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【後編】ウルトラ飛行ツアー(997字) │ 特撮ショート


 機内は一斉に子供達の叫び声やら鳴き声が占領し、駄々をこねらるのを、親と客室スタッフがせっせとあやしている光景がそこら中で見られた。あの少年も目を真っ赤にしたまま、肩を振るわせていた。

「きっとまた、会いにきてくれるはずよ」

母は少年の頭をそっと撫でながら言葉をかけた。

 するとまた、機内アナウンスがあった。

「機長です。発達した前線の影響で、この先揺れが予想されるので、シートベルトをお確かめください。三十分ほどで収まります。プログラム途中での変更となりますことを、お詫び申し上げます」

 話が終わると、カタカタと音を立てて機内が揺れ始めた。体が左右に振られ、ジェットコースターのようになるまでに時間はかからなかった。大人でさえ身構えるくらいで、足がつかない子供は抑えてあげないと飛んでいってしまいそうなほどだった。

 いよいよ揺れがひどくなってきた。頭上の収納棚が開いてしまい、中の荷物が宙を舞っているところもある。少年も頭を抱えて、体を縮めるしかないのだが、背中に温かい重みが感じられた。母が覆い被さり、守ろうとしてくれているのがわかる。

 こんなことになるなら、お母さんにわがままを言うんじゃなかった。
 たすけて、ウルトラマン。

 目をギュッとつむり、歯を食いしばっていると、揺れながらも少しずつ右に旋回しているのがわかった。機体は、上昇しながら雲から抜けようとしている。

「母さん、もう体がつぶれそうだよ」

少年と母親は床に押さえつけられる様な形で耐えていると、突然、ふっと凪の様な静けさが訪れた。真っ暗だった機内に、柔らかい光が差し込む。

 焦点が定まらないままで、窓に近づいた少年は、銀色の大きな手が、翼を支えているのを目の当たりにする。彼が来てくれた。両の掌の上に機体を乗せて、雲間から離れる様に飛んでいく。

「起きなさい、空港に着いたみたい」

あれからすぐ眠ってしまったようで、気づけば脱出スライドからどんどん乗客が外に出されていた。親子もその列に加わり、無事に地面を踏んだ。

 数十台以上の消防車と救急車が集まり、お互いの無事を親子で喜ぶ光景が至る所で見れた。怪我はないか心配する母を横目に、あの少年は彼が消えていった空の彼方を、ただじっと見つめていた。

「もう会えないのかな」

「また会えるって、母さんが言ったら当たったでしょう。だから、心配ないわよ」

少年は目を輝かせ、母の方を見ながら、大きく頷いた。

【前編】はこちら


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