春に
わたしがはじめて谷川俊太郎さんの詩を知ったのは中学2年生になって合唱曲で歌った「春に」がきっかけだった
中学生のわたしはそれまで人生というものをあまり知らなかった
自分ではどうすることもできないことへの苦しみ
それでも世界のすべてを許したくなるほどの喜び
季節が巡ってくること
生きていること
ただそれだけで素晴らしいこと
いままで言葉にできなかったけれど
確実に肌で感じてきたこと
春の空気を吸い込んだときの
懐かしくてどこかに行ってしまいたい気持ち
じぶんの身体がこの世界には小さすぎて
まだ会ったことのないひとがたくさんいて
まだ出会っていないけどきっと好きになるものがまだまだ溢れていて
そんなこれからの人生がとにかく嬉しくて
すれ違うひとすべてに感謝したくなるときの気持ち
じぶんでも上手く言えない感情をはじめて代弁してもらえたようでほんとうにびっくりした
詩や言葉によって
世界にひとりぼっちだと思えたじぶんに光を灯してもらえるような
手を差し伸べられるような
そんな気持ちになれることをはじめて知った
私は昔から気にかけられていない日陰にあるようなものについて考えることがあり
そのたびにかなしい気持ちになっていた
長年放置された廃墟はほこりだらけでカビも生えて建物が悲しんでいるように見えたし
演奏されなくなった楽器はかがやきを失っているように見えた
また仕事では改善するべき点をそのままにすることでだれかが苦労することもある
感情を吐き出せず誰にも共感されず我慢してきたひとはいつか心も身体もぼろぼろになってしまう
そしてそれとは逆に
細かいところまで気にかけてくれる人間のやさしさに感動することもあった
途中から来た人にいままでの話の流れを説明してそのひとが会話に入れるようにしてくれる人や
ライブで誰も置いてけぼりにならないように初見のひとでも盛り上がれる空気をつくってくれるアーティスト
だれかの親切心に気づいて感謝を伝えられる人
顧客のことを考えた使いやすいサービスや商品
そんな
“隅々まで見てますよ”
の気遣いをしてくれる人間にほんとうに救われてきたと思う
谷川俊太郎さんの詩からはそんな
“隅々まで見てますよ”
をたくさん感じられる気がするから好きなのかもしれない
それも人間だけではなく
動物、生きもの、植物、空気、光、宇宙の星たち、目に見えないもの、天使たち、未来のこと、過去のこと
そのほかにもきっとたくさん
私も彼のようにだれもさみしくならないような場所をつくりたい
そしてそれを歌や詩でつくることができたらいいなと思う