まずは、具体と抽象について腰を据えて理解しよう。
こんにちは。
最近、「具体と抽象」について、ずっと考えています。
色々な思考の加え甲斐があるテーマですが、例えば、「頭が良いって、結局のところ、具体と抽象を自由自在に行き来する能力のことでは」など、最近よく考えるんですよね。
非常に奥深く、なかなか手を出しづらくいテーマでもありますが、その分、色々な思考の幹にもなる領域だと思うので、今日はまず「具体と抽象とは」という基本のところを言語化してみたいと思います。
1 具体と抽象とは。
具体と抽象を考えるにあたっては、まずは「抽象」から言語化するほうが楽かもしれません。
抽象とは、「複数の事柄や概念から、共通する要素・属性を抜き出して、それを一つの概念として捉えること」です。
具体とは、抽象化により共通する要素・属性を抜き出すにあたり、その素材となる事柄や概念です。
これだけだと分かりづらいですよね。下の図をご覧ください。
これは、生物の類型をイメージ化したものです。
(そこが論点ではないので、生物学的な精密性は無視してください・・・)
この図で言うと、上のほうが「抽象的」下のほうが「具体的」となっています。まずは、「具体」のほうから見てみましょう。
柴犬やチワワ、他にはパグなどもいます。
さて、これを抽象化してみましょう。
「抽象」の定義を振り返ります。
抽象とは「複数の事柄や概念から、共通する要素・属性を抜き出して、それを一つの概念・法則として捉えること」です。
柴犬、チワワ、パグに共通する要素、はい、これは「犬」ですね。
「柴犬、チワワ、パグ」という複数の事柄から、共通する「犬」という属性を抜き出して、これらを「犬」という一つの概念で括りました。
これが「抽象化」です。
あとは、同じプロセスです。
「犬、象、キリン」を抽象化すると、「哺乳類」。
「哺乳類」と「爬虫類」を抽象化すると、「脊椎動物」。
「脊椎動物」と「無脊椎動物」を抽象化すると「生き物」。
こういう風に、共通する要素で括っていくことが、抽象化なのです。
そうなると、具体化はその逆、これは簡単ですよね。
「共通する要素」で抽象化した概念に、「共通しない要素」を足して、まさに「具体的にしていく」ことです。
「哺乳類」の中で「鼻が長い」ものは「象」。「首が長い」ものは「キリン」。これが具体化です。
以上が、「具体と抽象」に関する「定義的」説明です。
2 「具体と抽象」の周辺概念
次に、具体と抽象への理解をより立体的にするために、「具体と抽象」と、その周辺の親和性の高い概念についてご紹介したいと思います。
2-1 帰納と演繹
帰納と演繹は、具体と抽象と切っても切り離せない概念です。
まず「帰納」について。
しつこいですが、抽象とは、「複数の事柄や概念から、共通する要素・属性を抜き出して、それを一つの概念・法則として捉えること」です。
この、「複数の事柄や概念から、共通する要素・属性を抜き出し、一つの法則として捉える」という行為自体が、「帰納」に他なりません。
上のイメージをご覧ください。
目の前に、カードの山があります。
上から1枚めくってみると、「犬」のカードでした。
2枚目をめくってみると「象」のカード。3枚目は「ワニ」。
ここであなたは、「このカードは、『脊椎動物』が描かれたカードではないか」と推測するかもしれません。そう、この推測行為こそが「帰納」です。
複数の事柄から、共通する要素を括り出し、一般法則として仮説を立てる行為、これが帰納です。
さて、次は「演繹」で、これは「帰納」と逆ベクトルの行為です。
上の例で説明しましょう。
3枚目までの情報から、あなたは帰納により、「これは脊椎動物のカードではないか」という一般法則の仮説を立てました。
これによって、あなたは4枚目を、「キリン?」「カエル?」「鳥?」と予測出来ます。この、「一般法則を適用して将来を予測する行為」、言い換えると、「抽象化された概念を用いて具体を特定する行為」を「演繹」と言います。
整理すると、「抽象化」「具体化」するための手法が、それぞれ「帰納」「演繹」とも言えそうですね。
2-2 科学と実験
