【前編】星間露天商 マヤカス星人(1355字) │ 特撮ショート
闇夜に溶ける裏通りを、一人で歩く男がいた。
彼は命知らずのスタントマンと呼ばれることを夢見て、大手アクション事務所に所属している。ただ、恐怖心を拭いきれずオーディションでは失敗続き。そのせいで、出演機会に恵まれることは少なかった。
「どうやったら、手っ取り早く上達するだろうか」
夢みがちな性格で、あまり努力をしないそんな彼の目の前に、妙な光景が広がっていた。壁沿いで何やら露天商がシートを広げているではないか。ただ、商品は何も並べられていない。"宇宙品質"と書かれた足付きのボードが置かれているだけだ。
「あなたが一番ほしいもの、お売りしますよ」
近づくと、あぐらをかいて座っている店主らしきやつは、俯いたままそう言った。黒い帽子もかぶっているのか、街灯も遠いから顔がよく見えない。ゼブラ柄の羽織ものをしていることだけはわかった。
「なんでもいいのか」
「ええ、なんでも」
「本気で言っているのか。大体、いくらなんだ」
「あなたさまが一番大事にしているもので結構です」
「よくわからんな。そこら辺の石ころでも拾って、
これが一番大事だと言い張れば、それで済んでしまうじゃないか」
「それはお受けできません。あなたの中にあるものです。わたしはそれがわかるので、お買い上げいただきましたら、こちらで頂戴いたします。ご安心ください」
男は言われている意味がわからなかったが、どうせ浮浪者の成れの果てだと馬鹿にするつもりで吐き捨てた。
「じゃあ、絶対に失敗しない力をもらおうか。仕事で必要でね」
「ありがとうございます。では」
一瞬男の顔がこっちを向いたと思ったが、そこからは記憶がなく、起きたら寝室の床で寝ていた。
目が覚めたのは、奇跡的に出演依頼があったシーンの撮影本番日。慌てて支度を済ませ、なんとか現場入りの時間には間に合った。
出演シーンはこうだ。バイクを飛ばし、途中でシートの上に中腰で立ったら、勢いよく敵役に向かって飛びかかる。いつもなら、ハンドルから手を離せず監督から叱られるが、今日はなんだか、いつもと様子が違った。
勢いよくスタートすると、軽い身のこなしでシートの上で構えの姿勢をピタッと保持し、そのまま颯爽とジャンプまでこなしたのである。周りはとにかく驚いたが、飛び終わった本人が一番目を丸くしていた。
「あれは、夢じゃなかったんだ」
それから連日、崖からの大ジャンプや市街地でのカーチェイスなど、ありとあらゆるスタントを試してみたが、どれも見事に成功。命知らずのアクションルーキーとまで呼ばれはじめるようになった。
事務所も目をかけはじめ、続々と仕事が決まっていく。不遇の時代はいよいよ終わりを告げ、スタントマンの歴史に名を刻む活躍を約束された気さえしてきた。
久しぶりにあの露天商の元ヘ向かう彼。感謝を伝えるというよりかは、自慢したい気分だった。ふらっと立ち寄ると、雨上がりの道路に、見覚えのある縞模様が反射していた。
「あんた、どうやら本物だったらしいな。こっちは今や大スターさ」
「それはよかった。品質は宇宙一ですから」
顔は相変わらず見えないが、声色が明るいように感じた。半ば一方的に、最近の仕事ぶりをベラベラと喋り出す。相手が聞いているかはお構いなしのようだ。ひとしきり終えると、彼は満足して家路に戻っていった。
【後編】はこちらから
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