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幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才④

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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才④

 朝食を終えた俺達は、格納庫に隣接されているシミュレータールームの更衣室でパイロットスーツに着替え部屋に向う。入ってすぐ俺は使用状況を確認する。シミュレータールームはゲームセンターに似たつくりで、部屋の中央に観戦スペースと使用状況が確認できる大型モニターが配置してあり、その両脇に個室型のシミュレーターが部屋の奥に向けて設置されている。モニターを見る限り両脇に1基ずつ空いているようだ。

「じゃあ、やるか」
「ええ」
 俺は隣の一樹に声をかけ、一樹もそれに応じお互いに反対側のシミュレーターに乗り込んだ。入ってすぐ操縦席に着座してシートベルトを着け起動スイッチを押す。モニターに電源が入り一樹が通信コンタクトを入れてきた。俺はコンタクトを受諾。するとモニターの一部に一樹が表示される。
「モードはどうしますか?」
 モニター越しに一樹は質問する。シミュレーターは戦略機の操縦を学ぶもので、簡単に言うとFPSゲームでもある。

「実践レベルで良いんじゃないか?」
「わかりました。最高レベルでやりましょうか」
 俺は程々で良いという意味で頷く。しかし、ワザと誤解しているのか一樹はあっさりとそうのたまう。
「おい!」
「せっかくですからどちらが最高スコアを更新するか競いましょう」
 俺の抗議を無視して一樹はさらにそう続けた。

「おい、ふざけてるのか? 勝負なるわけないだろ」
「さあ? それはやってみないとわかりませんよ」
 やけくそ気味に言う俺の意を介さず、一樹は問答無用と通信を切った。クソっ、これは死ぬ気でやらないとまずい。
 数秒後、設定が終わったシミュレーターは静かに起動。モニターに戦場が表示される。機体はどうやら10式で場所は市街地廃墟のようだ。本来なら完熟訓練には持ってこいのはずだが……俺は機体の動作確認を行う。多少ぎこちないが自分の意識通り動いてくれている。しかし、この状態でやるのか……

 兵装は頭部三十ミリ機関砲、携行火器は二十四ミリチェーンガンと一六〇ミリ滑空砲に近接戦闘用の74式近接用大太刀、左腕部にはシールド兵装ではなく、砲身を短くした一二〇ミリ滑空砲がついていた。なるほど、盾は甘えらしい。一樹め! 唯一救いなのは市街地で隠れることが出来ることくらいだ。俺は基本動作の確認を終え、モニターに映る戦域図に目を向ける。戦域図に映る敵性反応は、諦めたくなる量が表示されておりこちらに群がって迫ってきていた。

「だよなぁ」
 俺はため息交じりに呟く。気を取り直して近くの相手から倒すべく機体を突撃させた……結末を言ってしまうと、俺達は午前中すべての時間を使ってシミュレーターのスコアを更新した。
 突撃してまず小型幻獣のキャリアーである蜘蛛型幻獣を中心に撃破。チームで戦っているわけではないので、残念な事に敵は自動的に自機に集まってくる。尋常じゃない砲火にさらされ、廃墟を盾にしつつ次々と現れる幻獣を撃破していった。

 通常のシミュレーター設定だと弾は無限なのだが、当然そういうわけではなく補給もなにもない。一歩間違えれば幻獣にタコ殴りにされてしまう。最高レベルというのはそういう設定なのだ。そりゃぁ必死にもなる。
 兵装の弾が切れたら躊躇なく幻獣にぶん投げ、大太刀に切り替え向かってくる幻獣を斬り捨てていく。

 大太刀にも耐久が設定されたようで、数十体程タウロス型幻獣を斬り捨てたところで大太刀もご臨終となり、予備の大太刀でオーガ型を蹴散らしていく。このオーガ型は武器を持っているのでその武器を奪うためでもあった。オーガ型が持つ武器はこん棒や斧が多いがないよりマシで、自分の兵装が尽きたら敵の兵装を奪いながらひたすらに戦った。

 しかし、当然敵は射撃をしてくる。辛うじて避けてはいるものの砲火の爆風と衝撃波は、ダメージという形で機体全体に蓄積し、近接戦は当然腕にダメージが蓄積する。そんな状況で徐々に蓄積したダメージが片腕をもぎ飛ばすが、構わず残っている腕で幻獣を斬り捨て続けた。最終的に両腕が無くなったところで、戦闘不能判定がなされシミュレーターは止まった。
 シミュレーションを終えた俺は汗だくで、しばらくシミュレーター内でぐったりしていた。多少落ち着いたところで外に出て中央の観戦スペース前に顔を出す。と、なぜか人だかりができており、観戦していた訓練中のパイロット達は一斉に俺を見る。

「お疲れ様でした。比良坂陸将」
 その集団の中にいた一樹がわざとらしく俺に声をかける。すると、観戦していたパイロット達は一斉に敬礼。俺は気にするな。と、手を振った。
「――疲れたぞ」
「でしょうね。でも、スコア更新していますよ」
 歩み寄ってきた一樹に言うと一樹は笑みを浮かべモニターのスコアを指した。スコア表示には1位と2位が3位と二桁開いたスコアが表示されていた。1位と2位は俺達か?

「まあ、明日には新しいスコアが更新されるんじゃないか?」
「多分、誰も更新できないと思いますよ」
 興味がなかった俺は疲れ気味に言うが、一樹は肩をすくめ観戦していたパイロット達へ目を向ける。つられて見るとパイロット達には明らかに焦りの色が伺えた。

「そんなに驚くことか?」
「そりゃ驚くでしょ。だって、ブランクあるんですよ貴方」
 俺は一樹に目を向け訊くと嫌味っぽく一樹は言う。
「そうか? だったら昔より練度が低くなっているという事だな」
 俺は疲れていて言葉を選べるほど頭が回らなかった。俺の言葉に一樹は肩をすくめる。何か言いたそうだが、言わない方が良いと判断したのだろう。
「いや、人材不足、なんだろうな」
「そう言うことにしておきましょうか。博士と合流する前にお昼にいきましょう」
 俺は辛うじてそう取繕うと一樹は苦笑交じりに述べ、モニターに映る時計を指す。時刻は丁度昼時を迎えようとしていた。

「そうだな」
 俺は頷き一樹と共にシミュレーションルームを後にした。

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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