ウルトラ・ショート

3分ください。空想と浪漫の世界にお連れします。 毎週土曜日更新。 コメントお待ちして…

ウルトラ・ショート

3分ください。空想と浪漫の世界にお連れします。 毎週土曜日更新。 コメントお待ちしてます。Xもよしなに。

最近の記事

【後編】終身刑(1495字) │ 特撮ショート

 ヨタヨタと部屋を彷徨い、沈むようにソファーにもたれかかる。すると、音がして肘置きの先に一本の線が入ったかと思うと、そこが割れ、下から丸いボタンが生えてきた。深く考えずに押すと、チンという音と共に、何やらいい匂いがしてきた。左を向くと、食器棚が据えれられた壁に取り出し口と書かれた小さい小窓があり、その前に立つとありとあらゆる食事がコンベヤーで運ばれてくるではないか。 誰かに監視されている気配もない。気づけば片っ端から口に運び、待ちくたびれているであろうベッドと戯れ、ぐうと眠り

    • 【前編】終身刑(1764字) │ 特撮ショート

      「被告人を、仮釈放のない終身刑に処す」    自分の目線の遥か上あたりに裁判長席が設けられているせいで、まるで天からの思し召しかのように、そのセリフは降ってきた。広い法廷の真ん中に立たされた被告人の私は、ヒョロリと先に向けて細長く伸びる耳を、青白い指先で揉むように触っている。  それも飽きて顔を上に上げても、誰かが席にいるのはわかるが、暗くてよく見えない。どこの誰だか知らないが、お前に私の人生は決められるんだなと思った。思うだけだった。  私も同じことをしてきたから、そ

      • 【落選のお知らせ】 第2回カモガワ奇想短編グランプリは一次審査落ちでした。結果発表のnoteで通過した方々のお話をいくつか読みましたが、構成が練りに練られており、自身の未熟さを痛感してます。切り替えて、また頑張ります。ありがとうございました。

        • 坊ちゃん文学賞に本日作品を提出できました。自分にとっては初めての公募で、正直結果はあまり気にしないことにしようと思っています。当然、最後まで何度も直すくらいにはこだわりました。ですが、自分はどんな作品をつくりたいのか、そのためには何が足りないのかを考えるいい機会になりました。

        【後編】終身刑(1495字) │ 特撮ショート

        • 【前編】終身刑(1764字) │ 特撮ショート

        • 【落選のお知らせ】 第2回カモガワ奇想短編グランプリは一次審査落ちでした。結果発表のnoteで通過した方々のお話をいくつか読みましたが、構成が練りに練られており、自身の未熟さを痛感してます。切り替えて、また頑張ります。ありがとうございました。

        • 坊ちゃん文学賞に本日作品を提出できました。自分にとっては初めての公募で、正直結果はあまり気にしないことにしようと思っています。当然、最後まで何度も直すくらいにはこだわりました。ですが、自分はどんな作品をつくりたいのか、そのためには何が足りないのかを考えるいい機会になりました。

          宇宙強盗団 「ONU」(1059字) │ 特撮ショート

           強盗団といえば、ありとあらゆる金品、煌びやかなものを行く先々で奪う。そんな印象が大概だろう。だが、そういったわかりやすい輩は、すぐ消える。  息が長いのは、効率を追求した商売ができる奴らだ。奪うもの、奪う相手、奪い方。どの要素も考え抜かれている。これから話す「ONU」という一団は、そのいい例だろう。  やつらが盗むのは、向かう星々にいる子供達のポジティブなエネルギーだ。喜びや期待、自信といった感情を、母艦に取り付けられた特殊な機械から発せられる電波を通して増幅し、採集し

