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幻獣戦争 2章 2-3 英雄は灰の中より立ち上がる

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幻獣戦争 英雄は灰の中より立ち上がる

 隠岐の島攻略作戦開始まで残り1週間となった2023年10月25日。
 自衛軍芦屋基地近海に集結した隠岐の島攻略艦隊群に、新生第一戦闘師団戦略機大隊が合流。

 俺達は隠岐の島攻略艦隊群旗艦、強襲揚陸艦伊勢に乗艦し砲撃拠点となる西ノ島、比奈麻治比売命神社後地へ向け出港。

 強襲揚陸艦とは戦略機運用を前提として改造された戦艦で、艦前部に武装を集中配置させ、艦後部が戦略機運用のカタパルトが整備されている。いわば、航空戦艦に近い形状している艦艇だ。伊勢とは、改修の母体となった戦艦伊勢からそのまま採用されている名で、他にも扶桑型や大和型が存在している。戦略機運用と戦艦としての機能を両立させるため、いずれの強襲揚陸艦も全長500メートルに迫る大きさを誇っている。

 今回の作戦には伊勢以外にも山城をはじめとした強襲揚陸艦8隻に重巡6隻、補給艦18隻が随伴している。大隊を援護するにしては豪華すぎる艦艇数だが、それだけ田代さんが俺達に期待しているという裏返しなのだろう。
 伊勢に乗艦後、俺は勇司と共に艦隊司令に挨拶すべくCICへ向かい、入室すると気づいた士官達が俺達に敬礼をしてくれた。

 俺達は敬礼を返し、CIC中央のミーティングスペースで海域情報を確認している艦隊司令の元に足を運ぶ。
 CICの中央部は、作戦ミーティングが出来るように電子化された大型デスクとディスプレイが置かれている。

「お会いできて光栄です。比良坂陸将」
 俺達に気づいた艦隊司令は振り向き敬礼して迎えてくれた。堰(せき)口(ぐち)理(おさむ)海将補。第二戦闘師団所属の海将補で、今回作戦準備を担当してもらった第二戦闘師団司令、池田希助陸将が作戦のためにわざわざ推薦してくれた人物だ。

「この度はお世話になります」
「そう気構えないでください。陸将。今回の作戦、かの英雄と共に戦えることに皆沸き立っているのですよ」
 畏まり敬礼する俺に堰口司令はそう微笑んでくれた。英雄か、逃げた卑怯者の間違いだろ……

「私は英雄などではありません。逃げた只の卑怯者ですよ」
「……貴方がどのような心境でいるのかは計りかねますが、我々はかの佐渡島攻略作戦に参加していました。後方で碌な支援が出来ず歯がゆい思いをしていた中、貴方が奇跡を起こし帰還した。ボロボロになり仲間を失って尚戦い抜いた貴方を誰が卑怯者と罵れましょうか? どのような事情があったせよ、貴方は再び剣を抜き立ち上がった。既に満身創痍の貴方に石を投げれるものなど、我が艦隊にはいませんよ」
「御覧の通りまだ鬱病気味の親分でね。苦労を掛けるがよろしく頼む」
 俺達のやりとりを茶化すように、後ろに控えていた勇司が割って入り俺の隣に立ち述べる。

「悪かったな、鬱病気味で」
「やれやれ。早速ですが堰口司令、何日後到着しそうですか?」
 俺がそう皮肉ると、勇司は颯爽と話題を変え堰口司令に質問する。
「何事もなければ作戦開始の5日前には到着出来るでしょうな」
「十分だな。西ノ島の駐屯部隊に防御陣地の構築を頼んでおいてくれ」
 堰口司令の回答に俺は勇司に目を向けそう指示する。

「了解だ。俺も現場に出たほうが良いか?」
「いや、ここに残って後方の指揮を頼む」
「なんと、もしや前線に赴くのですか?」
 勇司の言葉に堰口司令が驚き交じりに俺を見る。

「勿論。私は責任を負わねばならない立場ですので」
「なるほど。個人的には反対したいところですが、それでも貴方は前線で直接指揮するのでしょうな」
 俺が軽くそう答えると、堰口司令は苦笑交じりに呟く。
「鉄砲玉で困りものですよ」
 堰口司令に同意するように勇司もそう言って肩をすくめる。このままここに居たら出撃を止められそうだな……早々に逃げるとしよう

「――さて、そんな鉄砲玉の俺はこの辺で退散させて頂こう」
「おい、どこに行くつもりだ?」
 背を向ける俺に勇司が丸投げか? と、言いたげに問う。
「主役の背中を押すのさ」
「主役……桜井二佐の事ですかな」
 去り際に残した比良坂の言葉に堰口司令は見当がついたのかそう呟く。

「なるほど。確かに今回の作戦、カギを握っているのは彼だ」
「しかし、新型兵器の試験とはいえ戦力が少々心もとないのは何故でしょうか?」
 俺の同意に堰口司令は改めて質問する。

「四国攻略のために温存するため。と、言いたいところですが、実は花を持たせたいのですよ。主力部隊に」
「なるほど。ならば、今回は我々にも活躍の場があるという事ですかな」
「無論。大いに働いて頂きます」
 堰口司令が冗談交じりに言うと俺はわざと胸を張り大きく頷いた。 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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