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日記

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あの通りを西に入ったところ
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2018年

2018年のお正月は病院内で迎えました。 重い冒頭になってしまいましたが、事実なので仕方ありません。昨年末に入院してそのままひとりぼっちの年越し。病院の窓から見た初日の出は驚くほど眩しかったし、あけまして“おめでとうございます”という言葉を人生で一番噛み締めました。 体調が回復し、またふつうの生活が戻りましたが、それでもいつも不安はつきまとっていました。あいつが、またやってきたら、今度は自分の首を絞めにかかったら。後悔する前にやりたいことはやっておこう。 今年は曲を作った

すいかと月

蛍光灯が切れて薄暗い実家のキッチンで、すいかを切りながら、そういえば平成最後の夏だなと唐突に思った。自然光に照らされて瑞々しいすいかに、“平成最後”といった特別感は微塵もなかった。 幼い頃、夏休みが少し怖かった。たまたまいつだかの夏休みに、自分や身内や周囲の人にたてつづけに病気や死が降りかかった。私は「早世」という言葉を早くに覚えてしまった。おそらく同年代よりすこし、その辺を不安に思いやすい子どもだった。 元気でない子どもにとって夏休みとは“長い暇”だった。ほんとうは思

“弱い”ほうの、あなたへ

物心ついた時から“変わった子”でした。 いつもぼんやりしていて物分かりが悪く、自分の思うことを上手に話せなくて、失敗ばかりしていました。何もないところで転び、忘れ物もなくしものも多く、友達グループには上手く入れませんでした。 小学校に入ってできた友人は、そんな私のことを「面白い」と言いました。しかし、自分では特に面白いことをしているつもりはなかったし、その言葉はあまり良い意味で使われてはいないんだろうな、とは、気づいていました。 いつのまにか孤立していました。友人がいたの

ストリートピアノ

静かな場所が好きだと、静かな場所を見つける能力が、日ごとに上がっていきます。 大学のキャンパス内でも、静かなエリアを自分の庭かのように渡り歩いています。この日選んだ共有スペースは、椅子と机が大量に並んでいて、端には吹き抜けがあるため開放的な雰囲気の場所でした。 ノートを開いたところで、かすかに音が聞こえてきました。ピアノの音。それから何か管楽器の音。「G線上のアリア」。最近クラシック音楽を聴きこんでいたかいがあってすぐわかったな、なんて得意げになる間もなく、近くにいた知ら

知り合い

初めて買ってもらったゲームは、手のひらサイズの育成ゲームでした。 キャラクターを育てていくと、はじめは「しりあい」だった関係が「ともだち」になり、「しんゆう」になり、最後には「だいしんゆう」になるというゲームでした。 周りの友達が頑張ってお世話をする中、私はどうにもそのゲームの面白さがわからず、次第に興味が薄れ、放置するようになりました。 結果、「だいしんゆう」には至らず、キャラクターとは「しりあい」のままでした。それなりに長い付き合いだったのにずっと知り合い程度の関係だ

市井

「市井(   )の人」。 教室での出来事、ということは辛うじて思い出せる、古い記憶。 プリントに「市井の人」とあって、なんて読みますか、と問われて、イチイノヒト、と答えてしまった、ことも、思い出せます。 し‐せい【市井】 《古く、中国で、井戸のある所に人が多く集まり、市が立ったところから》人が多く集まり住む所。まち。ちまた。(小学館・デジタル大辞泉より引用) イチイ、ではありません。 失敗した場面というのはなぜか頭に残りやすいものですが、そのなかでも、この些細な読