          宇宙強盗団 「ONU」(1059字) │ 特撮ショート

          【後編】星間露天商 マヤカス星人(893字) │ 特撮ショート

           その日は、来るべくしてやって来た。これまで数々のスタントを成功させてきたが、一番苦手だった火に包まれるシーンに出るよう、事務所から依頼が入る。  今の自分ならやれる。いつもみたいに、軽々とこなしてみせるさ。自信に満ちた彼は、二つ返事で受ける意思を伝えた。 撮影日当日。  「ではいきまーす。はい」  カメラが回る合図と共に、スロットルを握る手に力を入れ、倉庫の壁を突き破りながら外に飛び出す。行手に燃え盛る日の壁に向かって、猛スピードで突入していく男。目の前が真っ赤にな

          【後編】星間露天商 マヤカス星人(893字) │ 特撮ショート

          【前編】星間露天商 マヤカス星人(1355字) │ 特撮ショート

          闇夜に溶ける裏通りを、一人で歩く男がいた。  彼は命知らずのスタントマンと呼ばれることを夢見て、大手アクション事務所に所属している。ただ、恐怖心を拭いきれずオーディションでは失敗続き。そのせいで、出演機会に恵まれることは少なかった。 「どうやったら、手っ取り早く上達するだろうか」  夢みがちな性格で、あまり努力をしないそんな彼の目の前に、妙な光景が広がっていた。壁沿いで何やら露天商がシートを広げているではないか。ただ、商品は何も並べられていない。"宇宙品質"と書かれた足

          【前編】星間露天商 マヤカス星人(1355字) │ 特撮ショート

          ときめきビザ(405字) │ お題ショート

          「お、受かっているぞ」  手元に届いた審査結果の便りを、友人と一緒に開くことにした。彼は無事に通過し、晴れてときめきビザを手に入れられるようだ。  ビザが通り、その国に行ければ世界各国から集まった恋に悩む老若男女の中から、運命の相手が必ず見つかるとの噂を聞きつけ、独身の私たちは興味を持った。  記入項目の中で一番重要なのは、理想のプロポーズについて書く欄だ。自国で生まれる出会いの質を下げるような輩ではないかどうかを判断される。  男性ならする側、女性ならされる側に分か

          ときめきビザ(405字) │ お題ショート

          タワマン男(917字) │ 特撮ショート

           俺はこの"地球"という星の生まれではない。  五十年以上前に一族でこの地を訪れ、住み着くようになった。故郷の星は種族間の争いが激しくなり、とても暮らしてはいけなかったからだ。  噂に違わず、地球人は排斥的な奴らが多かった。だからできるだけ身なりを合わせ、所作や考え方、宗教、食事といった風習を学び、彼らに馴染めるように、みんなで努力した。  かなり根気のいる作業で、食べ物を細長い棒で挟んで食べるのがまどろっこしくなったり、移動するのにわざわざ硬い布で足を覆うのが辛抱なら

          タワマン男(917字) │ 特撮ショート

          【後編】ウルトラ飛行ツアー(997字) │ 特撮ショート

           機内は一斉に子供達の叫び声やら鳴き声が占領し、駄々をこねらるのを、親と客室スタッフがせっせとあやしている光景がそこら中で見られた。あの少年も目を真っ赤にしたまま、肩を振るわせていた。 「きっとまた、会いにきてくれるはずよ」 母は少年の頭をそっと撫でながら言葉をかけた。  するとまた、機内アナウンスがあった。 「機長です。発達した前線の影響で、この先揺れが予想されるので、シートベルトをお確かめください。三十分ほどで収まります。プログラム途中での変更となりますことを、お

          【後編】ウルトラ飛行ツアー(997字) │ 特撮ショート

          【前編】ウルトラ飛行ツアー (764字) │ 特撮ショート

           「飛んでいる時は、こんな景色を見ているのかな」  どこまでも澄んでいく青色と、飛び乗れそうな無数の雲。まるで絵本の様な景色を眺める少年がいた。彼は子供達のヒーロー、ウルトラマンが大好きで、かねてから母に行きたいと言っていた編隊飛行ができるツアーに連れていってもらえることが決まり、先ほど離陸した飛行機の中、母と一緒に彼の登場を待ち侘びていた。  「ご搭乗の皆様、お待たせいたしました。まずは右手から、ウルトラマンが会いにきてくれました」 ポーンという案内音にアナウンスが続

