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技術継承と効率化の鍵握る人間とデジタルの「役割分担」|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Part5]

 日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
 わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
 安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。

日本企業に着々と忍び寄る少子高齢化の足音。技術継承と効率化という難題の克服には、デジタルとアナログの共生が必須だ。企業の最前線の取り組みを追った──。

文・編集部(野川隆輝)

 「急速な少子高齢化への対策を放置すれば、会社の存続が危ぶまれる」

 今回、小誌の取材に応じた企業の経営者や事業担当者は一様にこう語った。経験豊富な人材の大量退職時代を迎える中、多くの企業にあてはまる喫緊の課題は2つある。

 今ある自社の技術をいかに若い世代に継承し早期育成を図るか。そして、既存の事業をいかに少ない人数で運営できるよう効率化するかだ。

多くの企業が「技能継承」に課題を感じている

(出所)厚生労働省『平成30年度能力開発基本調査』を基にウェッジ作成

 改善に向けた一手として注目を浴びるのが「デジタル」の力だ。年間でのべ400社近くの経営者から相談を受ける愛知県産業人材育成支援センターの逸見美秋コーディネーターは「直近2~3年で経営者のデジタル化に対する関心は一気に高まった」と話す。

 ものづくり研究の第一人者で早稲田大学大学院の藤本隆宏教授は「熟練技術の継承には、熟練者が言葉で伝えにくい暗黙知的な動作をデータ化し『見える化』することが有効だ。国内にもすでにデジタル技術やAIを活用する現場があるが、自動化するのか、人間同士で技能継承するのか、そうした判断は経営陣の全体方針を踏まえ、実態を知る現場が行うべきだ」と語る。

技術継承に不可欠な「見える化」
自動車部品製造会社の挑戦

 長い歳月を経て培われた技術だからこそ、継承にも時間と労力がかかる。それでもトップの大方針の下、現場と協力して暗黙知を「見える化」し、地道だが着実に技術継承を試みる企業がある。

 自動車の内装・外装部品やエアバッグなどの安全部品を製造する日本プラスト(静岡県富士宮市)だ。同社の永野博久社長は「一口に『技術継承』といっても、業界にはさまざまな技術がある。他社と比較して当社が本当に守り抜くべき技術とは何か、これを徹底的に考えなければ生き残れないと感じていた。また、国際化や少子高齢化で製造業を取り巻く環境が変化する中で、自社の技術が本当に継承できているのかという不安があった」と話す。

 こうした危機感から現場と連携した取り組みが始まる。同社はまず、……

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