【後編】変幻一族 ミラール星人(896字) │ 特撮ショート
後日、藤田さんの容体が急変し、病院に運ばれた。
幸いにも、一命は取り留めたが、施設に帰ってきたのは三ヶ月後だった。本人も少し落ち着き、また面会が要望されたが、変身する姿に希望は出なかった。本来の姿は身内にしか見せない習慣があり、仕事用の姿を別で持ってはいるが、いつもと同じ藤田さんの母の姿で部屋に入ることにした。
「はいってちょうだい、ミラール星人さん」
よそよそしい態度でこちらを見ず、声だけかけてくる。いつもは用意されていない丸椅子に座るよう促され、少しの沈黙が続いた後、彼女が口を開いた。
「わたしはね、あの戦争で母を亡くしたの」
「そうでしたか」
「二人で逃げる途中、親切に寄ってくる兵隊さんがいてね。安全な道があるからと教えられたほうに向かったら、敵が待ち構えてた。母は私を逃し、おとりになって死んだわ」
「あの兵隊はずっとミラール星人だと思って生きてきた。だって、向かった先には、見たことのない化け物のような宇宙人しかいなかったんだから」
だまるわたしを横目に、彼女は話すのをやめない。
「だから、あなたに母の姿をさせるのは、わたしにとっては、あの時の復讐だった」
「あなたたち一族が殺した相手を演じる。こんな辱めはないと思ったんだけど、あなたは嫌そうなそぶりなんて見せないのね」
「お母さまのことを、知らなかったものですから」
いつもとは全く違い、殺伐とした空気が流れる。
「でも不思議ね。頭ではわかっているのに、目の前にいるのは母だとしか思えなくなってくる」
彼女は涙を流し始めた。
「少しでも、お役に立てたでしょうか」
「ええ、そうね。死ぬ間際に、もう一度母と話すことができて、よかったわ」
「私も母も、最後まであなた達一族に、化かされっぱなしだったってわけね」
このやりとりの後、しばらくしてわたしは施設を退所した。面会の仕事は別の場所で続けていたが、約一ヶ月後、母親の命日に彼女も亡くなったと人づてに聞いた。
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