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文章読本さん江【ブックレビュー】
前回紹介した池上彰氏・竹内政明氏の「書く力」。
『はじめに』の中で池上氏はこう述べている。
いい文章が書けるようになりたい。そう熱望していた私は、駆け出し記者の時代、文章読本の類を乱読しました。その中には、斎藤美奈子さんの『文章読本さん江』も入っていました。この本は恐ろしい作品です。
本文内でもこんな風に言ってのける。
『文章読本さん江』は、読んだことを後悔するような怖い本で、歴代のそうそうたる大作家たちの書いた「文章読本」がすべてバッサリとやられています。これを読んでからは、「文章の書き方」のようなテーマでは、本を書けないと思っていたのですが、今回はこんな本を作ることになってしまいました(笑)。
また竹内氏はこんな風。
『文章読本さん江』は、表紙まわりを見ただけで、「これは怖い本だな」と思って読まないようにしていたので、そこは私は大丈夫です(笑)。
かの池上氏、竹内氏も恐れる本とはいったいどんなものなのか。
怖いもの見たさで、恐る恐るのぞいてみたい。
本書は、文芸評論家であり「妊娠小説」「紅一点論」などで知られる斎藤美奈子氏による
「文章読本さん江」
出版社: 筑摩書房
発売日: 2002/2/5(初版第一刷)
100冊以上の文献をもとに文章読本の類を分析
まず「文章読本さん江」は、文章の書き方を教えてくれる本ではない。
世に出ている文章読本の類をしらみつぶしに調べ、それぞれの著者が文章に対してどんな思想を持っているのか、どんな内容が書かれているのかを分析している。
斎藤美奈子氏は、本著内で文章読本界の御三家・新御三家を選定している。
御三家
谷崎潤一郎「文章読本」(中央公論社・1934年/中公文庫・1975年)
三島由紀夫「文章読本」(中央公論社・1959年/中公文庫・1973年)
清水幾太郎「論文の書き方」(岩波新書・1959年)
新御三家
本田勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞社・1976年/朝日文庫=改訂版・1982年)
丸谷才一「文章読本」(中央公論社・1977年/中公文庫・1980年)
井上ひさし「自家製 文章読本」(新潮社・1984年/新潮文庫・1987年)
小気味良く斬られてゆく文章界の重鎮たち
ばっさ、ばっさと斬られてゆく。
上記で選定された御三家・新御三家も、誰彼かまわず。
本の中はまさに血まみれである。
文章読本の類の挨拶文を「ファンタスティック」と称し、どの著者も「ご機嫌」だと表現する。
池上氏が恐れるのも無理はない。ただ、一般市民の私からすれば、軽快かつリズミカルに斬られてゆくさまは、面白くもあり、興味深い。
よくわかったのは、文章読本を書く人々には、ああ言えばこう言う、文句たれぞうが多いこと。文章への愛ゆえからか。ちょっと、斎藤さんの毒舌がうつってしまったかも。。
明治・大正・昭和からの作文教育
私たちがこうして日々に文章を使えているのは、教育あってこそ。逆に言えば、その作文教育によって、いまの私たちの文章における悩みや問題が生じているともいえる。
明治30年代までの作文指導は、内容軽視、形式優先の「形式主義」、「話すように書くな」が作文の要諦だった。それが徐々に個性化の道へと進み、歴史的かな遣いや現代かな遣いといった問題も絡み、読書感想文が登場。
本著ではこうした作文教育における歴史についても触れているので注目したい。
さて、文章とは
斎藤氏は、文章についてこう書いている。
文章とは、いってみれば服なのだ。「文は人なり」なんていうのは役立たずで、ほんとは「文は服なり」なのである。
他の文章読本にも、「文は服なり」に近しい言葉が見つかる。確かにいわれればそうである。
斎藤氏はさらにこう述べる。
文は服である。と考えると、なぜ彼らがかくも「正しい文章」や「美しい文章」の研究に血眼になってきたか、そこはかとなく得心がいくのである。
衣装が身体の包み紙なら、文章は思想の包み紙である。着飾る対象が「思想」だから上等そうな気がするだけで、要は一張羅でドレスアップした自分(の思想)を人に見せて褒められたいってことなんでしょう?
ああ、耳が痛い…。
いい文章を書きたい…、それはつまり、自分をうまく装いたいってことにもつながるのだろう。ちょっと、いや、結構ぐさりときた。
文は服だっていったじゃん。服だもん。必要ならば、TPOごとに着替えりゃいいのだ。で、服だもん。いつどこでどんなものを着るかは、本来、人に指図されるようなものではないのである。
なんか、文章界の重鎮たちとともに自らも斬られ、そして、背中をぐっと押されたような。
自分で言葉を選び、文章をつづる。
その文章は自分で選んだらいい。
それでいいのだ。
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