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北欧症候群〜バルセロナから振り返る北欧生活と、北欧に憧れる日本人に伝えたいこと

年末までの連投チャレンジ4日目、スペイン・バルセロナからこんにちは!実は先週末より、北欧スウェーデンから夫の実家があるスペインのバルセロナにクリスマス休暇の帰省旅行に来ています。午前11時現在の気温は摂氏11℃、少し肌寒いですが、空には雲一つなく太陽が燦々と輝いていて、非常に快適で気持ち良いです。

冬至の日には日の出が8時44日、日没が14時49分、南中高度が7度という、暗くて寒いスウェーデンの首都ストックホルムにいた身としては天国のような場所です。

バルセロナ空港から一歩外に出た私は開口一番「SUUUUUUUUN!!!(太陽!!!)」と叫びました。日焼けなど気にせず、ここ数日は毎日外出して太陽の光を浴びていたところ、11月頃からずっと沈んでいた気持ちが晴れてきました。

「できれば夏までスウェーデンに戻りたくない。」これが今の私の率直な感想であり、休暇明けのことを考えると胃の辺りがズーンと重くなります。

快晴の空と太陽が毎日続く冬のバルセロナ

ということで、本日はバルセロナから振り返る北欧生活と、北欧移住希望者に向けたメッセージというテーマで書いていきたいと思います。

もちろん、北欧といってもスウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェー、アイスランドなど国によって違いはありますし、都市か郊外かでも状況は大きく異なりますので、私の意見にスウェーデン、しかもストックホルム在住者としてのバイアスがかかっていることはご了承ください。


Abema Primeで取り上げられた「北欧症候群」

近頃、北欧の国々が自然豊かで社会福祉が発達し、幸福な「約束の地」のように紹介されていることに加え、サウナーブームもあってか、北欧在住者として北欧に憧れる日本人から移住相談を受けることがよくあるのですが、ついつい彼らの熱い思いに冷や水を浴びせるような言葉が出てしまうことがあります。

私の言葉で挫けるようでは早々に出戻ることになるし、ネガティブ情報を聞いても行きたいというエネルギーを持った人が行けばいいと思っているだけで、決して止めているわけではありませんし、むしろ人生経験のために留学やワーキングホリデーなどは推奨したい立場です。

それでも、北欧に関する情報として、意図的に物事の一面だけを伝えたり、誤解されるような伝え方がされているのではないかと、疑問を抱くことがあります。

23年8月16日に放送されたAbema Primeに出演させて頂いた際は、実際の北欧生活は、楽しいことや綺麗なことばかりではないということ、北欧生活のネガティブな側面についてコメントし、パリ症候群をもじって「北欧症候群」として取り上げて頂きました。

実はこの回、当初は「北欧における女性の活躍について良い面を語る」という依頼だったのですが、打ち合わせ中にうっかり私の毒舌が出てしまったため、北欧のネガティブな面についても触れてみよう、ということになったのです。

憧れの地に住めたにも関わらず適応できず、精神疾患を発症してしまう状態として、華やかなイメージに憧れてパリで暮らし始めた日本人が、パリの習慣や文化などに適応できずに 精神的なバランスを崩し、うつ病に近い精神状態に陥るパリ症候群という言葉があります。

パリ症候群
流行の発信地」などといったイメージに憧れてパリで暮らし始めた外国人が、現地の習慣や文化などにうまく適応できずに精神的なバランスを崩し、鬱病に近い症状を訴える状態を指す精神医学用語である[2]。具体的な症状としては「日常生活ストレスが高じ、妄想幻覚自律神経の失調抑うつ症状をまねく[3]」という。

https://ja.wikipedia.org/wiki/パリ症候群

どこの国でも良いところもあれば悪いところもあり、長く住めばある程度は「都」になるものです。「外部環境のせいにする人は、どこに住んでも文句を言う。そんなに嫌なら、住まなければいい。」という意見は最もで、実際、北欧に長く住んでいる日本人はある程度、適応しているように見えます。

しかし、本人の資質や「他責」のマインドセットを抜きにしても、どうしても現地の自然環境や文化、食生活に適応しきれず、いくら住んでも都にできないということはある、と認めてあげることは、過度な自責が引き起こす精神疾患の発症を未然に防ぐためには重要だと思います。

ある日本好きなスウェーデン人の青年は「アニメが好きで、20代前半は日本へ語学留学に行っていろんなことをしてみたいけど、日本の会社の働き方は自分には合わないと思うから、適度に満喫したらスウェーデンに戻る予定」と、批判的に考察した上で日本に留学に来ていました。

もちろん住んでみないとわからないことは多いですが、事前調査で、自分にとってその国のどういう部分が好ましく、どこが受け入れられないのか、ポジティブな情報だけでなくネガティブな状況も含めて冷静にみることで、期待はずれで落胆する気持ちを軽減することができると思います。