          【前編】ウルトラ飛行ツアー (764字) │ 特撮ショート

          【後編】THE RIGHT OF KAIJU (735字) │ 特撮ショート

           これまでの惨状は連日報道され、市民の間でも団体に対する非難が出始めたが、ガイドラインが取り下げられる様な事態にはならなかった。警備隊内では退職者が相次ぎ、腹いせに内部の実態をネット上で暴露する者や、被害者の会まで立ち上がり、失業に伴う補償を求める活動が各地で起こる始末に。  「どうせまた、燃料のムダ使いって書かれますよ」  「そうだろうな。何も警備していないのだから」  怪獣発生の一報を受けても、向かう道中の機内は重い空気に包まれる方が普通になったある日。岐阜県土岐市上

          【後編】THE RIGHT OF KAIJU (735字) │ 特撮ショート

          【前編】THE RIGHT OF KAIJU(978字) │ 特撮ショート

           「隊長、まだ本部から返答はないんですか」 ビジネスマンが行き交う昼時の丸の内。突如として現れた怪獣の駆除のために、警備機で飛んできた二人の隊員がいた。獲物を狙う鳶の様に、怪獣の頭上をゆっくりと旋回している。  「まだだ。怪獣保護団体から承認されていない」  「このままだと、被害は広がり続けます」  大の大人が機内で口論しなければいけないのは、近頃目につく怪獣の権利を主張する保護団大の存在を、警備隊が無視できなくなったからだ。関連施設の破壊や、隊員達の個人情報をネット

          【前編】THE RIGHT OF KAIJU(978字) │ 特撮ショート

          ひと夏の人間離れ(423字) │ お題ショート

          「じいちゃんに会いたい」  向かいに座り、餃子の皮を包みながら妹がつぶやいた。  それもそうだ。母子家庭だった自分達にとって、祖父は父親も同然。三か月前に納骨まで済ませたが、自分もまだ受け入れられていない。  夏の間だけ、人間から離れて死者の国に行ければいいのに。そんなことを考えながら眠る日が続いた。  夏のある日、眠りから目を覚ますと、急に祖父が現れた。  見覚えはないがどこか懐かしい和室で、彼は冊子のようなものをめくっている。 「おお来たか。今度のお盆、どう帰

          ひと夏の人間離れ(423字) │ お題ショート

          宇宙飯店 「恒星」(1266字) │ 特撮ショート 

           一日中せわしなく電車が行き交う高架下沿いの道を行くと、立ち飲み居酒屋が軒を連ねる一帯の奥に、その飲食店は見えてくる。  食べるものに困っている異星人なら、誰でも、タダで利用できる。昼時の店内は満席。厨房は至る所で火を吹き、はやく注文したい客達の叫び声が響き渡る。どれも見たことがないし、聞いたこともない。  「これ、三番テーブルね。そこの小鉢も一緒に」 お手玉でも扱うように鉄鍋を軽々と返しながら、テキパキとスタッフに指示を出す彼は、この店の店主だ。元々父親が開いたこの食

          宇宙飯店 「恒星」(1266字) │ 特撮ショート 

          【後編】変幻一族 ミラール星人(896字) │ 特撮ショート

           後日、藤田さんの容体が急変し、病院に運ばれた。  幸いにも、一命は取り留めたが、施設に帰ってきたのは三ヶ月後だった。本人も少し落ち着き、また面会が要望されたが、変身する姿に希望は出なかった。本来の姿は身内にしか見せない習慣があり、仕事用の姿を別で持ってはいるが、いつもと同じ藤田さんの母の姿で部屋に入ることにした。  「はいってちょうだい、ミラール星人さん」 よそよそしい態度でこちらを見ず、声だけかけてくる。いつもは用意されていない丸椅子に座るよう促され、少しの沈黙が続

          【後編】変幻一族 ミラール星人(896字) │ 特撮ショート