時。

地元の花火大会に、家族全員、慣れない浴衣姿で、

父が私の手を握りながら、身に連れて行ってくれた。


あの時は、とても大きな音と光に、初めは驚いたが、

その美しさに、見とれてしまった。


あの美しい花火を再び見ることができる。

自然と笑みがこぼれてきた。

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赤橙色の光が部屋に入り込んだとともに、

私は、母に手伝ってもらいながら、浴衣に着替えた。


「楽しんでおいで。」

と浴衣姿の私に、母が笑顔で見送ってくれたので、

「いってくるね。」

と笑顔で、手を振った。



浴衣姿で、電車に乗るのは初めてだったので、

はじめは、他の乗客からの目線が怖かったが、

それよりも、○○駅が近づくにつれて、

早鐘を打つ胸を落ち着かせることに精一杯だった。


○○駅に着くと、ちらほらと浴衣姿の人が見えたので、

少し息がしやすくなった。


待ち合わせ場所に行くと、あの人は既に待っていた。

あの人も浴衣姿だった。

見慣れない格好だったけれど、紺の無地が良く映えていた。



夏祭りは、既に始まっていて、

私たちは、並んで、露店を見て歩いた。

金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的...

りんご飴、ベビーカステラ、焼きそば...


たくさん回って、楽しんだ。


気付けば、花火が打ち上がる時間だった。

そのことを言うと、あの人は、急に、私の手を引いて、


「とっておきの場所があるんだ。」


と小走りで向かった。


そこは、少し夏祭り会場とは離れた場所だった。


「ここでもよく見えるよ。」


すると、最初の花火が打ち上がった。


「わあ~!きれい!」


思わず、私は、声を上げた。


そして、次々と打ち上げられる花火を、私たちは、見ていた。


あまりにもあの人が静かなので、ふと右を向くと、

あの人の微笑みが、空が照らす度に映し出された。


あの人が、こんなにずっと微笑んでいる姿を見たことがなかったので、

私は、しばらくあの人の顔を見てしまった。

そんな私に気付いたあの人は、


「どうしたの?」


と私に問いかけたので、


「ううん。なんでもない。とてもきれいな花火だね。」


と思わず誤魔化した。

すると、あの人は、


「本当にそうだね。この花火を見せたかったんだ。」


と、言ったように聞こえたので、

私は思わず、確かめようと、あの人を見ると、

さっきよりも、笑顔が咲いていた。


それを見て、私の顔にも心にも花が咲いた。




夜空に咲いた花が、

今年は、なぜか、

とても大きいけれど、近くて、

そして、美しく、温かく感じた。




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XUさんの企画に参加させて頂きました。

XUさん、ステキな企画をありがとうございます。

ショートショートということでしたが、長く書き過ぎました。

初めてショートショートを書かせて頂いたので、あまり勝手がわかっておらず、すみません。


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