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【映画で楽しむ歴史】プライベート・ライアン

『プライベート・ライアン(原題:Saving Private Ryan)』

1998年に公開された、スティーヴン・スピルバーグ監督作の戦争映画である。

主演はトム・ハンクス。
スピルバーグ監督とは度々タッグを組んでいる。

アカデミー賞5部門を受賞した本作は間違いなく名作である。

題材は第二次世界大戦。

ノルマンディーからフランスに上陸したアメリカ軍兵士達の戦いを描く。

本作の見所は何といっても、そのリアルな戦闘描写。

冒頭約20分間のオマハ・ビーチでの攻防は、戦争の悲惨さを我々にまざまざと見せつける。

主人公はトム・ハンクス演じるミラー大尉。

ミラー大尉は部下と共にジェームズ・ライアン一等兵の救出任務にあたる。

ジェームズ・ライアン一等兵は4人兄弟の末っ子で、上3人の兄が皆戦死した。

それを受けて、アメリカ陸軍参謀総長がライアンの救出を命じたのだ。

ライアンの救出の為、ミラー達は苦難の道を行く。

道中ドイツ軍と戦いながら何とかライアンと出会うも、彼は「仲間が戦っている中、自分だけが救出されるのは納得いかない」とミラー達の救出を拒む。

果たして、ミラー大尉とライアン一等兵の行く末は。

本作の冒頭で描かれるノルマンディー上陸作戦(1944年6月)は、第二次世界大戦の転換点となった戦いである。

〔ノルマンディー上陸作戦の作戦計画図〕

発端はテヘラン会談(1943年11〜12月)である。
この会談は米大統領ローズヴェルト、英首相チャーチル、ソ連指導者スターリンの連合国3首脳による会談であった。

ノルマンディー上陸作戦は、この会談でスターリンが強く要求したものである。

当時、ソ連はヨーロッパで唯一ドイツと正面から戦っていた国であった。

ドイツは強く、ソ連は甚大な被害を被っていた。

その負担を少しでも減らしてほしいと、米・英両国に要求したのだ。

ソ連はドイツの東に位置し、英国はドイツの西に位置する。

英国・米国がドイツの西で戦えば、ドイツは戦力を西と東に二分しなければならない。

〔東西両戦線から反攻を受けるドイツ〕

そうすれば、東で戦うソ連の負担が減るということだ。

こうして、ノルマンディー上陸作戦は決行された。

しかし、そもそも何故アメリカ軍がヨーロッパに上陸したのか。

勿論、ノルマンディー上陸作戦が決行された当時、アメリカは第二次世界大戦の参戦国である。

だが、アメリカが直接攻撃されたのは日本からである。

従って、アメリカは太平洋で戦えば済む話ではなかろうか、という疑問が浮かんでも不思議ではない。

この疑問を解決するキーワードは「お金」である。

アメリカはヨーロッパ諸国に対して莫大な貸し付けを行なっていた。

アメリカは債権者であり、ヨーロッパ諸国は債務者である。

債権者にとって一番困ること、それは債務者が破綻することである。

アメリカは貸し付けた国々が破綻しないように(ドイツに屈服しないように)する為、きちんと債務を回収する為にヨーロッパに上陸したのだ。

勿論、前線で戦った兵士達は、自由と正義を守る為という大義を抱いて銃把を握っただろう。
ライアン一等兵のように。

しかし、彼らを戦わせた者達に債務の回収という思惑があったのは事実だ。

ファシズムが蔓延る世など誰しも想像したくはないだろう。

で、あればファシズムの打倒に邁進した者達への敬意は忘れてはならない。

だが、「お金」の為に命を投げ出せと命ずる者達へ敬意を払うべきなのか。

戦争とは、複雑である。

大義と実利が入り混じり、複雑な形をしている。

そして、醜い形をしている。

大義と実利と人命が入り混じり、醜い形をしている。

で、あれば、やはり戦争はしないに越したことはない。

(終わり)


※『プライベート・ライアン』私的オススメシーン!

オマハビーチに上陸し、崖の上にあるドイツ軍の陣地を破壊するシーンがある。
その際、トム・ハンクス演じるミラー大尉が
「covering fire!」
と、叫ぶのだが、何度聞いてもクセになる。

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