見出し画像

(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記㉟ 浴衣女子になりたい男の娘・後編2~

「みどり子ちゃん足元大丈夫?。気をつけてね。」「うん、大丈夫だよ。」

学校行事の「ゆかたまつり」でティーンの女装子・MTFトランスジェンダーさん向けの浴衣体験コーナーを企画・運営しているわたしは遠くから参加してきてくれたみどり子ちゃんの「はじめての浴衣外出」にお付き合いしていた。

女物の浴衣を着るのがはじめてなら、当然その姿でお出かけするのもはじめてのみどり子ちゃんにわたしは簡単に浴衣を着た時の歩き方や足さばきに基本のマナー的な立ち居振る舞いを教えて部屋を出た。

わたしたちは日頃から着慣れているけどこれが初浴衣のみどり子ちゃんにとって下駄を履いて内股で歩き、しかもそれがはじめての女の子の姿での外出とあればなかなか歩くのも大変そう。それに下駄の鼻緒も硬いのか何となく痛そうだしちょっと気をつけてあげないと・・・・・。

でも元々がちょこまか歩きのわたしとだったせいもあってか徐々にみどり子ちゃんも浴衣姿でちょこまか下駄を履いて歩くのにもあまり無理をせずに慣れてきたみたいでふたりはお祭りの会場を仲良くちょこまか歩きで並んで歩きながら楽しんでいた。

それにしても地元の方をはじめとした一般客の方が大分増えてきたのもあって学校の敷地内はどこもかしこも浴衣姿であふれている。わたしたち生徒やティーンの子たちは全般的にかわいらしさを追求した色柄や髪型、帯結びをしていて、一般の方は浴衣の持つしっとりとした艶やかさや初夏と云う季節にぴったりのさわやかさやきれいさを浴衣姿で表現し、小学生や幼稚園児の子どもたちはとにかくかわいらしい浴衣姿の子が多く、またどの子も浴衣が着られてうれしいようで賑やかなのとそれがまたお祭りの盛り上がりに一役買ってくれている。

そしてわたしはクラスの模擬店が気になっていたのもあるのだけどみどり子ちゃんにお祭り気分を味わってもらおうと縁日ゾーンへと行ってみた。

「わあー大勢の人だねー。それにみんなすてきな浴衣姿だねー。」と浴衣や着物が「着るのも見るのも好き」でこの沢山の浴衣女子を見て満足しているような感じのみどり子ちゃんと2年りんどう組のタピオカミルクティーの模擬店のスペースに行くと午前中と打って変わって大勢のお客さんが詰めかけてくれている。

わたしは模擬店のスペースに駆け寄り、中でタピオカミルクティーを作りながら接客しているあゆみちゃんと梨子ちゃんに声を掛けた。

「ごめーん。お店の方手伝ってあげれてなくて・・・・・。でもすっごくお客さん増えてるけどどうしたの?。」

「なんか時間が経つにつれて暑くなってきたから冷たい飲み物が欲しくなった人が増えたのもあるんだけど、やっぱり一番はみんなのおかげかな。ほらあれ見て。」

と梨子ちゃんの言う視線の先には縁日ゾーンの入り口付近で何やら持っている林ちゃんが居る。何してるんだろう?・・・・・と思って行ってみると林ちゃんが「本場台湾の冷たいタピオカあります!」と書かれたプラカード状の看板を持って宣伝と云うか呼び込みをしているではないか。

「林ちゃんおつかれさまー。でもこの看板どうしたの?。」「あ、由衣ちゃんアノネ、最初の頃は場所が奥の方ダッタカラなかなかお客さん来てくれなかったんでこっちから出向いてネ、弥生ちゃんが作ってくれたコノ看板でPRをしようと思って始めたンダヨ。」

そう言いながら林ちゃんは「冷たいタピオカミルクティーのお店はコッチデスヨー。本場台湾の味でおいしいンダヨー。是非飲んでみてクダサイネー!。」と言いながら引き続きPRに余念がない。

すると微妙に違う日本語の言葉のアクセントに惹かれた人やいつかの寮生活を紹介した校内放送を見ていた人が「あ、校内放送に出てた太極拳教室や中国語教室を寮でやってた人でしょ?!。」と言いながら寄ってきてそれにその都度林ちゃんが「ハイ!そうですヨ!。よかったら奥でタピオカ飲めますので是非寄ってクダサイ!。」と応対してはわたしたちの模擬店の方へと人が流れていく。

