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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#春ピリカグランプリ

【春ピリカ】(テケテテン)せかいふぃんが~さみっと~~~(ポワンポワンポワワワ~ン)【ショートショート】

世界フィンガーサミットは煮詰まっていた。 Next Generation Finger、通称NGF。 キミも知っているだろう。 そう。我々は次世代指を決める為、ここに終結したのだッ…!! 機械指族が誇らしげに実演に入る。 腰をいわした模様だ。会場から失笑が漏れる。やはりな。機械指族は、その指に身体が付いていけないッ…!!機械指族長は左右を抱えられ、悲し気に退場した。 次は食糧指族か。初見だが、噂は予てから。 植物指族の子がステージに上がる。食糧指族長の手先のフライド

ひみつのともだち

5年生に上がり、3度目のクラス替えがあった。 まりかとひなこは家が近所同士だったこともありお互い顔を見知っていたが、同じクラスになることは一度もなかった。 それが今年、一緒になった。しかも、机も前と後ろの近所同士。ひなこが前、まりかが後ろだ。 まりかはひなこのことを心配していた。 毎日学校指定ジャージを着ているし、髪の毛は寝癖を何日も放置したようにボサボサしていて、お世辞にも身だしなみはかなり乱れていた。そのくせ振る舞いはぶりっ子じみている。あまりにも見るに堪えなくて、クラ

小さな巨人 【春ピリカ】

双子が家出をした。 いなくなってからもう三日になる。 けれどすぐに探すことはしなかった。 それは、双子なんかいなくても なんとかなるだろうと思っていたから。 双子が家出してからの僕は、ふらふら、ゴツン。 転んでばかりいる。 何で急にバランスがとれなくなったのか? ゴンっ。いてっ。 一体何なんだ。うまく歩けやしない。 思えばこれは双子がいなくなってからだ。 僕はよく足の小指を馬鹿にしていた。 重要性が低いくせによくぶつけるのだから腹が立つ。 つい最近もまた僕はいつものよう

こゆびくんと赤い糸

こゆびくんのご主人は、 とっても怖いおじさんでした。 ある日おじさんは仕事を失敗して、 おやぶんにこゆびを切られました。 ドンッ コロコロコロコロ こゆびはコロコロころがって、 手足が生えて、 こゆびくんになりました。 おじさんはこゆびくんをおいかけたけど、 こゆびくんは怖くてにげました。 たどりついたのは、おじさんがうまれたおうち。 でも、もうそこはあきちでした。 こゆびくんは泣きました。 うまれたおうちは、もうありません。 こゆびくんはおじさんと ずっといっ

『指、あるいは、ある家族の思い出』 # 春ピリカ応募

指である。 紛れもなく指である。 出窓のところに、ポツンと心許なさそうに。 それは、あると言うよりも、そこにいるという表現の方が当てはまるような気がした。 カーテンの隙間からの月明かりを避けるようにして、そこにいる、それは、紛れもなく指だ。 指とわかれば、次はどの指かが知りたくなる。 ベッドの上から、じっと目を凝らす。 どうやら親指でないことは、形状から明らかだ。 そして、小指でもない。 ゆっくり立ち上がって、静かに近づいてみる。 気づかれると逃げてしまいそうだ。 息を殺して

『その指に恋をして』 #春ピリカ応募

「私、今日の帰り柊ちゃんに告白する」  唐突な私の宣言に、教室で一緒に昼食を食べていた友人たちは好物のおかずもそっちのけで身を乗り出した。 「萌音、ついに柊哉先輩のこと好きって認めたね!」  「うちらが幾ら好きだね~って言っても頑なに抵抗してたのに!」 「『私は柊ちゃんの指が! 好きなの!』」  友人たちが声を揃えていつもの私の台詞を真似てみせる。 「ゆ・び・が!」と強調するところまで忠実だ。 「あんた柊哉先輩の指が好きすぎて、2,3年の先輩にソロ譲ってくれって頭下げ

指を食べる | 春ピリカ応募

「ぼくの指を、食べてみないか」 おどけた口調で恋人に指を差し出されて、軽く眉をひそめた。 「わたし、別にお腹減ってないよ?」 そう断ったものの、彼は差し出した指をそっとわたしの顔に滑らせて、にゅっと口のなかに入れてきた。 「おやつにぴったりだと思うんだけどなぁ。そのうち、もとに戻るしさ」 たしかに指くらいなら、一週間あればもとに戻るだろう。 子どものころに石に挟んで指を失ったときはこの世の終わりかと思ったけれど、そのあと指は何食わぬ顔でしれっと生えてきた。 とはいえ、

