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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン ③

「見て見て!もうひとつのミスコンの第1次ウエブ審査の中間発表が出てるんだけど!。」

そう言いながら学内のカフェでお昼ご飯でも食べようと一緒に居た”チームかすみ”の美咲、純菜、和巳のところにスマホ片手に大声でそう言いながらあずさがやって来る。

あれから和巳は女装した”かすみ”の姿になり、提出した写真を基に作成された「もうひとつのミスコン」のコンテスト用第1次ウエブ審査のサイトからの投票の第1回中間発表が今日行われた。

今日が第1回の中間発表だと云う事で、今後引き続き第1次ウエブ審査の締め切りまで適時中間発表はあるのだが、それでも女装した自分がどんな感じでみんなに見られているのか、そしてどの程度得票したのか和巳もさすがに気にはなっていた。

だけど和巳はチームかすみの絶大なる協力をいただきながら写真を出してエントリーをしたのだったが、その意気込んでいた割には案外周りからはこの「もうひとつのミスコン」に出た事への反応がそれほどなかったのだった。

確かに仲のいい男友達何人かは第1次審査用のネット画面を見たのもいて、その友達からは和巳が女装してミスコンテストに出る事に自体びっくりされたり、サイト上の「かすみ」としての外見に普段の「冴えない普通のどこにでもいる男子大学生」の風貌と外見の和巳からは想像もできないと云う感想と共に「ま、俺たち和巳の友達だから一応おまえに入れとく」と云った感じで付き合いで投票してくれたのが何人か居たぐらいだった。

和巳としてはこのかすみになった自分もそこそこ女子としてはイケてて割に盛れてると思っていたが「ま、やっぱりこんなもんだよね。他にもかわいくてきれいな女装子何人もエントリーしてたもんな。」と和巳は周りの反応に妙に納得してサバサバしていた。

「まあいいからいいからとりあえずちょっとこれ見て!!、すごくない?。」

と言われ、あずさっていつも少し大げさでなんにでもはしゃぐよねと和巳はさして何も思わずに周りのチームかすみのメンバーと一緒にあずさが差し出したスマホの画面を何気なく覗き込んだ。

「えっ・・・・・。」

そこには和巳、いや「豊岡かすみ」がダントツで第1次ウエブ審査の得票を獲得した結果が載っていた。

最終的に締め切りまでにエントリーした女装子は15名ほど居て、その中で投票が行われたのだけど、ランキング形式になっているその表には2位以下を圧倒的にかなり引き離した票数があのキャンディースリーブの白のブラウスに赤のチェックのロングスカートを履いた「かすみ」の写真と共に大きく出ているではないか。

周りの「ま、俺もついでに投票しとくわ」みたいな適当な反応からは意外な得票ではあるが、ともかく現在のところ1次審査は和巳、いやかすみがダントツで1番には変わりない。

「やったね!。和巳、いえかすみってすごーい!!。この調子でどんどんPRとかして本選出場に向けて頑張ってやっていきましょうね!。」

とチーム長の美咲が言い、同じようにあずさも純菜も自分の事のようにとても喜んでいた。

あずさの自分が出ている本家のミスコンについてはこれと同じような形式でやっているインターネット上での1次審査に関しては順調に票を伸ばしており、これまでの実績と関係各所あちこちからの情報や「下馬評」からしてもこの調子でいけば1次審査はまず通過できそうな事もあり、それもあって安堵したような和やかな雰囲気が今日のこのチームかすみの中に流れていた。

「ただね・・・・・この3位の子がちょっとなんとなく・・・・・。」

などと喜びながらあれこれ言っていたチームの面々の中で美咲が少しだけ硬めの面持ちでそう言うのでランキング表の3位のところを見て見るとエントリー者の名前の欄に「平野 玲奈(ひらのれいな)」とあり、更に併記してあるかっこした男子の名前の欄、すなわち本名の欄に「平野 晋吾」となっているその表を見ていると「美咲さん、わたしもそう思います。」とあずさが言う。

そしてあずさが和巳に「この”平野”って男子に和巳も多分聞き覚えあるでしょ?。」言う。

「そうなんだよ。僕もこの平野ってどこかで聞いた事あるなって思ってたところなんだよね。」

「そりゃあるわよ。この平野って和巳もよく知ってる人だからね。」

そう言われてあずさとあれこれやりとりをしているうちに和巳はふと思いだした。

「もしかしてこの平野って僕とあずさが通っていた高校の同級生のあの平野?・・・・・。」

「そう、わたしたちと同じ高校で同級生だったあの平野。」

平野晋吾は和巳とあずさが通っていた高校の同級生で、卒業後も同じようにこうして渋谷学院大学に通っている。

ただ和巳は平野晋吾とは彼自身がスポーツ万能のイケメンで学校内では有名人だったので和巳の方は彼の名前は知っていたけど、反対に晋吾の方は地味で特に目立つ存在ではなかった和巳の事など知る由もなかった。