「林ちゃん暑いし大変なのにこんなに頑張ってくれてありがとう!。」「いやーそんなでも無いンダヨ。わたし店長ダシ、せっかくみんなで頑張ろうって決めたわたしの故郷のタピオカミルクティーのお店ダカラ繁盛サセナイとネ!。」と言いながら林ちゃんはずっとPRしている。

「林ちゃんそれはそうとご飯食べたの?。」「ううん、今日はお店が忙しいカラまだ食べて無いンダヨ。後で食べるネ。」

あのいつも毎食たくさん食べて何はさておき絶対に3度の食事は欠かさない林ちゃんがこうして大好きな食事の時間にも関わらずクラスの模擬店の為に頑張ってくれている。しかも朝は着付けや支度に忙しいからといつもするお代わりをせずに登校してきておなか空いてるはずなのに・・・・・。

それに林ちゃんが偉いのは一番手前のお店はフランクフルトのお店で、結構このソーセージを焼くいい匂いに釣られて奥側のレーンにもお客さん来るのだけどそのお店の付近で看板を持ってPRさせてもらっているのを気遣ってか「フランクフルトもおいしいデスヨー!。」とか「フランクフルト食べたらタピオカミルクティーも飲んでネー!。」などとよそのお店も一緒にPRしてあげているのだ。

そんな林ちゃんに関心しつつクラスの模擬店に戻ると反対側ではクラスの他の子も林ちゃんみたいにプラカード看板を持ってPRしてくれているし、自分の部活の出番が終わった子たちが次々と同じ部活の子やお姉様・後輩たちを連れてきてくれていた。

「さっきまで行列ができてて結構お客さんさばくのに大変だったのよ。でもね、それでいい事もあったの。」と梨子ちゃんが言う視線の先はとなりの1年あじさい組の和雑貨の模擬店でこちらも朝のうちとは比べ物にならない位お客さんで賑わっている。

なんでもタピオカの行列はとなりの1年あじさい組の和雑貨のお店の前まで伸び、待つ間に並んでいる人がヒマだったのもあってそこに置いてある和雑貨を見ているうちに「これってかわいくない?」「ほんとだー。かわいいね!。」などと言いだして並んだまま品定めをしたり、タピオカミルクティーを買った後にお店に戻ってきて和雑貨を買ってくれるようになったのだとか。

それに林ちゃんがプラカードを持って「営業」しているのを見て自分たちも何とかしなくてはと思ったほのかちゃんが売り物の日傘に「日傘あります」と「扇子もあります」と書いた紙をテープでくっつけて日傘を差しながら入場口や人出の多い中庭を何人かで手分けして歩いたらしい。

すると徐々に太陽が昇って日差しがきつくなってきたり気温も上がってきたのもあって日傘や扇子が欲しくなる状況になりつつあったのも手伝って「PR日傘」を差して歩いているほのかちゃんに「それどこで売ってるの?。」「1ついくらするの?」など質問が来るようになり、同時にお店にも日傘や扇子を買い求めに来る人が増えたのだった。

来られた人には髪飾りやかんざしを勧めると1つ300円から500円ぐらいと手頃だったのもあってついで買いみたいな感じでこちらも結構売れ始め、また日傘を差したり扇子で煽ったりしている人が学内に増え始めると「それどこで買ったの?。」みたいな話になり、その話を聞いた別の人がまたお店に来ては買って帰ってくれると云う好循環が生じていた。

それともっと効果的だったのが午前中の最後に体育館のメインステージで豪華景品が当たるお楽しみ抽選会があって篠原真子お姉様と宮野梢ちゃんが総合司会を務めていたのだが、幕間のトークの時に真子お姉様が「宮野さんそれにしても今日のその髪飾りとってもかわいくてよく似合ってますねー。」と梢ちゃんに話を振った時に「そうなんです!。これって校庭にある縁日ゾーンでやってる和雑貨の模擬店で扱ってるものでして、放送部の後輩がその担当と云う事もあってサービスでわたしに1つくれたんです!。」と壇上で言ってくれたのだった。

あのアイドルのような可愛らしさを持っている梢ちゃんが今日は浴衣と云う事でよりかわいくなっている上に確かにその付けている大ぶりの髪飾りもかわいくてよく梢ちゃんに似合っている事もあって抽選会に多数詰めかけていた人が「あの髪飾りいいなー」「わたしも欲しくなっちゃったなー」「こんなにかわいいのがあるんなら後からそのお店に行ってみよっ!」などと言いだし、抽選会が終わった途端にお客さんが増えたのだそうだ。

