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SECOND CHANCE ~せっかく転生したのに、気づいたらもうオッサンだった……~ 第2話

第2話 「少年と少女の約束」

~第1話 「幼き日の花冠」の続き~


あれから月日は経ち、オレたちは13歳になっていた。
オレたちは、シルビアの学校に通いながらそれまでと変わらずいつものように遊んでいた。

トリアは相変わらずやかましくて、子供っぽいところがあったけど、最近はちょっと大人びてきた気がする。
見た目は美少女って感じなのに、中身は13歳だし、まだまだ子供だ。でもそこが彼女のいいところだと思う。

「コウくん! 私ね、もっと強くなりたいの!」
そんな彼女は口癖のようにオレにそう言ってくる。

「わかってる。オレも一緒に強くなる。約束だもんね!」
オレがそう言うと嬉しそうに笑うんだ。

そんな笑顔を見るたびにオレは思うことがある。
(この笑顔を守りたい)と。
そして彼女が悲しい思いをしなくて済むように頑張らないとな……。


その年の秋、とある事件が起きた。
それは学校で授業を受けていたときだった。

先生たちが何やら妙に慌ただしく動いていた。そんな先生たちの様子に気付いた生徒たちも、何やら不安そうな顔をしている。

「みんな! 落ち着いて聞いてくれ!」
先生がそう言った瞬間、クラス中が静まり返った。そして次の言葉を待つように先生を見つめる生徒たち。

「このシルビアのほど近く、シルベルア海岸近辺に侵略者が現れた! 今からみんなで内陸の方へと避難する! すぐに準備をして、正面玄関前に集合してくれ!」

(侵略者……? そんなバカな……)
そんなはずはないんだ。だってオレが知っている限り、この辺りでは戦争は起きていないはずだから……。
なのにどうして? オレの頭の中を疑問が埋め尽くしていく。

「コウくん! 早く行こうよ!」
トリアがオレの手を取りながらそう言った。その声でハッと我に返るオレ。

「あ、ああ……そうだな」
オレとトリアは荷物をまとめると正面玄関へと向かった。

他の生徒たちもすでに集まっているようで、先生たちの指示に従っているようだった。

「よし、みんな揃ったな! それでは出発するぞ!」
先生が先頭に立ち、オレたちは避難を開始した。

しばらく歩いていると、遠くの方から爆発音が聞こえた気がした。
「何の音だろう……?」
すると、今度は悲鳴のような声が聞こえた。

(まさか!?)
嫌な予感を覚えながらオレは走り出した。すると目の前には侵略者と思われる者たちの姿があった。

「みんな!逃げろ!!」
先生が叫ぶように生徒たちに指示を出した。だが時すでに遅く、侵略者たちは町の中に侵入していたようだ。

(くそっ! なんでこんなことになってんだよ!!)
オレは歯噛みしながら、目の前にいる侵略者に向かって叫んだ。

「やめろぉぉぉ!!!」

オレの声を聞いた侵略者たちは一斉にこちらを振り返る。
そしてニヤリと笑みを浮かべるとこちらに向かってきた。

「おりゃあっ!!」
オレは思いきり、フードを被った侵略者を殴りつけた。するとその侵略者は数メートル吹き飛んでいく。

(よし! おとぎ話に書いてあった通りだ……。やっぱり転生者であるオレの身体能力は格段に向上しているみたいだ)
そんなことを考えながら、オレは次々と侵略者を倒していく。

驚いたように固まっている生徒たちだったが、トリアはオレを見て嬉しそうに微笑む。

「……コウくん、本当に強くなってたんだね! じゃあ、私だって頑張っちゃうから!」
トリアはそう言うと、片手に雷、もう片方に炎の魔法を宿す。

「そ、その歳で別属性の魔法を同時に!?」
先生が驚いたような声を上げた。

「えへへ、私も強くなったんだよ!」
トリアはそう言うと侵略者に向かって駆け出した。そして次々と雷と炎による攻撃で侵略者たちを倒していく。

「ト、トリア、す、凄いな……」
トリアを守るつもりでいたオレまで素っ頓狂な声を上げていた。

(オレはまだまだだな……それでも……)
そう思いながらも、オレは再び侵略者に向かって行った。


その後、駆け付けた衛兵たちによって侵略者たちは次々と倒されていき、町に侵入したすべての者を倒し終わった。

「ふぅ……何とかなったな」
オレが額の汗を拭いながら言うとトリアもほっとした様子で答えた。
「そうだね! それにしてもコウくんって強いんだね!」

「まぁね。でも、トリアの方が凄かったよ!」
オレがそう言うとトリアは嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ、ありがとう! でもコウくんがいなかったら私もやられてたかもね」
そんなやり取りをしていると先生がオレたちに駆け寄ってきた。