もうひとつ和巳はこの晋吾の事を知っていたのはあずさの元カレでもあり、高校の時からのカップルだったから知っていたのだけど、二人で振袖を着て「カップル振」で出席しようと意気込んでいた成人式の前に晋吾の他の女の子への心変わりからあずさはフラれてしまっていた。

その後は和巳はフラれて落ち込んでいるあずさをたまたま見かけて、自分にしてみれば特段変わった事をしたつもりはなく、ただいつもしているようにあずさの話しを聞いていただけだったのだが、それがきっかけであずさにとって本当に大切なのは和巳のように地味だけど誰にでも分け隔てなく親身になってくれる人だと云う事に気付いて二人は付き合う様になり、今度は和巳が「かすみ」になって振袖を着て「カップル振」で成人式に出たのだった。

成人式では当然のようにイケメンな晋吾は他のイケメン系の男子がするように時代の最先端を行くとばかりに振袖を着て新しいカノジョと出席したのだが、会場では最初の頃は確かに男子としてはずば抜けてきれいで振袖がとても似合っていた事もあり、その新しいカノジョと合わせて晋吾の振袖姿は大変目を引いていたのだが、あずさと「かすみ」になった和巳が登場するや否や会場の注目はあずさとかすみの「カップル振」に集まり、とてもきれいでかわいらしく、またどこから見ても二十歳の成人式の女子にしか見えない振袖の似合っているこのかすみが実は普段は地味すぎるくらい地味などこにでもいる男子の和巳だったと云う事も相まって余計にみんなの目を引き、成人式会場での人気をダントツで一手に集めたのだった。

そして事情通の美咲が晋吾は締め切り直前にこの女装コンテストにエントリーしてきて、なんとかサイトに載せる写真と動画も間に合わせてきた位慌しくエントリーしてきたのだと教えてくれる。

またなんでもどこからかすみがこの”もうひとつのミスコン”に出るって聞きつけてきてそれで締め切り間近ではあったけどなんとか書類一式や画像と動画を間に合わせてエントリーしたみたいだとも美咲は教えてくれた。

「それに・・・・・。」と美咲が言うのには晋吾の新しいカノジョとは東都大学3年の山崎麗美(やまさき れみ)だと言う。

「山崎麗美って・・・・・。」

「そう、去年の東都大のミスコンで優勝した子よ。」

麗美は渋谷学院大学と同様にとても歴史と伝統と人気のある東都大学のミスコンで去年見事優勝を勝ち取っていて、美咲も雑誌の取材で各大学のミスコン優勝者同士が集まって行う対談企画みたいな場を設けてもらった際に一度会った事があり、お互いに面識はあるみたいだった。

「でもね・・・・・わたし個人的にはちょっとこの麗美って子は正直苦手かも・・・・・。」と美咲は言う。

確かに麗美は伝統ある東都大学のミスコンでグランプリを取る位だから外見はとてもきれいだし、場慣れした感じや服のセンス、話術などいろんな点で高いポテンシャルを持った女性だと実際に会ってみて美咲も感じていた。

「だけどこの子ってなんて言うのか”上昇志向のかたまり”みたいなところがあって、またそれが度々顔を覗かせるもんだからちょっとわたし的には辟易してたの。」

と美咲が言うのはどう云う事かと言えば、ミスコンに出てグランプリを取る事で自分のキャリアとグレードに華を添えてステップアップをしたいと強く思っているようで、ミスコンでグランプリを取る事で就職活動を有利にして女子アナやキャビンアテンダント、はたまた大手企業の秘書や広報部門と云った花形部署を志望するとか、何より男女問わず色んな人に「東都大のミスコングランプリなんだって?。すごーい。」「さすがミスコングランプリだね。きれいー。」と言ってもらって要するにチヤホヤされたい気持ちがとても見受けられるのだった。

そして自分が通っている同じ大学内の同じ世代の子だけが参加するミスコングランプリの結果に満足せずに次のステップ、つまり「ミス日本」とか「ミスきものの女王」と云った有名どころの全国規模のミスコンにも今後も参加して上位を目指すつもりなのだそうだ。

