THE GUILD深津氏×W ventures東 「ベンチャーへのUI/UX支援」課題と今後の展望
2019年4月に活動を開始した我々、W ventures。現在までに投資したスタートアップは、トータルで50社以上になります。2021年4月には、投資先のさらなる事業成長をサポートすることを目的として、クリエイティブファームの株式会社THE GUILDと業務提携し、新しいプロジェクトを開始しました。1回2時間ほど、投資先スタートアップが直面する設計上の課題を解決すべく、UI/UXの改善を含めたプロダクトなどのコンサルティングを提供しています。そこで今回は、株式会社 THE GUILDの代表取締役であり、note株式会社のCXOも務める深津貴之氏にW ventures 代表パートナーの東がお話を伺いました。
スタートアップを応援する理由
——この取り組みが始まって3ヶ月ほどが経ちました。深津さんからいろんなアドバイスをいただきますが、「マーケットのサイズを分析して、インパクトのあるところにリソースを投下せよ」というお話をいただくケースが結構あったように思います。
深津:多くのスタートアップには、「大きくならなきゃいけない」という前提があります。小さなマーケットに向けて良いモノを作ったけれど、この世に必要としている人が100人しかいなかった。そんな事態になると、ちょっともったいないですよね。
——以前から、いつか深津さんの考え方を投資先にレクチャーしていきたいという思いが湧いて、やっと実現した!という感じです。
深津:ここ最近、ビジネスとテクノロジー、クリエイティブの距離が近くなっています。緊密な相互連携が求められている。とくにスタートアップでは、初期に直面しがちな定番の設計課題が沢山あります。それを解決するお手伝いができればと思っていました。他の方にくらべて、僕はいろんなクライアントを見ていることが強みです。なので、普遍的なナレッジや勘所、みんなでシェアしたほうがいい点…そういったものをある程度、理解しています。それをスタートアップが効率よく入手できたら、みんなが幸せになれていいなと、そういう思いが根底にあります。ですので僕が持っている情報は、惜しみなく伝えたいですね。
数ヶ月を振り返って
——これまでに10社ほどにレクチャーをお願いしましたが、それぞれレベル感が異なりましたよね。
深津:フェーズはアーリーからミドルくらいですかね。
——売上規模で言っても0円から数億円ぐらいの会社もありました。環境要因、会社の持っているリソースによって、課題は様々かと思います。深津さんはそこに合わせて説明してもらっていますよね。組織体制はどうなっていますか?と確認しながらコンサルしてくださいますね。
深津:スタートアップのやるべきことについて、僕は「農業の話」に例えています。
たとえば、ある果実を育てているとします。その果実を大きくするためには、果実に直接肥料を与えてもダメだし、種を蒔いた時点で殺虫剤をかけても意味がない。種を蒔いたフェーズで肥料をあげることが大事であり、実ができたフェーズで殺虫剤をかけることで効果が発揮されるわけです。作る順番や、タイミングによってやることがあると思うので、会社のフェーズや、チームがどういう状況なのか確認するようにしています。それによって、やった方がいい、悪いの判断も変わってきますし、僕が言えること、言えないことも変わってきます。
——「どのタイミングでどのリソースを使ったらいいのか」という質問も多いように思います。その点にアドバイスいただく時に、軸となっていることはありますか?
