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タワマン男(917字) │ 特撮ショート

 俺はこの"地球"という星の生まれではない。

 五十年以上前に一族でこの地を訪れ、住み着くようになった。故郷の星は種族間の争いが激しくなり、とても暮らしてはいけなかったからだ。

 噂に違わず、地球人は排斥的な奴らが多かった。だからできるだけ身なりを合わせ、所作や考え方、宗教、食事といった風習を学び、彼らに馴染めるように、みんなで努力した。

 かなり根気のいる作業で、食べ物を細長い棒で挟んで食べるのがまどろっこしくなったり、移動するのにわざわざ硬い布で足を覆うのが辛抱ならんと、途中で挫折して一族から抜けた連中もいたっけか。もうあまり覚えていない。

 結局残ったのは俺一人。だが、めげなかった。親兄弟、友人、恋人。みなに置き去りにされながら、必死に働き続けた。すぐに逃げる奴らは、結局どの星でも通用しないんだ。そう思わないと狂ってしまいそうだった。

 今の地位に上り詰めるまでは、とにかく苦しいことの連続だった。プライドも仲間もすべて捨て、ひたすら毎日を歯を食いしばった。だからこそ、今日という日を迎えられたのだ。購入したタワーマンションの入居日である。

 この国で最も名誉のある成功の証だ。今や誰しも羨む存在だが、念願叶って、遂に都心の一等地にある物件の最上階に住むことができる。

 雑草のように地面から生えるビル群、地を這うミミズのような道路、至る所から湧いてくる人間ども。まるで、自分が雲の上の存在のように思えてならない。ああ、こんな満たされた気持ちになれるとはな。

 夕方には引っ越しも終わり、新調したソファで、グラスを傾けながら、沈みかけている夕日を眺めている。こんなにゆったりとした過ごし方は、いつぶりだろうか。この暮らしのために、私はすべてを捨ててきた甲斐があった。


 男が余韻に浸っていると、気づけば辺りは真っ暗になっていた。窓から月が顔を覗かせて、星が煌めきはじめたかと思うと、なにやら彼の様子がおかしい。 

 体がみるみる巨大化し、耳と鼻先が尖ったかと思うと、鋭い牙と爪まで生えてきた。着ていた服はぶちぶちと音を立てながら、床に落ち、ついには、聞き覚えのある遠吠えまでする始末。どうやら彼は、狼人間が住む一族の星で生まれたみたいだ。


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