「2人とも大人の侵略者相手に危ないじゃないか! ……と言いたいところだが、ありがとうな。お前たちがいてくれなければ、犠牲者は何人になっていたか……」
先生はオレとトリアの頭をわしわしと撫でてくる。

「ちょっ……先生、痛いですよぉ~」
「あっはは、すみません先生!」

その日の夕食時。オレは父さん母さんに今日あったことを話した。
すると2人とも驚いた顔をした後、母親はオレのことを強く抱きしめる。よっぽど心配だったのかオレを抱きしめるその腕は震えている。

「コウ、お前は本当に凄い子だ。それにトリアちゃんもな」
そんな父さんの言葉のあと、母さんが続ける。
「ええ、2人とも無事で良かったわ。でもこれからは無茶はしないでね?」
オレは母の言葉に素直にうなずくのだった。


先生の話では、侵略者はこのアルセィーマ地方(大陸)とユェントン地方を隔てるように浮かぶ「ロストクリムゾングランド(赤龍の大地)」からやって来たらしい。

そのロストクリムゾングランドは、ほぼ未開で危険な土地とされ、足を踏み入れたが最後、無事に帰って来れる保証はないという。

その大陸には、現在世界中の大陸から消えてしまった大型生物が今も生息しているとされる他、高度な文明を持たない民族がそれぞれ独自の文化の元に暮らしているとされている。

また世界各地で暮らしている巨人族よりも遥かに巨大な巨人族を見た、という噂や空を飛ぶドラゴンを見た、という噂もある。

そういったロマンある話に魅了され、ロストクリムゾングランドに渡った者は数知れないが、生きて帰って来られた者は数えるほどしかいないという。

帝国も自分たちの本拠地である、アルセィーマと海を隔てて接しているため、常に警戒を続けているが時折こうして奇襲を受けている。
今回みたいな襲撃を、ロストクリムゾングランドを挟んだ先の大国家である中唐君主国の陰謀であると考えている者もいるようだけど、恐らく向こう側でも同じように考えている人もいるかもしれない。


オレだってせっかく異世界に転生した以上、未知の大陸を冒険してみたい気持ちはある。
だけど数多くの英雄や勇者でさえ、ロストクリムゾングランドの冒険に挑み帰って来ていない者がたくさんいる。
運が良ければ、肉体の一部をなんとか仲間が持ち帰ることができたというが、ほとんどはどこでどうやって死んだのかすらわかっていない。それだけ危険な場所なのだ。

「コウくん! 早く行こうよ!」
そんなトリアの声で我に返り、彼女の方を向く。

「あ、ああ……ごめん。ちょっと考え事しててさ……」
「もうっ! 今日は一緒に遊ぶ約束でしょ? 忘れちゃったの?」
頬を膨らませる彼女を見て思わず笑みがこぼれてしまう。

(本当に可愛いな)
そう思いながらもオレは言う。

「ごめんごめん。でもさ、またあいつらみたいな侵略者が来たらどうする?  トリアはやっぱり、ロストクリムゾングランドは一度徹底的に調査した方がいいと思う? 」

オレがそう問いかけると彼女は少し考え込むように沈黙した後、言った。

「うーん……私はね、ロストクリムゾングランドを徹底的に調査した方がいいと思う。今のままだと侵略されてばかりだし。共存の道を探るにしても、相手のことを知らないといけないじゃない?」

確かにトリアの言う通りだ。まずは相手のことを知る必要があるだろう。そのためなら多少のリスクは覚悟の上で調査するべきだとオレも思う。

「あ! そういえば、マレオの町の衛兵詰所で料理番をしてる叔母さんから聞いたんだけどね。近年何回も侵略を受け続けたことで、帝国もついに数年後を目途に、本格的にロストクリムゾングランド調査を行うことを計画してるんだって!」
「え、それは本当か!?」
思わず身を乗り出して聞いてしまう。

「うん! まだ計画段階らしいからどうなるかわからないんだけど、調査に行きたい人たちを募って、その中から選ばれた人たちが向かうことになるんだって。その時に私たちも行こうよ!」
そう言って笑う彼女を見て、オレも自然と笑顔になるのだった……。

「よし! そうと決まれば募集に向けて特訓開始だな! 行くぞ、トリア!」
「うん!!」
2人で拳をコツンと突き合わせると走り出したのだった。


~続く~

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