だから今回の東都大のグランプリは自分のステップアップの一つであって、次の目標に向けて早くもその気になって行動を開始しているようで、PR活動なのか媚びを売っているのか線引きの曖昧なガツガツしたその態度が美咲にとっては目に余るようだった。

それを聞いていて和巳は晋吾があずさから麗美にカノジョを「乗り換えた」のは分かるような気がした。

晋吾にとって高校の時は学年でもとても人気のあったあずさが自分のカノジョだと云う事が自分を単に満足させるだけでなく、「あの諏訪あずさと付き合っている」と云う事がステータスで周りに自慢したかったのだ。

そして学校内で晋吾はあずさとは仲の良い「公認カップル」と云う雰囲気を付き合いをする中で作り、加えて部活動のバスケ部でキャプテンを務め、勉強の方もそこそこテストではいい点数を取り、プラススポーツや勉強の成績だけでなく文化祭ではあずさが居たからだろうけど演劇部にも参加して全校生徒の前で演技を披露したりと「どう?俺って勉強もスポーツも出来てイケメンだし、かわいくて人気者のカノジョも居るし他の生徒と違うでしょ?。」と言わんばかりだった。

要するに晋吾はいつも周りの人にドヤ顔をしていたかったのだ。成績上位だった事もありそこそこ難関だった渋谷学院大学にも首尾よく合格し、入学してからはバスケのサークルを立ち上げて、そこでも中心メンバーで、社交的な性格もあって男女ともに人気があるし、学業の方もそこそこ良くて「優」も多いらしい晋吾にとってカノジョが「学内のミスコンでファイナリスト止まり」よりは「有名大学のミスコンでグランプリを取った」と云う方が自分に取って「よりステータス」だと思っているようだった。

だから「俺って他の人とは違う」と思って自信満々でミスコングランプリの新しいカノジョと一緒に連れ立ってイケメンの自分だから絶対似合うと思って振袖を着てカップル振で参加した成人式では自分が一番注目されると確信していたのにそうではなく、地味で冴えない和巳が初女装・初振袖でかすみになって登場したあずさとの初々しくて仲睦まじい振袖姿のカップルがその場の人気を独占したのが解せなくてこのもうひとつのミスコンにエントリーを決意したのだ。

そして麗美の方も自分のカレシが人気の渋谷学院大学でイケメンの有名人でそのカレシが女装とは言えミスコンに出て上位入賞でもするものなら、このカップル振で見られるようにコスプレ感覚でイベント時にのみ女装するのならさして世間には嫌悪感なく受け入れられ始めている今日この頃だし、何より「わたしのカレシってイケメンで、女装して女の子になったら今度はとっても盛れてるの。」とこれまた自慢できそうだし、それに「ミスコングランプリのカレシが自分の大学でもグランプリを取った」と云う事になれば余計に自慢できると打算が働き、晋吾のフォローに積極的に回る事にしたみたいだった。

対する和巳の方はそんな大それた打算など一切なく、あずさに勧められ自分にとってはとても豪華な賞金と賞品に気持ちが傾いたのともし上位入賞したらバイト先の給料が上手く行くと上がると云う事もあって参加した訳で、それに今でもエントリーはしたけど人に自分の女装姿をネット上で見られたり、本選に進んだら進んだで今度は直に人前で女装した自分の姿を見せなくてはいけないのは相変わらず恥ずかしくてしょうがない位だった。

だから晋吾が「平野 怜奈」として「もうひとつのミスコン」に参加してきたとは言えそれは和巳、いえかすみにとっては参加者が増えた位の事で、晋吾の怜奈としての成人式での振袖姿もそうだし、このサイトに載っている洋服での女装姿を見ると確かにきれいでイケてるので人気するだろうとは思ったけど、この時点では特に「怜奈」が「かすみ」にとってライバルだとかそんな事は思ってなく、自分としては自分なりにチームのみんなのご指導とご協力をいただいてコンテストを乗り切るだけだと感じていた。

ただあずさの方は少し様子が違っていて、言わば「当てつけ」のような感じでもうひとつのミスコンにエントリーした怜奈と東都大ミスコンのグランプリと云う事を笠に着て渋谷学院大学のミスコン上位入賞候補と言われ始めていた自分に対してもライバル心を出してきている怜奈の「カノジョ」の麗美には余りいい気がしていないのか「よーし!誰が相手でもかすみが一番になれるよう頑張るからね!。」とやる気満々な感じだった。