それを聞いてわたしはひと安心していた。慣れない学校生活の中でもがんばってゆかたまつりに模擬店を出そうと決めたほのかちゃん、はなちゃん、しのぶちゃん達1年あじさい組の子だったけど正直模擬店をこなしていけるのか心配の方が大きかった。

だけどこうして知恵を絞りながら周りの人たちから手助けしてもらったり色んなヒントをもらいながらなんとか模擬店をやれている訳で後輩たちのがんばりにわたしも午後からも引き続いてがんばる勇気をもらったようになっていた。

タピオカミルクティーのお店には同じく行事委員で全体の統括をしていた千尋ちゃんも自分の業務の合間に駆け付けてくれて、しばしそれぞれの持ち場に関しての情報交換をしつつお店の人出も落ち着いてきていた事もあり、わたしもタピオカミルクティーを頂いてみる。

飲んでみると見るほどには甘くなく、すっきりとした味わいでちょうどこんな日のイベントで飲むのにピッタリだった。わたしはみどり子ちゃんにも勧めると虹のゆかた部屋の参加者さんにサービスで付けていた300円のお買い物券を利用して1杯お買い上げいただき、わたしと千尋ちゃんと3人でおいしく頂いた。

そうしていると隣の和雑貨のお店に浴衣を着た小学校くらいの女の子がやってきて髪飾りやかんざしを興味深く見ていた。

「わあ、このかみかざりかわいいねー。わたしもこれ付けたらかわいくなれるかなー?。」と言うその子にしのぶちゃんが「うん!とってもかわいいよ!。よかったら試しに付けてみる?。」と言って髪飾りを手に取ってその子に付けてあげてみた。

すると今まで小ぶりの髪飾り1個だけだったので付けてあげた分が大ぶりだったのもあって女の子の浴衣姿がとても華やかになった。鏡で見せてあげると「わーかわいいー。このかみかざりいいなー。」と女の子もまんざらではなさそうだ。

そしてそのやりとりを見ていたみどり子ちゃんも「わたしもこの髪飾り似合うかな?・・・・・。」と言いながら手に取って編み込まれたアップヘアのウィッグの上からあてがってみている。

見ていると髪飾りを選んでいるみどり子ちゃんはほんとに高校生の女子が浴衣に似合う髪飾りを探してあれこれしている姿そのもので、微塵も男子を感じさせない。

「じゃあわたしこれにする!。」と手に取った髪飾りをみどり子ちゃんは買ってくれた。「ありがとうございます!。500円になります!。」と代金の受け渡しと接客をするほのかちゃん、はなちゃん、しのぶちゃん達浴衣姿の新女子3人組にみどり子ちゃんは「それにしてもみんな1年生なのに浴衣もきちんと着られてるし所作や接客マナーもとってもいいね。」と褒めてくれている。

それを聞いていたわたしは自分の事のようにうれしくなり「褒めてくれてありがとうね。この子たち3人共実は新女子でまだ慣れないところ多いんだけど励みになるなあ。」と言うと「えっ!・・・・・この子たちほんとは新女子なの?・・・・・。」と少しびっくりしたよう。

「はい、わたし達3人は入学したての新女子でやっと頑張って浴衣は自分で着られるようになったんですけど、まだまだ他にも女の子として教わったりする事が多くて・・・・・。」

「そんなどこから見ても3人ともかわいい浴衣女子そのものよ。うそじゃなくってお世辞でもなくってほんとそう思う。それにわたしも由衣ちゃんやみんなと同じ新女子なの・・・・・。」

そう恥ずかしそうにみどり子ちゃんが言うと「ええーほんとですか?ー。わたしたち最初から純女さんだと思ってました!。」と3人はびっくりしたように言う。

そしてみどり子ちゃんが髪飾りを受け取りさっそく付けていると千尋ちゃんがそろそろ体育館で午後の部、つまり櫓を囲んでの踊りが始まる時間だから持ち場に戻るねと言い、それを聞いてわたしとみどり子ちゃんは引き続き林ちゃんとあゆみちゃんたちに店番をお願いして体育館へと向かった。

