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なぜZ世代の転職志向は高いのか?~その原因と離職防止策~

就職した会社に定年まで働きたいか?

1995年4月もう19年も前のこと、私は、設立されたばかりベンチャー企業に入社しました。社員数50名足らずの小さい企業でしたが、社内は活気があり、社長の人柄、独特の経営理念に惹かれて入社を決めました。その後、配属された人事課で新卒採用を担当。毎日やりがいを持って仕事をしていたのを思い出します。その頃の自分の心境を思い返せば、転職などということは全く考えておらず、定年まで勤め上げようという覚悟を持っていたように思います。同世代の友人の多くが、今なお最初に入った会社で勤め続けている現状を考えれば、私達の世代は、入社した会社で定年まで働こうと考えていた人が比較的多かったように思います。

では、今の新入社員はどうでしょうか?
東京商工会議所が、今年の4月、所謂Z世代にあたる2023年卒の新入社員に意識調査を実施しました(2024年度新入社員意識調査集計結果)。調査の中で「就職先の会社でいつまで働きたいか」と尋ねたところ、なんと「定年まで」がわずか21.1%となり、10年前の調査よりも14ポイント減少しています。一方、「転職志向・退職見込み(※1)」を選択した割合は41.3%にも上り、10年前の結果よりも14ポイント増加しています。

図① 東京商工会議所「 2024年度新入社員意識調査」P.7のデータから筆者加工

様々な関係者が関わり1年もの時間を費やした採用活動で、漸く入社してもらった新卒社員の大半が、離職を考えながら仕事をしている。企業としてはとても残念な状況です。また、生産年齢人口が減少の一途をたどり、採用がますます難しくなっている昨今、新人が早期に退職してしまっては大きな痛手となります。企業には、新人に長く働いてもらうような効果的なフォローが求められてくるでしょう。

ダブルバインドが新人に負荷を与える

効果的なフォローを考えるには、今の新入社員のことをもっと知る必要があります。調査では、社会人基礎力(※2)の中から「仕事をする上で特に大事にしたいこと」を、新入社員、企業側双方に聞いてます(図②)。この結果から見えるのは、

1)企業側、新入社員側、ともに主体性の割合が最も大きい。
2)割合に一番大きなギャップがあるのは規律性(企業>新入社員)

という二点。つまり、新入社員の規律性に対する意識は相対的に低いものの、企業側は主体性とともに規律性も大切にして欲しいと思っている。ということです。この結果からこんな問題が起きてることが予想されます。新人は、会社から「主体的に」と言われてるので積極的に動こうとする。しかし、いざ行動するとルールや制約を理由に反対される。

心理学の世界では、これを”ダブルバインド”と呼びます。ダブルバインドとは、二つの矛盾したメッセージを同時に受けることで、心理的なストレスを感じ、混乱することをいいます。恒常的にダブルバインドがあるような組織だと、新人にとっては、大きな心理的負担となるでしょう。


図② 東京商工会議所「 2024年度新入社員意識調査」P.13

新人たちが上司に求めていること

では、新入社員は上司にどのような指導を求めているのでしょうか。調査では、新入社員に「「理想だと思う上司」はどのようなことを大事したり重視する人か」という問いの回答結果も載せています(図③)。断トツで多かったのが「仕事の指導を丁寧に行うこと」、次いで「明確な理念や考えを持っていること」となりました。

先の結果と併せて考えると、主体的に動く前に、会社としてのルールや基礎知識があるのであれば、それを丁寧に教えてほしい、より大局的な観点で言えば、組織の理念や考えも明確にしてほしい、という声が聞こえてきます。

図③ 東京商工会議所「 2024年度新入社員意識調査」P.15


企業が取るべき施策

ダブルバインドといった心理的負荷を新入社員にかけないためには、企業は一貫したメッセージを伝えていく必要があります。具体的には、下記のような施策が考えられるでしょう。

1)会社が求める「主体性」をしっかりと言語化していく。
→個々に違う役割や期待値を提示した上で、会社として守ってほしい領域と自由に動いてほしい領域を明示する。
→足りない知識については、丁寧に指導プログラムを組み、主体性発揮のための基盤作りを行う。
→何か失敗があったときのフォロー体制も明示しておく。

2)会社理念と現場の方針を一致させる。
→会社経営理念の則って、下位組織の方針を明確にする。
→マネジャーが中心となり、日々の意思決定において、経営理念を判断基準としていく。
→常に自部署の方針を発信。メンバーの意見も吸い上げながら方針の浸透を図っていく。

新入社員の転職志向が高い理由は、上記で考察した理由だけではないかもしれませんが、このような施策を続けていくことで、Z世代のエンゲージメントは少なからず高まっていくように思います。個々の才能を活かせる環境の中で、より納得して働く若手が増えていけば、長期的には、その組織風土が新卒採用でのアピールポイントとなり、優秀人材の継続的確保に繋がっていくでしょう。

【脚注】
※1)「転職志向・退職見込み」の詳しい内訳は、「チャンスがあれば転職」26.4%、「時期をみて退職」5.9%、「子供ができるまで」0.5%、「結婚するまで」0.9%となった。

※2)「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱したもの。


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