それから大体週に2回ほど第1次ウエブ審査の中間発表は更新されていたのだが、美咲の指示でSNS上にまずはこのコンテスト用に「豊岡かすみ」でアカウントを作り、チームの女子メンバーに効果的な書き込みやつぶやきを指南してもらいながら適時更新し、書き込みやつぶやきがアップするとリツイート機能を使ってとにかくウエブ審査特設ページでのかすみを見てもらう事と自身のイメージアップを心掛けた結果それぞれお互いの友人・知人もだし、更にそこから結構リツイートもあり、順調にかすみの票は伸びていた。

男子として本名の「豊岡和巳」ではSNSのアカウントを作っていなかったのもあるし、何より適当なハンドルネームで開設していたSNSやブログも元よりそれほど頻繁に更新する訳ではなかったので、ウエブ審査用のサイトを見ると「豊岡かすみ」の下に「豊岡和巳」とちっちゃく一応本名として名前が出ているが、それを見てこの「豊岡かすみ」と云うかわいらしい女装の女の子の普段の和巳は外見上も含めてどんな人物なのかは検索してもほとんど出てくる事はなく、普段から和巳と面識のある学生以外からは大学のキャンパス内ですれ違っても反応されたりこの地味な普通の学生が「豊岡かすみ」だと気づかれたりする事はなかった。

しかし怜奈の票は回を追う毎に増えてきていた。第1回目の中間発表では3位だったのがあっと言う間にすぐ2位になり、その後の中間発表がある度にどんどんかすみとの差が詰まってきていて僅差となっていた。

かすみとしては上位5人が選ばれるファイナリストになれればそれでよかったし、この調子で行くとその目標は達成できそうだったのでさほど中間発表での順位には関心がなかったのだが、徐々にウエブ上での自分への票の伸びが少なくなってきているのには気づいていたのとそれについては少し気がかりだった。

ただ最初の頃に専用サイトを見た人が自分にはたくさん票を入れてくれて後からサイトを見た人が主に怜奈をはじめとした他の参加者に入れたんだろうと思い、元々中間発表での順位はさほど気にならなかったのもあり、特に何も思っていなかった。

そしてある日、時間があったので和巳は試しに「豊岡かすみ」で開設してあるSNSを細かく見てみた。

タイムラインには「コメント欄」があって、つぶやきや書き込みの度に「いいね!」や「リツイート」と並んでSNSを見た人が感想的なものを書けるようになっていて、また何か書き込みがあると通知欄に「〇〇さんがあなたのタイムラインにコメントを書き込みました」みたいな表示が出るのだが、おかげさまでかすみの女装した姿が好評なのかたくさんコメントが寄せられるようになっていて数が多いのもあり、うれしかったけれどなかなか全部は見れてなかったのだが、しばらく振りにそのコメント欄をじっくり見て見ると書いてあるコメントには目を疑うような文章が散見されるようになっていた。

「この豊岡かすみって写真ではすっごくかわいく写ってるけど、実際の元の男の豊岡和巳ってすっげえチョーダサいんだって。」

「え、なになにそうなの?。チョーダサいってどのくらいダサいの?。」

「なんでもチョー地味でファッションとかまるで興味なさげなオタク系男子って感じな見た目らしいんだって。」

とか書かれていて、また別のコメント欄には

「この豊岡かすみの男の時の豊岡和巳ってこの女装の時はけっこうかわいいけど、男の時はキモオタ系なんだって。なんか鉄道オタクのインドア派で電車に乗る時だけ外出してるヒッキーらしいって。」

「そっかー、それで学内でもほとんど見かけたって聞かないんだー。」

「でしょ?。おしゃれでイケてる人が多い渋谷学院大学でキモオタ系って云うだけで珍しいのに。」

と書かれていて、そんなコメント欄とそれを読んだ別のSNSユーザーの書き込みした返信のやりとりを見て和巳は呆気に取られていた。

確かに男の時の自分はお世辞にもファッションに興味があったりする訳ではないし、コメント欄にも書かれている通り「おしゃれでイケてる人が多い渋谷学院大学」に通っている割には地味で流行とは別物のパッとしない恰好をしている事が多いが、それにしても「オタク系男子」とか「キモオタ系」とここまであからさまに書く必要があるのだろうか・・・・・。

それに「鉄道オタク」と言われれば確かにそうだけど、そこまで凝り固まったマニアックな行動はしているつもりはなかったし、もちろん「インドア派で電車に乗る時だけ外出してる」なんて事はなく、平日は毎日ちゃんと自分が取っている授業の時間割に合わせて大学に登校しているし、バイトだってシフトに沿って一度も遅刻なく出退勤していて少なくとも「ヒッキー」ではないのだが。一体誰がこんなありもしないような事も交えて変な書き込みをしてるのだろう・・・・・。

