オスカーワイルド『ドリアン・グレイの肖像』感想

宝塚星組公演に備えて『理想の夫』を買いに行ったら発売前だったので、それまでのつなぎに読もうと思って買ったもの。
つなぎにしては重かった。

オスカーワイルド…。なんとなく聞き覚えのある名前で、多分大学時代に受けた同性愛者文学的な授業で出て来た人だった。ゲイの人で、時代的に許されず捕まったりしている。写真を見ると、ちょっと陰のある綺麗な人。

以下、めちゃくちゃネタバレしているので注意。

あと、巻末の佐伯さんという方の解説にかなり影響受けてます。

5段階評価

総合…4/5
テーマ…5/5 キャラクター…4/5 ストーリー(シナリオ)…4/5 文体…3/5

テーマ

:自分自身の代わりに、自分の肖像画の外見が劣化する美青年の一生
:自分の真の姿を知るのは自分だけ=自分の罪を裁けるのは自分の良心のみ

こういう、表も裏も読者の興味関心をひけて、オリジナリティのある作品をつくれるようになりたいなぁと最近よく思う。方法は今のところ全く分からない。表を作って、キャラを作って、裏(伝えたいこと)が見えて来る…的な雰囲気ではないかという気はしている。

この表、裏のテーマ表現がとてもよくできていて、そこが一番素敵だと思った。

キャラクター

ドリアン・グレイ…主人公。美青年。「物凄い美貌の持ち主」という点以外は普通の人。少なくとも理解できる人。流されやすいというか影響されやすい感じはある。

バジル・ホールウォード…画家。ドリアンに惚れ込みすぎて、ドリアンの代わりに劣化していく肖像画を描いた。「ドリアンにめちゃくちゃ惚れ込んだ画家」という点以外は普通の人。

ヘンリー・ウォットン卿…貴族?職業は不明。諧謔を弄する人。どこまでが冗談でどこからが本気か掴みにくい人。ちょくちょくふざけたり物事の本質を突くようなことを言ったりする。

こうして見ると主要キャラは、特徴は一点のみで他は普通。一人のキャラクターに際立った特徴を一つ与えて、それベースで人物を作っていった感じと思われる。

ストーリー(シナリオ)

ストーリー自体は、分かりにくい部分はない。
ただ描写文が多く、全体的に停滞感が強いのは否めない。その描写文を楽しむものな気はするが、かなり退廃的、耽美的で人を選ぶ感じ。それが売りでもあるのだけど。
ちょこちょこ意外な展開が入ったり、本筋とは関係なくとも考えされられるような文章が入ったり、飽きないような工夫はされている。

文体

普通。多少堅さはあるが、この作品の雰囲気にはこのくらいの堅さは必要だと思う。

文体の問題とはやや逸れるが、文章が冗談(装飾)なのか本気なのか読み取れない部分が多い。ヘンリー卿の台詞に顕著。
これは小説とか文章の問題ではなく、私(と大半の日本人)の時代・文化的背景の知識の無さが原因だろう。その辺もうちょっと脚注で頑張ってくれると親切だった気はする。

良かったところ①キャラクターの心情が直接的かつ論理的に語られる

文章の雰囲気的に、純文学系にありがちな心情描写が遠回りなタイプのものだと思っていたので、結構びっくりした。
例えば。ドリアンは貧しいが天才的な舞台女優、シビル・ヴェインに恋をする。その演技の才能に惹かれて。しかしシビルはドリアンに出会って本物の恋を知り、演技としての恋ができなくなる。演技の才能を失ったシビルにドリアンは魅力を感じず、彼女を捨てる。シビルは失恋のショックで自殺する。

めちゃくちゃ分かりやすい。何の疑問もない。心理の動き全てに理屈が通っている。しかもそれを過剰なまでに台詞で説明する。それもキャラクターが自分で自分の心情を語る。くどいくらい長々と語る。

ここまで自分で説明する必要はないと思うけれど、キャラクターの心理や関係性はこのくらい論理の通った作り込みをしたいと思う。

良かったところ②他人がドリアンを裁かない

びっくりポイントその②でもある。
てっきりシビルの弟がドリアンに復讐すると思ったら、弟事故で死ぬし。
その後バジルを殺したドリアンがヘンリー卿にそれを告白しても、ヘンリー卿は冗談と思って信じないし。この時のドリアンはヘンリー卿に裁かれたがっているようにも見えた。ヘンリー卿は冗談を言いつつも真実を見通すような感じのキャラ造型なので、てっきりヘンリー卿が罰を下すのかと…。

結局、ドリアンは自分で自分(の肖像画)を刺して死ぬことになる。
この「自分の真の姿を知っているのは自分だけ」「自分を裁けるのは自分だけ」という裏テーマには作者の生真面目さが表れていると思う。好き。

気になったところ①かなりの分量で意味がとれない文章がある

まあ、意味が分からない文章があってもストーリー自体は理解できるので、致命傷にはなっていないのだが。
原因は文体の所でも書いたけれど、時代・文化的背景の知識不足。ただ、これで脱落する読者も相当数いるだろうなと思う。

気になったところ②文庫本の裏のあらすじがほぼ全てを語っている

舞台はロンドンのサロンと阿片窟。美貌の青年モデル、ドリアンは快楽主義者ヘンリー卿の感化で背徳の生活を享楽するが、彼の重ねる罪悪はすべてその肖像に現われ、いつしか醜い姿に変り果て、慚愧と焦燥に耐えかねた彼は自分の肖像にナイフを突き刺す……。快楽主義を実践し、堕落と悪行の末に破滅する美青年とその画像との二重生活が奏でる耽美と異端の一大交響楽。

引用元:https://www.shinchosha.co.jp/book/208101/

ほぼ全てじゃないか…。

古典だからネタバレしていてもいい気はするけども。
新潮文庫ってそういう方針だっけ?


まあ、でも面白かったです。
得るものはあった、、、と思う。


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