イントロが短くないと売れないって本当?米津玄師、優里、YOASOBI、Official髭男dism等で検証
昭和〜平成のヒット曲のイントロは平均17秒
昨今「J-POPのイントロが短くなっている」というデータや記事をよく見かけるようになった。実感としてそんな気もしないでもないが、本当にそうなのか?ちょっと気になったので調べてみた。
*秒数は筆者がiPhoneのストップウォッチで手動計測したので多少の誤差は容赦ください。
まず、昭和〜平成のヒットチャート上位20位を見ると、イントロがないのはサザンの「TSUNAMI」だけで、10秒未満の曲は全体の3割(6曲)。平均では17.5秒だった。別に昭和の方がイントロが長いというわけでもない。
(発売年:黒文字が昭和/赤文字が平成)
最もイントロが長かったのは小田和正の「ラブストーリーは突然に」で39秒もある。印象的なイントロを聴くだけで、この曲が主題歌だった「東京ラブストーリー」の名場面が蘇る人も多いのではないだろうか?
前述チャートから10年以上が経過した2011年の年間ヒットチャート上位20曲を見ると、イントロの長さは平均17.7秒でほとんど変化がない。イントロが10秒未満の曲は、ここでも3割(6曲)だった。
ストリーミングの出現でイントロ尺は半分以下に
ところが、さらに10年後の2021年に状況は一変する。
イントロが無しの曲が40%(8曲)。トップ20のうち、なんと75%(15曲)がイントロ10秒未満。平均は6.3秒と10年前の3分の1程度になっていた。
一体この10年で何があったのか??
言うまでもなくサブスクの急速な普及である。主なサブスクの日本でのサービス開始は2015年くらいからで利用者数は年々増加している。
当然のことながらストリーミング再生回数はヒットチャートを左右する。
ストリーミングでは一般的に30秒以上再生されないと「1再生」としてカウントされず、収益にならないと言われている。だが実際は最初の5秒で4人に1人(24.14%)*が、30秒未満で約3人に1人(35.04%)*が次の曲にスキップしてしまう。
*Spotifyの関連会社が出した2014年時点でのグローバルデータ
再生後すぐに”つかみ”がなければ即スキップ。となればイントロを短くしたり、いきなりサビから始まるなど、なんとか30秒以上聴いてもらう工夫が必要になるだろう。
特に知名度の低い新人アーティストにとっては死活問題だし、トップアーティストと言えども、長いイントロでもじっくりと聴いてくれるのはコアファンだけかもしれない。
イントロの長さとヒットの相関関係
<YOASOBI>
YOASOBIは2021年の年間チャートに3曲もランクインしているが、すべてイントロがない。さらに代表曲を見ると、16曲中イントロが10秒以上あるのは3曲のみ。
ストリーミングやYouTubeで音楽を聴くのが当たり前の(=スキップする可能性が高い)若年層にぴったりアジャストしているのがわかる。
ちなみに2022年版LINEリサーチの最新調査でも、高校生に人気のアーティスト1位はYOASOBIだ。(同アンケートの2位はOfficial髭男dism、3位は米津玄師)
2019年デビューのYOASOBIは小説を歌にすると言う斬新なコンセプトで話題を喚起しただけでなく、イントロをほとんど排除し、いきなりIkuraの透明感ある歌声をガツン!と聴かせることで、新人ながらストリーミング再生数を稼ぎまくったと言える。
事実、8億回再生を突破した「夜を駆ける」を筆頭に、YOASOBIは2022年6月時点で、再生数1億回以上が11曲とストリーミング再生楽曲数最多アーティストである。
やはり、イントロの短さは令和のヒット曲への重要なファクターなのか?