向かっている途中にみどり子ちゃんが「やっぱり優和学園はいいなあ・・・・・。」とつぶやくように、そしてとってもうらやましそうに言う。

実はみどり子ちゃんも中学の時にできる事なら優和学園に進学したいと思っていたのだった。

たまたまインターネットでこの学校の事や新女子と云う制度やカテゴリーがあると云う事を知ったみどり子ちゃんは制服が袴だったり着付けをはじめとした和装全般が学べるカリキュラムはまさに今の着物女子・浴衣女子に憧れているMTFトランスジェンダーの自分に合っていると思い、優和学園に進学したいと思った。

だけど当たり前ながら家から通える距離ではなかったのと表向きは学生服を着て中学生がよくしている刈り上げの髪型で「普通のどこにでもいる男子」で過ごしていたみどり子ちゃんが優和学園に進学するにはまず本当は自分の心は「女子」であるとカミングアウトをする必要もありそれはとても勇気が要る事だったし、仮に入学できても寮生活をしないといけないという経済的にも心理面でも不安がぬぐい切れなくて仕方なく今通っている地元の公立の高校に進学したのだった。

だけど優和学園の事はいつも気になっていて学校公式ホームページや動画サイトの学校公式チャンネルはよく見ていて、このゆかたまつりの事も学校公式ホームページで知ったらしい。

「だからね、わたし動画オンデマンド配信されてる学校のニュースはいつもチェックしてて、秋のきものまつりの振袖ショーやきものパレードもネット動画で見させてもらったし、あの寮生活を取材した回も寮生の林ちゃんだっけ?あの子がラーメン替え玉したり朝もごはんとお粥とパンをお代わりしたりするのがとっても面白くて面白くて・・・・・。」

「そうなの?。あれってわたしが取材したり編集したりしてるんだよ。」

「えーそうなんだー。由衣ちゃんがあの動画とか作ってるの?!。すごーい!!。」

などと言っているうちに体育館に着いた二人は中に入る。すると暗幕カーテンを閉めて外の日光を遮り、照明の加減で既に夕方のような雰囲気になっている館内ではお囃子が流れ、日本舞踊部の部員たちがお手本を示すように櫓の周りと離れたところからでも分かりやすいようにステージの上の2か所で踊っている。

そして徐々に外に居た浴衣姿の生徒や一般客も館内に入ってきては櫓の周りを取り囲むようにお手本を見ながら踊りの輪に入っている。

「せっかくだからわたしたちも踊ってみようか。」「うん、いいよ。そうしよう。」

そうやってわたしとみどり子ちゃんも輪に入り、お囃子に乗って踊りを楽しんでいた。わたしたち生徒はこのゆかたまつりの前に日本文化の授業の中でこのお祭り用の踊り方を習ったのでその通りの振り付けで高校生らしくかわいらしさも意識しながら踊り、みどり子ちゃんはわたしが踊っているのを見たりお手本として輪の真ん中で踊っている日本舞踊部の子の踊りを見ては初めての浴衣姿で頑張って夏祭りを楽しむ女の子のように踊っている。

そしていつの間にか演出で体育館の雰囲気が照明を変えて夕方からとっぷりと日が暮れた感じになっていて天井にはプラネタリウムのように星空が映し出されていて本当の夏祭りのようだ。

絶え間なく続くお囃子にどんどん踊りの輪に入ってくる浴衣姿の生徒や一般客さんで体育館内はとても盛り上がっていた。そのうちに見ていると佳奈ちゃんたちティーンズレインボーや虹のゆかた部屋の利用者の女装子さんたちも踊りの輪の中に入ってきていてみんな笑顔でとっても楽しそうに踊りを楽しんでいた。

そんな風にしばらく何度か休憩を挟みながら踊り続けていたのだが、総合司会の篠原真子お姉様から「それではそろそろ今日のゆかたまつりもお時間が近づいて参りましたのでメインステージのフィナーレとしてこれから花火をお見せしましょう。ではどうぞ!。」とアナウンスが入る。

そして体育館の照明が全て消されて足元を照らす常夜灯だけのうす暗い状態になった次の瞬間「ドーン!!。」と云う大きな音と共に体育館の天井に大輪の花のような花火が打ちあがる。

「えっ?!これって花火??。」「だけどきれい・・・・・。ほんとの花火大会みたいだね・・・・・。」とびっくりしながら見ていると次々に色とりどりの大きな花火が大音響と共に打ちあがる。