さて、「抽象と具体」、そして「帰納と演繹」のプロセス、これは「科学」と非常に親和性が高いものです。
というよりも、そもそも科学というものは、いろいろな事象を研究し、その事象を貫く普遍的な原理・原則を見出すことを至上目的としている、と言っても過言ではありません。つまり、「この世界を適切に抽象化することが科学の目的である」と言っても良いかもしれません。
そして、この科学こそ、抽象と具体を「行き来する」ということが非常に重要となる領域です。
科学においては、
【具体】物事を観察し、
【抽象】仮説を立て、
【具体】実験でその仮説を検証し、
【抽象】仮説を精緻化していく
これが、世界に対する科学的アプローチの基本スタンスなのです。
つまり科学とは、具体と抽象を往来するという、動的な力学を内在した活動なのです。
先ほどもお示しした、上の図を、科学アプローチとして読み解いてみましょう。
1枚目~3枚目のカードをめくることは「観察」だと仮定します。
これによりあなたは、カードに書かれているのは脊椎動物だ、という「仮説」を立てました。ですのであなたは、4枚目のカードをめくって出てくるのは、キリンなのかカエルなのか鳥なのか、いずれにしても何らかの脊椎動物だという予測をします。
そして、次に実際に4枚目のカードをめくる行為、これは科学で言うところの「実験」にあたります。実験により、立てた仮説の妥当性を確認するのです。
さて、あなたが4枚目のカードをめくったところ、出て来たのは「椅子」でした。
この実験結果を正とすれば、あなたの「カードに書かれているのは脊椎動物である」という仮説が誤っていることとなります。
つまり、実験の結果を受けて、あなたは自身の仮説を見直さなくてはいけないこととなりました。
そこであなたは熟慮を重ね、「カードに書かれているのは『4本脚』のものである」という仮説を再設定しました。
そこであなたは、もう一度実験を行います。
この事例で言う実験とは、カードをもう1枚めくることでしたね。
もう1枚めくった結果、出て来たのは「机」でした。
これにて、あなたの立てた「4本脚」仮説は妥当性を増しました。
そして、別の見方をすると、実験を通してあなたの仮説は「脊椎動物」⇒「4本脚」となることで、より真実に近づいたと考えられる、ということになります。
さて、ここでミソなのは、真実に「近づいたと考えられる」だけで、「真実である」わけではないということです。
現代社会を支える科学体系についても、それは、「今のところ確からしい」ということしか言えません。上の事例で言うと、カードを999億回めくっても「4本脚」仮説は成り立つかもしれませんが、999億1回目には「メガネ」が出るかもしれません。
そのときには、「4本脚」と「メガネ」の共通項を見つけ出す、一段階上での抽象化・普遍化・理論化が必要となります。
そして科学の世界では、はるか昔から現在まで、このプロセスを繰り返してきているのです。
これこそが、しばしば「科学とは壮大な仮説である」と言われる所以です。
2-3 構造化・体系化
さて、最後は簡単に。
物事を具体・抽象で整理していくということは、自ずと、事象を構造化・体系化するということを意味します。
このことは、冒頭の生物類型のイメージを改めてご覧いただくだけで、ご理解頂けると思います。
蛇や犬、虫やワニ、カエル、というように、具体をそのまま具体として認識するのではなく、抽象・具体で整理することで、構造化・体系化されているのは一目瞭然ですよね。
これにより、我々は対象を解像度高く理解できるようになりますし、人にも分かりやすく伝えやすくなりますよね。
3 終わりに。
以上、具体と抽象、およびその周辺概念について言語化しました。
次のステップとしては、「具体と抽象を行き来することの効果」「具体と抽象を行き来するためにはどうしたら良いのか」などについて言語化していきたいと思います。
これはまた、次の機会に。
なお、今回の内容も、noteを活用したダイナミック・インテリジェンス・システム「知性の曼荼羅」の一環です。
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