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医療人材の育成方法にメスを 地域に必要な専門医とは|【WEDGE OPINION】

コロナ禍で地域医療の〝受け皿〟となる体制不足が露呈した。「プライマリ・ヘルス・ケア」を担う人材を早期に育成する仕組み構築が急務だ。

文・葛西龍樹(Ryuki Kassai)
福島県立医科大学医学部 地域・家庭医療学講座 主任教授
1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってもう3年目になる。「コロナ禍で、わが国の長年にわたる保健医療制度の問題が明らかになった」と言われるが、問題の根本的改善へ向けてのスピード感のある対応は、どのステークホルダーたちからも一向に見えてこない。補助金や診療報酬による誘導は、それに振り回される医療現場の混乱を生じかねず、本質的な解決からはほど遠い。

 翻ってみると、日本の保健医療制度改革では、地域のニーズに応える能力を備えた専門職を〝キープレーヤー〟として育成する機会を何度も逃してきた。例えば、2000年の介護保険導入と13年の地域包括ケアシステム推進のタイミングだ。質の高い人材の育成も同時に達成されていればこれらの制度はもっと生かされていたはずだ。

 本稿では、コロナ禍および今後の日本で、地域住民を癒し、健康を守るキープレーヤーとしての役割が期待される医師の人材育成について論じたい。

 医療経済学を専門とする一橋大学の井伊雅子教授らは、財務総合政策研究所が刊行する『フィナンシャル・レビュー』の22年3月発刊号で、DPCデータ(DPC/PDPSという支払い方式を導入する比較的高機能な病院での診療データ)と国民健康保険・後期高齢者レセプトデータの分析結果をもとに、コロナ禍で露呈した日本のさまざまな保健医療制度の問題点を指摘しているが、特に重要な点が地域医療の〝受け皿〟となる体制の不足である。

 例えば、本来なら高度な集中医療の提供が求められる病院にも軽症・中等症の患者が多く搬送され、急性期を脱しても回復期に入院・療養する転院先が見つからず、高機能病院の機能が麻痺してしまう事象が散見された。また、後方支援などの医療機関同士、そして介護施設など、同じ地域に属するその他の機関との連携不足も露呈した。

 これらは「わが国の長年にわたる保健医療制度の問題」であるだけに、ステークホルダーたちの既得権益、官民セクターの立場の違いなど、日本社会の構造的問題も含めて根(あるいは闇)が深く、簡単な処方箋は望めないかもしれない。しかし、誤解を恐れずあえて言えば、……

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