台湾コンテンツ鑑賞。揺らぐアイデンティティとエモい悲劇。
2023→2024の年末年始を台湾で過ごしたのですが、久しぶりの海外旅行、初めての台湾、可能な限りのインプットをして、感じたこと考えたことを書き留めるんだとはりきってきました。
ここまでにも記事はすでにこんな感じでまとめています。
台湾コンテンツは非常に面白かったので、まだまだインプットは続くのですが、一度、台湾旅行を経てのインプットしたコンテンツとそこからの気付きをまとめておきたいと思います。
(書いてみて、本当に浅い話しかできてない・・・と反省してしばらくアウトプットできなかったのですが、それでも書いておかないとその浅い思索すら忘れてしまうので書きました)
私がインプットしたコンテンツ一覧
一覧というほど多くはないのですが。とてもよかったものだけ列挙しておきます。
このnoteの後半でそれぞれのみどころ・よみどころも紹介もしたいと思いますがひとまずリストアップです。
■書籍
呉 明益「自転車泥棒」
楊 双子「台湾漫遊鉄道のふたり」
■ゲーム(実況)
「添丁の伝説」(20世紀初め)
「台北大空襲」(1945年)
「返校 -Detention-」(1960年代)
「還願 - Devotion -」(1980年代)
※()内はそのゲームが舞台とする年代です。たまたま時代が分かれました。
とりあえずお伝えしたかったのはこの3つの気付きです。
ポイント1)めまぐるしい政治体制の変化による傷跡の等身大の表現
印象的だったのはどの作品においても台湾の社会的歴史的背景がその時代を生きる人たちの等身大の目線で描かれているということです。
しかも、そういう作品をピックアップしたのではなく、名作と言われるものをいくつか選んでみたらそうだったことに驚きました。
あとから少しずつ調べて改めて知ったことですが、台湾は清帝國の頃、日本占領下、戦争中、戒厳令の時代…人が生き方を大幅に変えるべき転換点がとりわけ20世紀以降たくさん起きています。
特に戒厳令という政治的弾圧については、それが解かれてから、40年もたっていないのです。
つまり、働き盛りの人たちがみんなその時代を経験しています。それが先に書いた“等身大の目線”につながるのではないかと思いました。
たとえば、「自転車泥棒」においても、日本占領下、戦時中、台湾に自転車が普及し、それがどのように用いられたのか、動物園の象たちに何が起きたのかが語られます。
こういう視点、私たちの日常生活とも地続きに感じませんか?
旅行に行く前になぜコンテンツをインプットしようと思ったのか。
私はその土地に関する単なる史実や数字情報だけでなく、人々がどんな会話をして、何を食べ、どんな生活を営んでいたのか、といったそこで暮らす人々の温度感まで知りたかったんです。
その意味で、そうそうこういうの求めてた!という感じ。
台湾旅行では台湾の街並みもその延長線上にあることに気付かされ、街の中にあったかもしれないストーリーを妄想して楽しむことができました。
ポイント2)ストーリー性の高いエモい悲劇の演出
たとえばハッピーエンドの大団円になるハリウッド映画のように、物語の展開をどう魅せるかって割とお国柄出ると思うんです。
そんな中で台湾のコンテンツを摂取した際に一貫して強い意志として受け取ったのは、
【大円団のハッピーエンドは決して許されない。生きるとは本来そういうものだから。】
というものです。
けれど、
【いつだって希望を持つことを私たちは諦めない。未来にバトンを繋いでいくんだ。】
という祈りのような、淡い光のような想いも同時に感じました。そうしたストーリーの在り方の妙に、心が揺さぶられるのです。
1番びっくりしたのは「添丁の伝説」でそれが起きた時です。
そもそもアクションゲームだし、ポップな図柄やコメディな展開が続いていたので、まさかこんなことになるなんて…とクライマックスでは本当に衝撃を受けました。(ネタバレすぎてさすがに書けない)
一方、ホラーゲームで悲劇が起こるのは当たり前といえばそうなのですが。「返校」「還願」では、恐怖の対象を理性のない怪物や悪者として描くのではなく、同じ人間の枠組みの中で物語っていることにより、登場人物の感情の機微や作品の先にある「光」みたいなものも感じられ、エモい仕上がりとなっています。この善悪を厳密に切り分けないのは、東洋的ともいえるかもしれません。
ポイント3)揺らぐアイデンティティの繊細な描写にぐっとくる
歴史的な変化に翻弄されて生きてきたが故に、なのだと思いますが、私がインプットしてきたコンテンツには、「アイデンティティを見極め、尊厳をもって生きること」についての深い思索が詰まっていました。
それは民族の話でもあり、家族や信条、職業的プライドなどに関することでもありました。今回インプットしたコンテンツでは、それらが脅かされて登場人物の多くが自分の在り方に苦悩します。
