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コロナ統制を機に続々来日 中国を脱出する新移民たち|【WEDGE REPORT】

習近平政権の硬直的な政策に不満を持つ富裕層が、水面下で日本へ移住し始めている。莫大な資産を持ち、公正な市場を望む彼らを、日本はどう受け入れ、生かすべきか。

文・安田峰俊(Minetoshi Yasuda)
ルポライター
1982年滋賀県生まれ。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。著書『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で第5回城山三郎賞・第50回大宅壮一ノンフィクション賞をW受賞。近著に『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』がある。


 「今年4月以降、中国からの問い合わせが一気に増えました。9月までに毎月5~6件が成約し続けています」

 筆者の取材にそう話すのは、JR京都駅前にオフィスを構える不動産会社「仁通」(京都市南区)代表取締役の劉丞氏(34歳)だ。留学生として同志社大学に在学していた2012年に起業し、外国人の視点から不動産売買の最前線を見続けてきた。現在も顧客の6~7割は中国人だ。

 コロナ禍前まで、京都における中国人の不動産投資の定番は、ホテルやゲストハウスに転用できる町屋の購入だった。今年初めごろまではコロナ後を見越して物件を持ち続ける人も多かったというが、インバウンド再開の遅さに断念。手放す動きが増え、町家物件は閑古鳥が鳴いているという。

 だが、今年4月から新たな地殻変動が起きた。習近平政権下での徹底したゼロコロナ政策のもと、上海が約2カ月にわたってロックダウン下に置かれたことで、富裕層や高学歴層が中国社会のリスクの大きさを痛感。投資ではなく移住を目的に、劉氏の会社に連絡をしてくるようになったのだ。

 「よく売れているのは、家族と居住できる住宅です。京都市街地の北部、左京区あたりの閑静な地域で、数千万円の戸建てが人気。経済力によっては嵐山あたりに数億円の豪邸を購入する方も珍しくありません」

 こうした動きは「潤(ルン)」と呼ばれ、今年の中国のひそかな流行語である。

 漢字に深い意味はない。ただ、発音をアルファベットで書くと「rùn」となり、英語の「run away」(逃走する)に意味が通じる──。つまり、中国社会に見切りをつけて国外に脱出する行為を指す。

 もちろん、中国の富裕層が資産を海外に逃がしたり、複数の外国に生活やビジネスの拠点を構えることは以前から行われてきた。だが「潤」の特徴は、中国国内の生活基盤をほぼすべて処分し、家族ぐるみで海外に移民している点だ。

 「潤」を決断するのは、数億円以上の資産がたまった40~50代で、上海や北京など大都市出身のエリート層、職業は企業家や弁護士らが多い。少なくとも近い将来、中国に戻ることを一切考えないという、不退転の決意での出国である。

 現在、習近平政権の権力基盤は盤石とされる。庶民のレベルでは、中国を偉大な国家だと信じ、党や習近平を信頼してやまない人も数多い。

 だが、高学歴層や富裕層の間では、……

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