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価値観とは、年代ではなく、立場と役割で変わるもの

昭和の時代には、企業の運動会どころか文化祭や社員旅行などのイベントがあったものだ。そんな話を聞くと「会社の人間と運動会して何が楽しいのか?」と思うかもしれないが、そもそも企業はかつての「ムラ」共同体の代替機能を果たしていたものだし、部署はひとつの疑似家族的なものでもあった。

別にそれがいいという話をしたいわけではないが、いつの頃からか(1990年代に入ってから?)運動会も文化祭も社員旅行もなくなった。そもそも昔は、会社にも趣味的な部活動があったものだが、それもなくなっているのだろう。

そんな中、コロナ禍以降に入社した若手が、自ら発案して運動会を開くというニュースがあった。

2020年4月以降入社した新入社員は、入社してもリモート勤務だったりで、そもそも同期の人間と直接対面することなく、丸1年を過ごした者も多いだろう。2020年入社組だけではなく、2021年も2022年も同様で、このコロナ禍は、新入社員にとって「対面型の人とのつながり」を奪われた3年間でもあった。

若手社員がこうしたイベントを企画した気持ちはよくわかる。ぜひ、大人たちに奪われた時間と関係を取り戻してもらいたいものです。特に、大企業ならそれだけの大人数がいるわけで、地方勤務の同期たちと触れ合う機会があることで、彼らの中の可能性を高めることにもなる。

運動会だけではなく、たとえば2020-2022入社組を対象としたキャンプ&BBQイベントに会社から援助金(遠方勤務の人ら交通費など)を出してあげたりなどしてはどうか。別に老人の社長とか来なくていいから、若手だけの集まりを支援してあげてほしいと思う。

今は表立って職場結婚などを推奨できなくなっているらしいが、何度もいうように婚姻数が減っているのは職場結婚が減っているからであって、ここをうまく取り仕切らないと婚姻数は増えない。大企業なら大企業としてできることをやってもらいたいものだ。

前置きが長くなったが(前置きだったのかw)、実は本来書きたいのはそこじゃなくて、この運動会の件はテレ東のWBSでもやっていたのだが、そこのコメンテーターのコメントが大嘘すぎるので訂正したくなったためだ。

WBSの原田亮介解説キャスターは「Z世代は同世代の横のつながりを大事にする。友達に認められたいという価値観を持っているのが特徴だ」などと言っていた。
さらに、「自分の行動を決める際に友人がどう思うか重要」との質問に対しても10代は49.3%と30代の29.2%、40代の22.1%と比べてこちらも高い数字が出ました。この点がこれまでの世代とZ世代との違いと言えます」とか言ってる。

これは「Z世代は今までの世代と違う」と言いたがるおっさんの間違った認識。

「横のつながりを大事にする」のは別にZ世代に限らず、1980年代だろうが1990年代だろうが、いつだって新入社員は横のつながり(同期のつながり)は大事にする。同じ会社じゃなくても、大学の同期と社会人になってからも縁をつないでいる人も多いのは昔も今も変わらない。
ちなみに、戦中に徴兵された若者ですら「同期」の縁は大事にしていた。兵隊の場合は、同期であるだけではなく、加えて「同郷」の縁も大事で、だからこそ師団構成は、東北出身部隊や九州出身部隊など同郷で集めて、縦の連帯意識も強化していた。

「友達に認められたいという価値観を持っているのが特徴だ」とかに至っては、じゃあ、昭和の若者は「友達に認められたくない」とでも思っていたのか?バカも休み休み言えという話だ。

最近の若者は自分の信念を大切にしたいと考える一方、「他人が自分をどう見ているか」という“他人の目”を気にし、他人への気配りにも神経を使っている。また、「将来のための努力」より「毎日の生活」を楽しみ、安定志向が強く、親友とも適度に距離を置いてつき合っている

これを見て「Z世代らしいね」なんて思うだろうか?
実はこれは、総務省が実施した調査に基づいた1986年の読売新聞の記事である。1986年の若者は、令和の今なら還暦である。

昭和だろうが、平成だろうが、令和だろうが、若者なんて大体変わらない。もっと言えば、大正も明治も江戸時代の1600年代の侍ですら変わらない。なぜなら、江戸時代の書物「葉隠」の中にも同様のことが書いてあるからだ。