そもそも、パリ症候群や北欧症候群になるのは、プロパガンダや偏ったマーケティングメッセージを鵜呑みにすることで、相手に対して過度な期待、自ら作り出した妄想に囚われるなど、ものごとを正しく見ることができていないことが、根本的なの原因ではないでしょうか。

「正しく見る」とは仏教の八正道でいう「正見」のことで、詳しくは割愛しますが、ものごとを自分の都合でねじ曲げてとらえず、自分の妄想や他者の妄想に囚われないで、現実を客観的かつ合理的に見ることです。

北欧は本当に幸福なのか?

2023年の世界幸福度ランキングでは北欧諸国が上位を占めており、フィンランドにいたっては6年連続の首位と、幸せな国としての地位は不動なものとなっています。

そのおかげで、よく「北欧の幸せの秘訣を教えてください」と聞かれるのですが、これは突き詰めていくと回答に困る、非常に難しい質問です。というのも、そもそもこのランキング自体に、私個人として納得できていないからです。

  1. フィンランド

  2. デンマーク

  3. アイスランド

  4. イスラエル

  5. オランダ

  6. スウェーデン

  7. ノルウェー

このランキングをみると、建国以来、常に隣接するパレスチナとの火種を抱え、ついに23年10月から大規模な戦闘が始まり今現在も収集がつかないイスラエルは、スウェーデンすら抑えて幸福度ランキングでは第4位です。

調査が始まったのが戦闘の前であったことを考慮しても、人々の怒りと憎悪に塗れたパレスチナ問題を抱え、日常的に南部のガザ地区や、北側のレバノンから、イスラエルの各都市に向けて、ミサイルが無差別に発射されるという状況でも幸福度が高いというのは、複雑でなんとも言えない気持ちになります。

また、日本は47位ですが、これは24年前まで紛争に苦しみ、いまだに深刻な経済的・政治的困難に直面しているといわれるコソボ(34位)や、陽気なイメージの反面で麻薬ギャングが蔓延り、より良い生活を求めて米国に大量の移民を排出しているメキシコ(36位)よりも幸福度が低いそうです。

日常的に宗教対立やテロが起きたり、社会インフラや政治、文化面において紛争の爪痕が残っていたり、ギャングやマフィアの横行で夜間に子供や女性が1人で歩けない国々よりも、電車の中にバッグを忘れても持ち主に戻ってくるほど治安が良く、北欧まではいかずとも健康保険や年金など社会福祉制度が整い、GDPも世界第3位の日本がより不幸、というのはなぜでしょうか。

もっとも、ここまで条件がそろっても幸せを感じることができないということが、日本の大きな課題なのでしょう。

これまで、会話の中で何人かのスウェーデン人やフィンランド人に「あなたの国は幸せだそうですね。その秘訣を教えてください。」と質問したことがあるのですが、回答は大体「え!私たちって幸せなんですか?」という驚きから始まり、「こんな暗くて寒い辺境の国に住む私たちが、経済的に豊かで自然に溢れ、ご飯が美味しくて平和な日本より幸せってどういうこと?」と戸惑うのです。

世界幸福度ランキングについて説明してようやく「なるほど、社会システムの面で発達しているからですね。そうであれば、納得できます。」と、自分達が作り上げた社会への自負に行き着くのですが、19世紀まではヨーロッパの最貧地域であり、逆境を克服するために努力を試行錯誤を重ねてきた北欧の人々にとっては、外部の人から「あなた達は幸せですね」と言われても「は?あなたは一体、何を見てそんなことを言っているんですか?」という感想になるのです。

とりあえず、季節性感情障害(SAD)に気をつけろ

いずれ北欧症候群の原因となりうる、北欧、特にスウェーデンのネガティブな側面について、社会制度や文化などさまざまな側面を構造化してお伝えしようと思いますが、日本人はもちろん、どこの国からきた移民に聞いても「こんなはずじゃなかった」という声の筆頭にくるのは、寒くて暗い、北欧の天気です。

これに関しては北欧の人も「天気についてはネガティブな側面として捉えられても仕方ない。」と納得しており、摩擦が生じにくい文句なので、Abema Primeでも無難にこの点を発言させて頂きました。

北欧移住を考えるみなさんに知っておいて頂きたいのは、緯度が高い北欧において半袖で過ごせるような夏の期間は3ヶ月程度と短く、現地での生活の大半は日本人にとっては「冬」の気候です。

夏は白夜に近く、一日中明るい日が続きますが、冬は逆に日照時間が短くなるので、ビタミンD欠乏症や、季節性感情障害(SAD、Seasonal Affective Disorder)にかかるリスクが高まります。