もちろん「とってもかわいくてこれが本当は男子だとは思えません。いっぺんでファンになりました。」とか「このさりげなくて自然なかわいさは女子そのものです。応援しています。」みたいな好意的な書き込みが多数派なのだが、SNSの特性なのか悪口の方がコメントやはたまた閲覧数そのものが多いようでそっちの方が盛り上がっている。

ついでにと言ってはなんだけど、和巳は他のエントリーしている学生のSNSを見て見た。

和巳と同じように作戦として自分をPRする為にエントリーしている女装子の名前でアカウントを作成してSNSをアップしている参加者は結構他にもいるのだが、そう言えば今までその他の参加者のSNSアカウントはあるのは知っていたけれど実際にわざわざ見に行った事はなかったのもあってそれで探してみた。

検索すると何人かの参加者のアカウントにヒットしたのでどれどれと見て見る。

すると「へーこんな感じでSNSのアカウント作成してやってるんだー。すごいなー。」と言いながらスマホを触っていた手が止まる。

「これって僕以上にちょっと・・・・・。」

見ていたのはウエブ審査で最初の頃は2位だった「望月 涼子」さんのSNSだったのだけど、なんと同じようにコメント欄を使ってひどい事が事細かく書かれている。

「上品で清楚そうなセレブ女子大生姿で写真アップしてるけど、実際は男の時はガサツだし、上品やセレブとは程遠いお金のあまり無い男子大学生らしいよ。」

とか「お金が余り無いからバイトにばっかり精を出していて大学の授業の出席率が悪くて単位落としまくりで留年間近なんだって。」などと書かれていてそれどころか

「そう言えばこの前新宿でこの”涼子”ってのに似た人見掛けたな。パッと見は分かんなかったけどよく見ると女装子ぽかったし、夕方だったからもしかしてこれからバイトで”2丁目”に出勤してたところだったのかも。www。」

と書かれているのまである。

これは本当にたまたまだったのだけど、この望月涼子さんは先日和巳がかすみとして行っている着物屋さんに成人式に振袖男子として出席するためにお客さんとしてお越しになられていてその時に色々と話をしたのだけど、確かにバイトを掛け持ちして精を出しているけど、家庭教師がメインで、家庭教師のスケジュールが空いた時にラーメン屋と宅配便の仕分けのバイトをしているとの事だったのと、話してて誠実で上品な感じだし、どちらかと言えばかすみと同じおとなしい感じだったので「2丁目でバイト」と云う水商売系のバイトをしているようには思えなかったし、第一大学の授業もあるのにこれ以上水商売系のバイトを他のバイトにプラスして入れている様子も雰囲気もなさそうだ。

こんな形でかすみ以上に涼子はある事ない事を面白おかしくSNS上で書かれていたせいもありウエブ審査ではかすみより票の伸びが悪く、それどころか元の男子でやっているSNSにも涼子さんとしてのSNSを見た心ない人が変な書き込みをしているみたいだった。

「一体誰がこんな変な事してるんだろう。それも自分だけでなく、他のエントリーしてる人のSNSにまである事ない事やひどい事書いたりして・・・・・。」

そう和巳は思ったが、いちいちSNS上の誹謗中傷的な悪ふざけの書き込みに対して腹は立つし読んでみて余り感じのいいものではないけれど、かと言って自分もSNS上で反応とか反論をするのはかえってその面白がって悪ふざけをしている人が喜ぶだけのような気もしてとりあえず知らんふりを決め込む事にした。

書かれている事は事実無根かどうでもいい事を尾ひれをつけて大袈裟に面白おかしく書いているだけで、とりあえず票の伸びは最初の頃からと比べるとさほどでもないけれど上位5人は狙えそうなポジションでもあるし、だったら気にせずこのまま置いておこうと決めた。

一応美咲やあずさにも自分のSNSに変な書き込みされているのは伝えたのだが、人気がある参加者にはそうやって悪ふざけしてある事ない事を書き込みする人が出てくる事は本家のミスコンでも渋谷学院大学だけでなくて他の大学でもたまにあるみたいなのであまり気にせずに今の対応で十分と言われたのもあってそれからはSNSも書き込みやつぶやきは適時するけれどコメント欄まではそこまでチェックする事はなかった。

(つづく)

















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