これはもちろん室内なので実際に花火をやっている訳ではなくてプロジェクションマッピングの技術を応用したものだけど、わたしたち行事委員にもこの花火の事は知らされてなく後から聞いたのだが三条理事長先生がこのゆかたまつりを盛り上げる為にプロジェクションマッピングを使ったイベントをやろうとしているスタートアップ企業にPRと実演の場に提供しつつ割安にやってもらって実現したとの事だった。

そうして10分ほどで「花火大会」も終了し、程なく今日のプログラムはこれで無事終了しましたとアナウンスが入ったので楽しかったゆかたまつりもおひらきと云う事でわたしはみどり子ちゃんと虹のゆかた部屋に戻った。

戻ると「やだー男になんか戻りたくないー。」「浴衣もっと着ていたいよー。」などと言う声が聞こえる中で参加者さんがメイクオフと着替えをしていてみどり子ちゃんもメイクオフと着替えを済ませてブースから出てきたので「どこにでもいる男子高校生」の姿に戻ったみどり子ちゃんをわたしは校門まで見送る事にした。

「由衣ちゃん、今日はほんとにありがとう!。とってもいい思い出ができてわたしうれしい!。」と姿は男子高校生だけど話す言葉はまだ先程までの浴衣女子の気分が抜けないのか女の子のような話し方でみどり子ちゃんはそう言ってくれる。

そして今日1日優和学園に居てこのゆかたまつりで楽しんでいるうちに気づいた事が二つあったらしい。

ひとつはわたしたちお世話係のスタッフや他の新女子の生徒と接したり、ティーンズレインボーのメンバーをはじめ虹のゆかた部屋の利用者の女装子・LGBTさんと交流する中で自分がMTFトランスジェンダーである事や和装が大好きだと云う事をこれからはもう隠したり一人で悩む事はないんだと云う事で、もうひとつは迷う事なくこれからはMTFトランスジェンダーと云う本当の自分を表に出して行こうと云う事だった。

こんなに和装が好きな同世代の同じような境遇や気持ちを持っている子たちが居て、またみんな自分なりにLGBTだったり女装子だったりと人には言えない思いを抱えながらも頑張って自分の居場所を探したり見つけたりしている姿を見てみどり子ちゃんはとても勇気づけられたらしい。

そして「わたしね、これから徐々にカミングアウトもする方向で頑張ってみようと思うし、高校を卒業したら最近増えてきているわたしたちのようなMTFトランスジェンダーを”女子大生”として分け隔てなく受け入れてくれる枠のある大学に進学しようと決めたんだ。だからその大学に受かるように帰ったらお勉強もそれから”女の子磨き”も頑張ろうと思うの・・・・・。」と少し恥ずかしそうにみどり子ちゃんは言う。

それを聞いたわたしは「大丈夫だよ!。あんなに浴衣の似合うみどり子ちゃんだったら頑張って勉強したらきっと”女子”としてトランスジェンダーを受け入れてくれる大学に合格するよ!。頑張って!。」と励ました。

こうして校門のところで握手してSNSの連絡先を交換するとみどり子ちゃんは名残惜しそうに手を振って地元に帰っていった。そして高速バスの出発時間まではまだ少し時間があるのでディスカウントストアや100円ショップ・300円ショップで地元では誰が見ているか分からないので人の目が気になってなかなか買う事ができない女の子の洋服や下着、靴、コスメ用品やアクセサリーを買い求めるのだそうだ。そうそうゆかたまつりでやっていた「着物・ゆかたバザール」にもみどり子ちゃんは寄って格安で自分用のかわいらしい浴衣を買ったみたい。買う時には女の子扱いしてもらって自分に合う色柄の浴衣を物色しながら買えてとってもうれしかったと言ってたっけ・・・・・。

みどり子ちゃんを見送ってから虹のゆかた部屋の片づけを済ませて2年りんどう組の教室に戻ると模擬店の片づけを終えた林ちゃんたちも戻ってきた。聞くとタピオカミルクティーはめでたく完売したらくて「やったねー!。」「大成功だよー!。」とこちらも盛り上がるわたしたち。

さすがに今日は疲れたけどそれよりも行事をなんとか一つこなせた充実感と達成感が疲れを上回っていた。

だけどまだまだ行事は続く。でもこの調子でみんなと協力すればきっといいものができる、そう思った初夏の1日だった。

(つづく)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?