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【書籍の一部を公開③】「高校生で妊娠し、生活に困ったマミ」

本noteでは、日本評論社さんから11月16日に発売されます「15歳からの社会保障 人生のピンチに備えて知っておこう!」のエピソードの一つ「高校生で妊娠し、生活に困ったマミ」の一部を公開させていただきます。

本書の中身ってどんな感じなんだろう?という方にお目通しいただけると嬉しいです。


生理が遅れていることを気にしている高校生のマミ

 高校3年生のマミは卒業を来春に控え、保育士になるために短大への進学を目指している。ここ数日、生理が予定日より遅れていることが気になっていた。
 マミは半年前からバイト先のファミレスの社員であるリキヤと付き合っていて、先月、リキヤの家でセックスをした。膣外(ちつがい)への射精は避妊(ひにん)ではないから、妊娠をする可能性があることはわ
かっていた。でも「コンドームがないなら今日はやめよう」、そう言ったらリキヤの気持ちが離れてしまうのではないかと不安になり、言えなかった。マミはあの日以来ずっと後悔していた。もしかして妊娠したのかもしれない—そう思うと、マミは勉強が手につかなかった。
 翌日も、その次の日も生理はこなかった。マミはこれまで生理の日が大きくずれることはほとんどなく、不安な気持ちはふくらむばかりだった。
 スマホで調べたところ、妊娠検査薬が1000円くらいで買えることがわかり、学校帰りに家と学校から少し離れたドラッグストアに向かった。検査薬を買い、すぐにトイレで検査をした。結果は「陽性」だった。頭が真っ白になった。
 赤ちゃんができたってこと? どうしよう! リキヤに、両親に、なんて言おう……。
 マミは八方塞(はっぽうふさ)がりな気持ちになった。

妊娠について相談ができる場所


 マミはトイレの個室で呆然とし、次に何をすればいいのか、スマホの画面に答えを求めた。産婦人科医が書いている記事では、病院を受診することをすすめていた。出産までの期間、出産にかかるお金、産まない場合は人工妊娠中絶(じんこうにんしんちゅうぜつ)が必要なこと、いろいろなことが書いてあったが、調べれば調べるほど、どうすればいいかわからなくなった。親友のクミに連絡しようと思ったが、この時間は部活中なのでやめた。
 スマホ画面をスクロールしていると、にんしんSOSという文字が目にとまった。妊娠について相談に乗ってくれる窓口が地域ごとに掲載されている。マミは自分が住んでいる都道府県をクリックした。名前を名乗らず匿名(とくめい)で、メールやLINEで相談ができると書いてあった。

にんしんSOSの相談員との出会い

 妊娠検査薬の結果が間違っていたのかもしれない、そう願いながらにんしんSOSにLINEを送った。
 「こんにちは。妊娠検査薬で陽性が出ました。検査薬は間違った結果が出ることもあるんでしょうか?」
 10分後くらいに返事が来た。
 「はい、にんしんSOSです。ご連絡ありがとうございます」
 その後、相談員さんから、前回の生理は何日から始まったか、性行為をした日はいつだったかなど、いくつかの質問を受け、マミは正直に答えた。返信には、マミのことを気遣う言葉に加えて、妊娠検査薬は心配な性行為をした日から21日経っているか、あるいは生理予定日の1週間後に正しく使用した場合、9割以上正しい結果が出ること、もしも結果が陽性だった場合には、産婦人科を受診して週数や妊娠の状況を診断してもらう必要があると書かれていた。受診するしかないとマミは思った。どうか妊娠検査薬の結果が間違っていますように、と祈った。

最初に病院にかかるとき、いくらかかるの?

 「病院に受診する場合、お金はいくらかかるか、教えてもらえますか? 自分は高校生で、保険証を親に借りると病院に行くことがわかってしまうので、保険証をもたずに病院に行きたいのですが、大丈夫でしょうか?」
 すぐに相談員さんから返事が来た。
 最初の診察と検査にかかる金額は病院によって違うけれど、だいたい1万円くらい。それと妊娠や出産に関する医療費は、病気やケガではないため健康保険を使えないとのことだった。今まで病院を受診したときは医療保険が使えて数千円ですんでいたのに、妊娠の診断をするだけでそんなにかかるのかとビックリしたが、1万円ならバイト代を貯金している中から出せなくはない。新しいスマホに買い換えるために貯めていたお金だったけれど、今はそんなことどうでもよかった。保険証が必要ないのであれば、母にも父にも病院に行くことを言わずにすむ。
 病院については、誰にも知られたくないので自宅や学校から離れたところがいいという希望を伝えた。相談員さんは、産婦人科を一緒に探すことができることに加え、もしもマミがひとりで医療機関を受診することに不安があれば、受診に同行したり、初回の病院受診のお金の相談にも乗れると提案をしてくれた。
 「彼氏とも話をしてみて、お願いをする際にはまた連絡します」と返した。気がつくとドラッグストアのトイレで30分以上過ごしていた。マミはあわててトイレを出た。
リキヤと話をしなきゃ。
 「今日、これから会える?」「OKだよ」
 返事はすぐに来た。

マミの気持ち

 アパートに着くと、玄関の外にリキヤが立っていた。何て言われるだろうか。別れようと言われるかもしれない。妊娠検査薬に陽性が出てからずっと頭にこびりついて離れなかった不安が、ふくらんではち切れそうだった。
 リキヤの部屋にあがった。リビングの奥にあるベッドを見て、あの日の夜が思い出された。なんでリキヤの「(膣外射精なら)大丈夫だよ」という言葉に流されてしまったんだろう。あのとき心配だからと伝えて、今日はやめよう、そう断っていたら……。
 頭の中に浮かんでくるいろいろな思いは、何ひとつ言葉として口から出てくることはなかった。
 「マミ、どうしたの?」
 マミはつばをゴクンと飲んだ。
 「リキヤ、わたし、妊娠したかも」
 一言、絞り出した。
 「え……」。リキヤはそう言うと黙った。
 マミは自分から口を開くのがいやだった。リキヤから何か言ってほしかった。リキヤの唇(くちびる)は開かなかった。
 「妊娠検査薬で陽性が出たの。妊娠のことを相談できるところにLINEで相談したら、高い確率で妊娠してるって。あの日、コンドームをつけないでセックスしたからだと思う」
 「……ごめん。オレがあのとき……。ごめん……」。リキヤから返ってきたのは、自分自身を責める言葉だった。そうしたところで、時間は巻き戻せない。
 「もし、本当に妊娠していたらどうする? わたしは、赤ちゃんを産みたい。リキヤのことが好きだから、一緒に育てたい。でも短大にも行きたい。保育士になりたい。リキヤはいいよね、大学にも行って、もう就職して働いてるし。リキヤはどう思うの? どうしたいの? ねえ、教えてよ、わたしひとりだけに考えさせないで」
 体中の酸素を使い切ったように息が苦しかった。
 リキヤは謝るばかりで、何も言ってくれなかった。
 「明日、産婦人科に行ってくる」。マミはそう言うと、リキヤの顔を見た。6歳年上のリキヤの顔が、ひどく幼く見えた。

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続きは11月16日発売の「15歳からの社会保障 人生のピンチに備えて知っておこう!」でお読みいただけます。
ご関心を持っていただけましたら、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。

以下、刊行の経緯や目的についてnoteに記しました。こちらもよろしければご覧ください。

他の章についても一部公開しています。



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