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「新しい戦い方」の脅威 第4の戦闘空間に産官学軍で備えよ|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[INTERVIEW]

防衛費倍増の前にすべきこと

安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。

日本には先端技術を理解した安全保障の専門人材が不足している。専門家が語る防衛用無人機の可能性と日本に必要な視点とは──。

古谷知之(Tomoyuki Furutani)
慶應義塾大学総合政策学部 教授
慶應義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。慶應義塾大学総合政策学部准教授などを経て2015年より現職。専門は先端モビリティー(ドローン・自動運転など)の社会実装、先端技術と安全保障、応用統計学、都市工学。


編集部(以下、──)ロシア・ウクライナ戦争では、ドローンをはじめ多くの無人機が実戦投入されているが、こうした現状をどう見ているか。

古谷 今回の戦争は米民間企業が保有する多数の人工衛星を協調して動作させる衛星コンステレーション「Starlink」やSNS、無人機などデジタル技術を駆使して〝見せながら〟戦っている。ウクライナは開戦前から軍事分野を含むデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきた。この戦争では伝統的な兵器と宇宙・サイバー・電磁波などの革新的技術、さらにAIや無人機など先端的なデジタル技術をミックスしてロシア軍の侵攻に対抗している。

 民間人が所有する無人機も積極的に活用し、ロシア軍の位置を偵察・特定するほか、「戦場のウーバー」と呼ばれるGISArtaを駆使して兵器をマッチングすることで効率的に作戦を実行している印象だ。こうした「新しい戦い方」は一朝一夕にできるものではない。これまで技術投資をしてきたからこそ可能となったものであり、今回の戦争ではその有効性が証明された形だ。

──無人機の開発や導入は世界的な動きなのか。

古谷 無人機に代表されるAIやロボットが「新しい戦い方」の革新的ゲームチェンジャーになり、「防衛装備外交」でも強いカードになっている。

 例えば、米軍は開戦前から偵察用無人機を使用しており、開戦後には自爆型無人機をウクライナ軍に供与した。さらに「フェニックスゴースト」と呼ばれる新たに開発中の無人機まで提供する動きがある。

 トルコは攻撃用無人機が国家産業になりつつある。今回ロシア軍の兵站を相次いで破壊したことで注目されたトルコ製ドローン「TB2」を開発したバイカル社の経営を事実上リードする最高技術責任者は、エルドアン大統領の娘婿にあたる。同社は既に次世代無人機「TB3」のコンセプトを発表しており、海上自衛隊の護衛艦「いずも」にも艦載可能だと宣伝している。

 アジアも例外ではない。

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