深津:基本的には、序盤のフェーズでやることは「コアバリューを立ち上げること」しかないと思っています。結局、コアバリューがPMF(プロダクトマーケットフィット)に達したうえで、プロモーションをかけていくのが一番やりやすい。逆にコアバリューがないうちからプロモーションを進めてしまうと、後々、色々と大変なことになる。もはやこれは、再現性の高いゴールデンルールだと思います。
ほとんどのプロダクトの場合、何から注力するかと言ったら、まずは現状をコアバリューとそうでないところに仕分けて、コアバリューに集中しましょうね、というのがメインの流れだと思います。
デザインとは「仕組みを作ること」
——実際のコンサルテーションのフレームワークのポイントがあれば教えてください。
深津:結局のところ、あらゆる手段は目的レイヤーのためのツールなので、大きな目的のレイヤーがどこなのかを最初に合意する、確認することがすごく大事だと思っています。例えば、どんなに綺麗な良いフォームで弓を射っても、そもそも的と違う場所を狙っていたら絶対に的に当たることはない。まずは、的の方向や距離、試合のルールをちゃんと確認したり合意したりして、そこに落とし穴がないかということをお互いに話し合う。それから初めて「じゃあどんなフォームで弓を射るか」と考えるのが大事です。
——キーワードとして出てくるのは、環境とルールとか導入のフロー。プロダクトの作り方という文脈だと、今のうちからやっておいた方がいいことというのがありますよね。
深津:サービスをリリースする時に、そのサービスの業界ルールや業態によって何をやるべきかが変わります。継続率を優先すべきか、新規を優先すべきか、というのが一番わかりやすいですね。例えば、競合が誰もいない、誰も注目してもいない、じっくりこっそり作れるサービスがあったとします。その場合に一番重要な行動は、プロダクトの基礎力を上げて継続率を高め、しっかりとした商品を作ること。そのうえでマーケティングするのが良いと思います。
逆に、すでにネットワーク効果があって最初に大きくなった人が一番有利みたいなゲーム環境だと、ステルスでどんなに素晴らしいモノを作っても、結局負けてしまう。そうなると、継続率を高める必要もあるけれど、並行して最初からバンバンCMやアド(広告)を出して新規の顧客を取り合いながらプロダクトをバージョンアップするという戦略しかない。
業界のルールやプレイヤー(競合)の状況によって、プレイのセオリーは変わってきます。そうした戦略の取りかたは、細かなテクニックや細かなボタンの配置(UI/UX)などより、はるかに重要かなと思っています。
ディズニーランドへ飛行機で行くか、歩いて行くか
——深津さんのコンサルは、スタートアップのゴールを見据えて、ゴールまでの優先順位決めを一緒に考えながら導いてくださっているという印象です。
深津:状況がわからない中でフルスイングするより、状況がわからない時はコンパクトにスイングしたり情報収集したりする方がいいと僕は考えています。例えば、大阪からディズニーランドに行くとします。意思決定には東に行くか西に行くかという選択肢と、徒歩で行くか飛行機で行くかという選択肢があったとします。このときの正解は「東に飛行機で行く」ですね。ここで一番やってはいけない間違いが、「西に飛行機で行く」なのです。西に飛行機で行くぐらいだったら、東に徒歩で行く方がよほどマシ。
間違ったゴールと推進力ある手法の組み合わせ…とかが一番最悪なんですね。要は、答えが出る手前で間違えるよりも、時間がかかっても、方向が合っている方がベターということ。例えば、CMのような大きな金額の投資をする場合は、絶対に直感で決断しないほうがいい。「決めるところにコストや時間をかける」ことを、みなさんに伝えるようにしています。
——「この飛行機がどっちに飛ぶかわからないのに、いきなり乗って反対の場所に連れて行かれたら困るよね」という話ですよね。それならまずは、確実にゴールがある方向に歩いてみる方がファーストステップとしてはアリだと。
深津:そうです。そういうところをちゃんとやるだけでリスクを大きく減らせる。LPの作り方やユーザー登録の仕方なんて、いちスタートアップが考えるのは時間の無駄だと思うし、もったいない。そういうものは、全部共通知識として共有し、同じスタートラインに立った上で良いプロダクトを作れば済む話です。それよりも、それぞれのビジネスの核心的部分、コア事業にコミットできる世界がいい。だから、普遍化して配っていい知識は全てオープンにしたいと常々思っています。
ディズニーと任天堂は絶対にチェックする
——深津さんは、引き出しの量がすごく多いですよね。スタートアップと話していると、当然のことながら深津さんと比べると打席に立った回数も全然少ないし、取得している情報量も違うと感じます。どうしたらそんなに引き出しを持てるのでしょうか?
深津:コンパクトな振りで打席にいっぱい立つのが一番いいと思います。博打のようにフルスイングをすることが必要な時はあるかもしれないけれど、それだけだと経験値がたまらないし、ボールが当たったのが運なのか実力なのかわからない。だから、とにかく打席にたくさん立つことが結局は、打率、成功率、リスクヘッジになるのではないのかなと僕は思っています。
——コンパクトな振りで打席に立つというのは、具体的にはどういうことでしょうか?