SADとは、秋から冬にかけて、気分の落ち込みが見られる障害のことで、夏にうつ状態になる場合もあります。主な症状は通常のうつ病と同じようなものですが、SADの場合は睡眠時間が長くなり、食欲も増すことが多いそうです。

よく「スウェーデン人は夏と冬で性格が違う」と言われるのですが、たとえSADを発症していなくても、天気が良い日と悪い日では気分が変わってくるというのは直感的にイメージができるかと思います。

SADの主な症状
気分が落ち込む(午前中のほうが症状が強い)
気力がなくなる
元気が出なくなる
生きる張り合いがなくなる
物事を楽しめない
イライラする
人と会いたくない
性欲が減退する

参考サイト

太陽光の弱さと日照時間の短さはもちろん、外が寒いこともあって家にこもるようになると、太陽に当たる時間がどんどん短くなっていきますが、太陽光不足はメンタルヘルスにとって深刻な影響をもたらすと言われています。

太陽光不足になると体内のセロトニンという物質が不足します。セロトニンは、ドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)の情報をコントロールして精神を安定させる働きをする神経伝達物質ですので2)、セロトニンが不足することで、意欲が低下したり、ストレスを感じやすくなったり、悪化すると不眠やうつ病を引き起こす恐れがあります。太陽光を浴びることは、体内時計を狂わせないためにも、セロトニンの分泌を増やすためにもとても重要なのです。

参考サイト

もっとも、ここまでは北欧という地域特性を考えると当然のことなのですが、北欧の宣材として使われる写真や動画に、夏に撮られた素材が使われることで、まるで北欧が年中明るい国であるかのような誤解を生じさせる伝え方は、なかなかどうして罪深いのではないかと思うのです。

典型的なスウェーデンのイメージ:2021年6月24日16時頃撮影

雪が降れば光の反射で明るくなり、綺麗なのですが、ストックホルムでは雪は年明けまでほとんど降らず、ひたすらどんよりとした雲で覆われた寒空の下で過ごすことになります。

冬季、太陽が低空飛行している様子:2023年12月17日12時頃撮影

短期滞在の方はもちろん、全てが新しく刺激的で興奮状態にある移住1年目の段階では「暗いこと」の問題に気がつかないかもしれないですし、2年以上経っていても、明るい室内で長時間忙しく働いている場合は「北欧の冬?別に気にならないですよ。」という感想になるかもしれません。

しかし一度、冬を季節としてじっくりと、マインドフルに味わってみると、寒さ以上に日照時間が短いことの深刻さ、心と体への影響に気が付くのではないかと思います。

しかも結婚などの理由で長期的に移住する場合は、毎年やってくる白夜と極夜という、体内時計を大いに狂わせる極端な変動を否が応でも受け入れなければならないため、「こんなはずじゃなかった」と後悔の気持ちが積み重なったり、自ら希望して移住したことで辛さを吐き出せず、精神的なバランスを崩しやすくなるかもしれません。

「正しく見る」ことの重要性

北欧に限らず、海外移住を検討される際は、どの国にも必ず良い面と悪い面があるということを肝に命じ、少しでも「こんなはずじゃなかった」という事態を避けるため、できるだけバランス良く情報収集してください。

事前調査のつもりでも、夏の北欧に来た場合は、かえってミスリードを誘うことになってしまいますので、もし北欧に住むかどうか決めるなら、本格的な冬が始まる11月半ば頃、北欧の人々がドヨーンとした顔をしている時期に来られることをオススメいたします。

当然ですが、「憧れの北欧ライフ」のような、北欧のキラキラしたイメージを売って対価を得ている側は、ネガティブな情報を受け手に伝えません。

一方、「私がうまくいっていないのは、この国が悪い!」と被害者意識を前面に出して、全てを居住国のせいにしてしまっている可哀想な移住者の見解にも注意すべきでしょう。私は一時期、このパターンに陥りました。

初めから全てを「正しく見る」ことはできませんが、少なくとも心がけとして持ち続けることで、北欧症候群をある程度、予防することができるかと思います。


さて、2023年12月26日も中央ヨーロッパ時間で23時をまわり、31日までの連投チャレンジのタイムリミットが近づいてまいりました。北欧症候群については書きたいことや補足したいことがもっとありますので、後日、この記事への補足および別立てで記事を書いてみたいと思います。

それではまた明日!


追記。バルセロナが記事タイトルに入っているということで・・・去年、バルセロナで大晦日にビーチ・ブレスワークを開催した時の様子です。スウェーデン人がこぞってバケーションに訪れる、真冬でもこのようなウェルビーイングなイベントがビーチでのんびりとできるスペインの幸福度ランキングは、32位でした。


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