特に「台北大空襲」はまさに、でした。
なぜなら、そもそも戦時下の台湾で、記憶を失った(=アイデンティティを喪失した)少女の視点で物語が始まるからです。ゲームが進むにつれて少しずつ記憶が蘇り、自分がどういう存在なのか(=アイデンティティ)を自覚し、今何をしなければならないかを悟っていくのがストーリーの基軸となっています。
「台湾漫遊鉄道のふたり」はアイデンティティを踏みにじられた側の密かな苦悩が、埋められない溝を作ってしまうお話で、これもまた切ない展開でした。
自分の血筋や民族そのものを否定されること(そこまでいかずとも無意識に見下されること)は、「あなたはそういう存在じゃないと思っている」と区別されたとしても、やはり看過できないものなのだということが物語となることで身をもって感じられました。
そして、そうしてたどってきた複雑な台湾の道のりをうまくカルチャーに落とし込めると、それが唯一無二のブランドになるんだなと台湾のお土産屋さんで気付きました。
改めてインプットしたコンテンツのみどころよみどころ
ここからは、私がよかったと思うコンテンツたちそれぞれの感想をまとめています。もしここまでのポイントからもう少しどんな作品なのか知りたくなった場合に読んでみてください。
台湾版「百年の孤独」!?一族をめぐる歴史の断片を自在に行き来する幻想小説「自転車泥棒」
思ってたのと全然ちがう!と壮大なスケールに驚いたのがこちらの作品。
失われた自転車を求めて台湾の現代から戦時下までいったりきたりしながら、一族のたどってきた道のりと台北の街の記憶と背景にある大きな歴史の流れを身体にしみこませるような物語。
「百年の孤独」がやりたかったこともかくや(でも1/5くらい読んで挫折しました)と、そちらも読みたくなるような幻想小説です。
個人的には象とオラウータンが人と共生する様子や台湾における自転車の構造や用途の変遷などの、本筋に直接的にはかかわってこないサイドストーリー的な部分がため息が漏れるような美しい文章でとても好きでした。
たとえばこんな詩的な描写がそこかしこにあふれていて、陶然としてしまうのです。
決して読みやすい作品ではないけれど、うつりかわる台湾の街の景色や象ががその長い年月で刻んできた深いシワを思いながら、ゆっくり味わうように楽しみたい1冊です。
きっとその読書体験が実際に台湾にいった時の風景をより美しいものにしてくれるのではないかと思います。
台湾版「高慢と偏見」的なすれ違いを紐解きながらとりあえず目前のおいしいものを堪能しよう「台湾漫遊鉄道のふたり」
「ずっと友達だよ」って片方が何度も確かめる関係なんて、ろくなもんじゃないって思ってるんですけど、これはそのろくなもんじゃない関係が尊く昇華されていったまれなケースでした。
お腹がすいて仕方ない女性作家の青山先生と彼女の仕事と胃袋を完璧にサポートする千鶴ちゃんが取材・講演活動をしながら台湾中をめぐる物語なのですが…日本統治下にある台湾という、複雑な背景はさておいて、とにかくまずはおいしそうな小説。台湾に行ったときも思ったけれど、台湾カルチャーは「食」への執着は強めに思います。
しかし後半は千鶴ちゃんが胸のうちに何を秘めているのか?2人の間に友情は生まれるのか?その背景にある歴史的社会的な背景に想いを馳せつつ、ミステリー風味の怒涛の展開に魅せられます。
台湾では当初実話として(?)発売された後にすべてフィクションだと明かされて大問題になったようですが、創作であるならなおさらこの展開のすべてを描いたことはすごいなぁと思います。
ポップな2Dアクションかと思ったら怒涛の衝撃展開!の「添丁の伝説」
私はアクションゲームを危なげなく進行することに信頼を置いているまいくろぺーさーさんの実況で楽しんだ「添丁の伝説」。
とにかく中国の伝統的な漫画スタイルだという絵のタッチが他にはないレトロポップさでそそります。
アクションゲームってストーリーはあってないようなものだったり、難しすぎてついていけない!と思ったりすることもあるんですが、こちらはストーリーパートもかなり丁寧に作られており、多少の誇張があるとはいえ、どのように台湾が日本に統治されていたのか、その一端が窺えます。
そしてこのストーリーパートがドラマチックでだんだんと目が離せなくなっていきます。
台湾人vs日本人という構造にせずに、どちらの軍勢にも正義と悪が混ざっているというのも、配慮を感じ、とっつきやすくていいなと思いました。
また収集要素兼強化アイテムとして当時の文化を象徴するアイテムをいろいろと拾うのですが、そこから当時何が流行っていたのかとか、日本の影響で販売されていた製品にどんなものがあってのかなどを知ることができます。
まいくろぺーさーさんはアクションパートもこれはよくできてる!と何度も褒めちゃうくらいに楽しんでいて、ゲームとしての完成度も高そうでした。