深津:3ヶ月かかるグロース施策1個にコミットするよりも、3日で結果が分かるグロース施策を100本やるほうが絶対にいいということ。基本的に1個の施策の影響度を大きくすればするほど、その人のキャリアや施策の成否には、運の要素が強くなっていきます。だから経験値を貯めるには、施策の数を増やすことが一番大事だと思います。まずは量があって、量のお陰で質が上がるのです。
——とはいえ打席に立つのも限界があるとすると、仮想的に打席に立つという意味で、情報を取得するのも重要ですよね。
深津:スタートアップは、もっと巨人の肩に乗るべきです。ログイン・パスワードとか検索画面のUI /UXといったものは、この世でGAFAが死ぬほど開発してくれている。素直にGAFAに従えばいい。スタートアップがわざわざオリジナリティのあるログイン画面を作る必要はないのです。そこにみんなが気づいて前例に従うだけで、世の中がだいぶ楽に生きやすくなると常々思っています。
——コンサルの中で、いろいろなプロダクトを触ってみる、サービスを使ってみるというアドバイスをされていますよね。
深津:バーチャルに打率を上げることになるので、触れるものがあるならいっぱい触る方がいい。情報収集はアウトソースできる方がいいので、その業界の人が注目しているものはとりあえず触ってみるのがすごく大事ですね。僕は、ディズニーと任天堂は絶対にチェックします。人気のあるコンテンツであればあるほど、できるだけ一度はコンテンツを体験します。
スタートアップ合宿というアイデア
——今後はこの取り組みをどう進化させていけば良いか、アイデアを教えてください!
深津:コンサルしたスタートアップと数ヶ月後に、ディスカッションしたいですね。1回目のコンサルで見える化した課題をどう取り組んだか、また何に引っかかってストップしているかなど、きちんとフォローがしたいと思っています。今後は、宿題を出したいなと思うのですが、いかがでしょうか?
——「宿題」とは面白いですね。
深津:それぞれの問題や課題を見える化する→仕組み化するということに繋げられたら、アウトプットする必要があるので、みんなも課題解決に取り組みやすいかなと。宿題は、僕がお題を出すので、「noteに記事としてアウトプットしてもらう」でもいいかもしれない。W venturesが投資しているスタートアップみんなで切磋琢磨することで、結果的にみんなのレベルアップの一助になればと思います。
もう一つ、僕がみんなと1日か2日ガッツリ向き合う時間をとって、合宿をするのもいいかもしれない。僕の蓄積してきた知識やノウハウをみんなに伝えたいと思っています。
——企画したいです!深津さんに時間を取っていただけるのであれば、ぜひお願いいたします。みんなも喜びます!コンサル2時間では時間が足りないと思っているスタートアップも多いです(笑)。最後にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
THE GUILD
THE GUILDは多様な専門性・高い自律性をもったメンバーが所属するギルド型のクリエイティブファームです。執行取締役であるボードメンバー8名を中心に、プロジェクトに応じてジョインするパートナーメンバー、関連制作会社THE GUILD STUDIOで活動を行なっています。デザイナー、エンジニア、データアナリスト、ビジネスストラテジストといった多様な専門性を持ったメンバーが所属しており、UXデザインをはじめとして、ブランディング、グロース支援、ソフトウェア開発など多岐にわたる業務を提供しています。
代表取締役 深津 貴之
URL:https://theguild.jp/
W ventures
エンターテインメント・スポーツ・ライフスタイル分野を中心とした、シード/アーリー期のBtoC / BtoBtoC事業スタートアップ対象の独立系ベンチャーキャピタルです。
社名:W ventures株式会社
代表者:新 和博、東 明宏
深津さんとの取り組みは、ある会食で深津さんに出会って以来、ぜひ実現したいと私が熱望していた取り組みです。深津さんと話をしてもらった会社のみなさんからのフィードバックを聞いていると、期待以上の取り組みになっていると感じています。しかし、深津さんから色々アイディアをいただいたので、ここに留まらず、スタートアップ業界全体に波及できる取り組みにしていけたらと考えています。ご興味ある皆さん、ぜひ協同しましょう。
(W ventures株式会社 代表パートナー 東 明宏)
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