そもそも「自分の行動を決める際に友人がどう思うか重要」なんて意識は、世代で変わるものではない。変わるとすれば、自分の経験と交友関係の変化(仕事経験によって、大学や会社の同期以外の縦の関係性が増える)によって、行動意識が変わるだけである。

つまり、バブル世代だからZ世代だから価値観が違うのではなく、いつの時代も20代は20代の、40代は40代の価値観があるに過ぎない。
にもかかわらず、中年や老人になると「最近の若者は…」と言いたがるのも世代の問題ではなく、いつの時代を生きても、人間は年を取れば「最近の若者は…」と言うものだから。そして、自分が若い時な上から言われて「うっせえな」と感じたようなことを今度は自分が若者に対して言っている。

エジプト文明ですら同様の記載が見つかっているので、少なくとも4000年以上前からそうだし、日本では文字の記録として見つかっていないだけで、それこそ縄文時代から何も変わっていないだろう。

まあ、それが人間というものだから、テレビでよく街頭インタビューされる中高年が「最近の若者は…」というのは仕方ないし、別にそれでいいと思うが、少なくとも100年前からの自社の記事データベースを持つ新聞社や。仮にもテレビで識者面してコメントをいうのであれば、そうした事実をふまえて行ってもらいたいものである。

そもそもなんとか世代とかのレッテル貼りして、クラスター化するのは、マーケティングにおける常道で、今でも広告代理店の作る企画書には「Z世代は~」などと書いてあるのもあると思うが、いい加減そんなものは通用しないということをプレゼンを受ける側が認識しておいた方がいい。

通用したのは、高度経済成長期からバブル期までの話で、本当に人々がマス的に行動した時代が確かにあったからだが、それを私は「人生ゲーム」マーケティングという。

人生ゲームを知っているだろうか。

あれ、以前は必ず「結婚」のマス目で強制的に止まらされ、プレーヤーは全員結婚することになっていた。しかも、プレーヤーは全員自家用車を持っていることで進められていく。

以前はそれでよかった、皆婚だったし、大抵の人は自家用車を所有していた。多くの人が同じ年代で就職し、結婚し、子をを持ち…というライフサイクルが同様だったので、一括りにしても違和感はなかったのだ。
しかし、それは個人の価値観が変わったからではない。個人の置かれている環境と立場が以前は20代で多く変わったからだ。
なぜなら、人間の価値観を変えるのは、年齢より、どういう立場になるかが大きいからだ。独身の30代と既婚子持ちの父親の30代では大きく価値観が変わらざるを得ない。日常が違うのだし。
むしろ、独身子無しの20代と50代独身子無しは年代が親子ほど差があってもたいして価値観に違いはない。

大事なのは、年齢ではなく、その個人が置かれている自分の環境における役割の違いなのである。それを考慮もしないです、単純に年代で分けて「なんとか世代は~」なんていまだにやっているとしたら、それこそ昭和のマーケティングから脱していない証拠だろう。

ちなみに、人生ゲーム生みの親タカラトミーも「結婚のマス目での強制ストップ」というルールを変更したそうだ。

こういうことを書くと、いつの時代も若者の価値観は変わらないというが、時代に応じてテクノロジーの違いは明白で、そうしたもので人間の価値観は変わるもんだとか言い出す輩がいるんだが、もちろん経済環境や戦争の有無などの社会環境の影響はあるが、そんなツールごときが変わったくらいで人間の価値観なとたいした影響は受けない。

江戸時代の若者男子もモテたくて人知れずメイクをしていた。

江戸時代も押し活していた。

昭和初期の婚活女子も「男は金だ。学歴なんんどうでもいい。金を稼ぐイケメンを紹介しろ」と結婚相談所に要求していた。一方、男も「専業主婦になりたいって女は嫌だ」と言っている。何も変わっていない。

価値観とは、年代ではなく、立場と役割で変わるもの。立場や役割が変わったのに価値観が変わらない人間の方がヤバいだろ。

世代論なんて通用しないという詳しい話はこちらに書いた。

それから「Z世代」なんて言葉はおっさんが考えたものなのに、若者が「俺たちZ世代だから~」とか簡単に乗っかるのもどうかと思うよ。おっさんが自分らの若い頃を(自分の若い若のことをすっかり忘れて)トレースしているだけなので。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。