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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第12話

◆第1話はこちら

第2章 押し入れにひそむ多佳子

5 悩み 

 利蔵は文机に両手をつき頭を抱えた。
 ここ最近、多佳子のことで頭を悩ませ、他のことにまったく手がつかない状態であった。

 これから秋の収穫に向けて忙しくなる。
 冬の支度もしなければならない。
 やらなければならないことはたくさんあるというのに、何一つ集中できないでいた。

 常に、頭の隅に多佳子の存在がちらついた。
 村にいられなくなるようにしてやると脅しても、多佳子は動じる素振りもみせない。
 考えてみれば、そもそも多佳子は他の者といっさい交流をもとうとはしない。村人も多佳子を気にかけることもなく、それどころかあからさまに避けているのだから、元々村からはじかれているようなもの。

 そんな彼女への脅しは無駄であった。
 とにかく、相手は普通の精神の持ち主ではない。
 異常としか言いようがない。
 普通ではない者に常識を諭しても、通じないのだから無意味であった。

 異常といえば、多佳子は許嫁を呪ったと言った。
 もちろん、呪いだのそんなものは信じていないが、どうしても気になって神社に行ってみると、確かに御神木に藁人形が打ち付けてあった。

「なんてことを!」
 藁人形を木からむしり取り、利蔵は忌々しげに地面に叩きつけ足で踏みつけた。
 こんなもののせいだと思いたくなかったが、多佳子が神社に行ったという日の夜、突然、許嫁が胸を押さえて倒れ、急いで八坂医師を呼びにいった。

 許嫁の身体は健康そのものだった。
 それは、利蔵家に来る前に許嫁の身体を診断した八坂医師が保証したのだから間違いない。
 八坂医師は慣れない環境のせいでの心労だと言っていたが、はたしてそれだけであろうか。

 間もなく祝言を迎える。
 これ以上問題を起こしたくない。
 それ以上に、多佳子につきまとわれていると他の者に知られては、いい笑いものだ。

 どうすれば多佳子を遠ざけられるか。
 二度と自分の前に姿を現さないようにするには、どうすればいい。

ー 第13話に続く ー 

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