<Official髭男dism>
続いて、2021年の年間総合チャートに2曲がランクインしているOfficial髭男dismを調べてみたら・・・・
早くも仮説が崩壊した。
ストリーミング再生数6億回超えの「Pretender」のイントロは31秒もある。さらに主要曲のイントロ尺の平均は16秒と昭和〜平成の頃とほぼ同じだったのだ。
髭男のストリーミング総再生回数はYOASOBIと並んで30億回を超えているが、ほとんどの曲に10秒以上のイントロがあり、イントロの長さとストリーミング再生数との相関が全く見られなかった。
<優里>
さらに昨年の年間総合チャート1位の優里も、髭男ほどではないが比較的イントロが長く平均で11.9秒、イントロなしなのはわずか2曲だけ。
ソロアーティストとして初めてストリーミング5億再生を突破した「ドライフラワー」は、イントロが13秒もあるが、ストリーミングランキングでは85週中トップ10落ちしたのはたった2回(11位と12位)だけだった。
結果、総合チャートでも73週に渡ってトップ10をキープ。これは米津玄師のLemon*に匹敵する。
*Lemonも2018年2/21〜2019年7/17までの73週連続トップ10圏内。
<米津玄師>
2018年以降メジャーデビューしたYOASOBI、Official髭男dism、優里などがストリーミング時代の申し子だとすれば、2012年デビューの米津玄師は、”所有欲”を刺激するフィジカルに強いこだわりがあるように見える。
だが、サブスク解禁(2020年)が遅かったせいもありストリーミングには比較的弱い。ほとんどの曲が当たり前のようにダウンロード1位を獲得するも、ストリーミング最高位は2位止まり。
意識的か偶然かの判断はしかねるが、米津のシングル表題曲のイントロには、非常に明らかな変化が見受けられた。
平均イントロ尺は13秒だが、出世作であるLemon以降、顕著にイントロのない曲が増えている。Lemonまでは平均20.1秒もあったイントロが、2018年以降はわずか5.9秒。なんと約7割減である。
*シングルではないため除いた、「感電」(イントロ:19秒)を加えても平均7.2秒
2018年時点で、ストリーミングに大きく影響され始めたヒットチャート指標を踏まえ、近い将来のサブスク解禁を見据えて、イントロを戦略的に短くした可能性は無きにしも非ず。特に主題歌タイアップにそれが顕著に現れている。
*米津玄師に関してはさらに深堀りしたので、巻末にオマケとしてその結果を記載した。ついでに藤井風のデータも添付しておくので気になる方は是非。
2022年上期最新チャートみるイントロの変化
ここで、先日発表されたばかりの今年上半期の総合チャートを見てみよう。
全体の平均イントロ尺は、昨年と大差なく、相変わらず10秒未満の曲が半数以上を占めている。だが、大きな変化にお気づきだろうか?
今年のチャートでは明らかに上位(トップ10)の曲のイントロが長くなっている。
2曲がトップ10入りしているKingGnuのイントロは「一途」が24秒、「逆夢」は25秒だ。21秒の「残響散歌」も28秒の「水平線」もすべてストリーミング1位を獲得している。
あくまでも、大雑把に俯瞰するに過ぎないデータだが、巷で言われている「J-POPのイントロが短くなっている」「イントロが長いとストリーミングで不利」「イントロが短くないとヒットしづらい」とする根拠を見つけることはできなかった。
優れたイントロは、癒しへのアペリティフにも、高揚への滑走路にも、快感への前戯にもなり得る。そればかりか洋楽にはサビより有名なイントロがいくらでもあるほどだ。当然それらの価値は長さで決まるものではない。
「歌詞を聴きたい」「声が聴きたい」だけの人も多いだろうし、クソ味噌一緒の膨大なサブスク砂漠から砂金を探し当てるには時間が足りないのもわかる。だからこれからも、スキップする人は5秒と待たずにスキップするだろう。
どうせそれが避けられないのなら、56秒ものイントロがある「何なんw」でシレっとデビューした藤井風のように、J-POP史に残るような名イントロや、ゴリゴリのギターソロ入りの間奏みたいな無茶も好き放題にやって欲しいもんだと無責任に願う。
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<米津玄師研究室からのオマケ>
アルバム別平均イントロ尺
diorama(2012年): 33.6秒
YANKEE (2014年):16.2秒
Bremen(2015年) :22.6秒
Bootleg(2017年): 14.8秒
STRAY SHEEP(2020年): 11.8秒
全曲平均イントロ尺:17.9秒
<イントロが長い曲トップ5>
1位:抄本(115秒)
2位:恋と病熱(37秒)
3位:ミラージュソング(35秒)
4位:心像放映(34秒)
5位:ViVI/街(32秒)
全曲平均アウトロ尺:15秒
<アウトロが長い曲トップ5>
1位:ETA(96秒)
2位:駄菓子屋商売(56秒)
3位:ホープランド(53秒)
4位:抄本(45秒)
5位:フローライト(40秒)
イントロがない曲:12曲
アイネクライネ
眼福
NightHawks
ララバイさよなら
馬と鹿
優しい人
Lemon
海の幽霊
カナリヤ
クランベリーとパンケーキ
Pale Blue
M八七
<藤井風専科からのオマケ>
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