「指の綾子」考 #春ピリカ応募

 昔書いた掌編小説で「指の綾子」という話がある。題名は覚えているのだが、内容をさっぱり思い出せない。「綾子」というのは、当時私の勤めていた食品工場の同僚の名前である。彼女は撹拌機に巻き込まれ、指だけを残してその他の体を粉々に砕かれた。親しい同僚の凄惨な最期を見た私は気が動転してしまい、綾子の指を隠し持って早退した。  その後医療の進歩と世界的な倫理観の崩壊と私の借金と引き換えに、指だけの綾子は培養技術により全身を復活させ、私の妻として家にいる。「事故」「工場」「切断」といっ

【小説】お父さん譲りの短い指に

病室のベッドで目を閉じる初老の男性は、あの父親と同一人物とは思えないくらい弱々しく見えた。 "お客さんの家を作る。お客さんの人生を作る。夢のある仕事だろ?" そう言って誇らしげに工具を扱う父親に、わたしはあまり懐いていなかった。 男みたいに短くて、ゴツゴツした自分の指が嫌いだった。 わたしが物心ついたくらいから大工をしている父親譲りの指である。 周りの女の子みたいになりたくて、ピアノを習ってみても指が短くて1オクターブも届かない。 一生懸命バイトをしてお金を貯めて、ネ

スーパーサブ【創作短編】

トイレの個室に入り鍵をかけると、とりあえず座り込んだ。 極度の緊張。 呼吸は浅く、手先が小刻みに震えている。目を閉じ、祈るような体勢で呼吸を整える。こんな時は決まって、子供の頃のある記憶が頭をかすめる。 「そこの野球帽をかぶった君!手伝ってもらえるかな」 ビシッとした黒いスーツの男性から、突然の指名を受けてステージに上がった。小学2年生の時に、母親と見に行ったマジックショー。 「このステッキを持って、上に掲げてください」 渡された白い棒を両手でギュッと握った。キラ

指輪なら、はなまる指輪専門店へ

 ポストの中身を整理していると、春色の葉書が目に入った。埃を被った小箱に目を遣る。あの指輪を蘇らせられるのだろうか。  カランカラン。重い扉を引くと、古風な喫茶店風の店内で、にこにこ顔の若い女性と初老の男性が迎えた。 「いらっしゃいませ」 「この葉書を読んで来たんですが」 「ありがとうございます。こちらにおかけください」  椅子に腰かけ、鞄から指輪を取り出す。 「この指輪を直していただけないでしょうか?」 「承知しました」  男性が笑みを湛えたまま、二つ返事で承諾する。 「

モギー虎司と大きな鳥 #春ピリカ応募

 優太は休日、依頼されれば無償で老人ホームなどの施設を訪問している。今日はいつもと違い、母親に頼まれて父親の道具が入った重たい鞄を担いでいるというのに、駅前を見渡すと、鳥の形をした大きなモニュメントがあるきりで、バス停もタクシー乗り場もなく、目的地へは徒歩で行くしかなかった。 「ますます親父が嫌いになるよ」  優太の父親はモギー虎司という手品師だった。  山高帽に燕尾服がトレードマークで人気があった。演芸場の楽屋で出番を控えた落語家に「お前の父ちゃんの芸はいつ見てもおもしれ

【創作】イレギュラー

5球団競合の末、希望する球団に迎えられた野原祐介は、自らの前途に大いなる夢と希望を描いて晴れがましい会見に臨んだ。 「見てください、この手を」 同席した監督が祐介の右手を取って報道陣に示す。 「今までいろんな投手の手を見てきましたが、こんなに長い指は見たことがない。素晴らしい指をしていますよ」 長い指は祐介の武器である。この指から投じられる速球はどこまでも伸び、変化球は大きく曲がる。自慢の指であった。報道陣は右手を広げた祐介を競って写真に収めた。 ……シ、シ、シ、シ、シ

われらのピース

それはまるでこの世のものではないような景色だった。 一面の雲の上。太陽が白い光を放ち、雲や私たちを照らしている。 父は横にいた。私たちはただ呼吸だけをしていた。 小学4年。私は富士山に登頂した。父は登山が好きだった。私の兄と姉と同じように、父は私を富士山に登らせたかったのだ。 「先生、処置はどうしますか?」 看護師がこちらを見ている。私はふと我に帰る。ここは都内の大学病院。待合室のテレビには富士山が映っていた。あれから20年、私は医療の道に進んだ。 私はいつしか、