戦時下で少女が失った記憶をかき集めるアクションアドベンチャー「台北大空襲」
こちらもまいくろぺーさーさんの実況で拝見しました。
1945年5月31日の日本の植民地だった台北が大空襲に遭うことから物語は始まり、最初は日本批判的な内容なのかなーとか、かわいそうな女の子が戦地を彷徨うような作品見てられないだろうなーとか思ったのですが…
あくまで個の視点で記憶を取り戻す物語であること
アナログゲーム版『台北大空襲』が前身となっており、ゲーム性も担保されていること
といった点が、戦争に押しつぶされるだけではない、最後までこの作品を追いかけたくなる魅力につながっていると思いました。
『添丁の伝説』同様に、収集アイテムには当時の日本文化の影響を強く受けるお菓子や生活雑貨などが登場し、自然と人々がどんな生活をしていたのかが想像できるようになっています。
こちらも、何をどうしたって切ない展開にしかならないのですが、さしはさまれるスチル画像がキラキラ眩しいものが多くて、ああ、こんな苦しい毎日の中にも光があったのだと、むしろそちらの方に目が行ってしまうのが不思議でした。
私たちが学ぶべき物語が詰まっていると思いますし、こういうことは本よりもゲームの方が抵抗なくインプットできる気がして、その意義も強く感じた作品でした。
こちらの紹介記事が参考になったので最後にリンクをつけておきます。
戒厳令下に起きた悲劇の真実を求めて学校を彷徨う2Dホラー「返校 -Detention-」
返校は「学校へ帰る」、Detentionは「拘留」「居残り」といった語意を持つそうです。
私はこの学校での終わらない居残りの時間を、花江夏樹さんの実況でひととおり見た後でおついち、弟者さんの通しの実況でも楽しみました。おついち、弟者さんの【居酒屋おついち】の実況ではトゥルーエンドが見られます。
実際映画にもなっているのですが、これはもう本当に一本の映画のような、クリエイティビティに非常にこだわりを感じる作品でした。特にエンディングは痺れたのでぜひ途中怖くても最後まで見ていただきたいです。
アドベンチャーゲームとして各ポイントで謎を解いて進めていくので、2Dですし、ホラーとしての怖さはそこまででもないのでは?と思います。
戒厳令下の台湾って日本人にとっては、日本の占領下だったころの台湾の話と比べると少し遠い話に感じてしまいます。が、先にもかいたように台湾の方にとっては一番最近の苦しい体制の記憶になるわけで、ここを経て今があることを知るのはとても大切なことだと思います。
返校のすばらしいところは、あくまで一人の学生の家族や恋愛の問題にフォーカスがあてられているということ。誰もが想像し得るような経験の背景に戒厳令体制の台湾の時代の影響が重くのしかかるようなつくりになっているので、つまりはそういうことだったんだという理解が深まります。
そして繰り返しますが、絵も音楽も随所での演出もすばらしいので、本当にもっとたくさんの人に、映画よりもこちらのゲームの方を知ってほしいなと思います。
なぜ愛し合う家族が崩壊の道をたどるのか?を解き明かすサイコホラー「還願 - Devotion -」
こちらは場面場面で解釈を試みつつ丁寧に見やすく編集してくれているゲーム実況が魅力のあいろんさんのものでみました。
返校と同じRed Candle Gamesが作っているのですが、今度は3Dです!
しっかり怖い演出があるのでホラーなのですが、お化けが怖いというよりも、幸せだった家庭が崩壊し、狂っていく様子が怖い。
1つの家族のいくつかの年代の家を行き来しながら、少しずつ証拠を集めて、何が起きたのかを知っていく(話はそれるけれど、ゲーム性はLayers of Fear的)のですが、その過程で台湾のさまざまな風俗や慣習を知ることができます。
インディーゲームとは思えないほど、3Dの作りこみ、ホラーサウンド、ストーリー、演出のレベルが高くて、終盤の痛々しい描写からの切ない幕引きには思わず涙。インディーゲームでちゃんと怖くてしかも泣けるホラーゲームってなかなかないのです。
最後に、その他これからインプットしたい台湾コンテンツ
というわけで、台湾発のコンテンツ、おもしろすぎる!!
ここ(↑)で紹介していたコンテンツ、7割くらいは見られたかなと思います。旅行にはなかなかいけないので、このほかに今後私がチェックしたいものをリストアップして、このコンテンツ鑑賞レポートnoteを終えようと思います。
※台湾発のコンテンツと台湾が舞台のコンテンツの両方を含みます。
1)書籍
「台北プライベートアイ」※最近2も出た!
「歩道橋の魔術師」
「六月の雪」
「味の台湾」
2)ゲーム
「OPUS 星歌の響き -Full Bloom Edition-」※シリーズ3作目!
「九日ナインソール」
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