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運命の場所

「きょうは〜クリスマス♪」

夫婦で愉快に合唱しながら迎えた、クリスマスイブの朝。

わたしはクリスマスが1年でいちばん好きだ。白い息を吐きながら求めるぬくもり。誰かのサンタクロースになろうとプレゼントを買いに走る、踊るような足どり。ちょっと背伸びしたおしゃれ。ひんやりした空気の中に輝くイルミネーション。

そんな浮き足立った街の中、わたしたち夫婦は海外挙式の手配会社に向かっていた。海外挙式のことを、場所や時期など具体的に決めていくためだ。

いろいろと資料請求をしてみたが、どこの会社もハワイやグアム、バリがほとんど。もちろん写真映えのするところが多く、青い海に白いチャペル、なんてとっても素敵なロケーションもたくさんあった。でも、どれも既視感があるというか、モデルとかインスタグラマーが喜びそうだな、という感じ。決してけなしているわけではない。ただ、わたしたちらしいのかというと、ちょっと違うのだ。

ヨーロッパを中心に手配してくれるところはなかなかなく、あってもフォトウェディングがほとんどだった。前撮りや後撮りでヨーロッパを訪れている花嫁は、わたしの周りにもいる。でも今回わたしたちは、結婚式を挙げるのだ。ただわたしたちが写真を撮られているのを家族に見てもらうだけでは、意味がない。

「ここかな?」

ギリシャのサントリーニ島で撮ったであろう、青と白がまぶしい新郎新婦の写真とクリスマスのディスプレイに導かれ、少し緊張しながら階段をのぼる。ここは珍しく、ヨーロッパを専門に扱う結婚式の手配会社だ。

「お寒い中お越しいただきありがとうございます。」

担当してくれるのは、まじめそうな男性の方。隣のテーブルはかなりきゃぴきゃぴはしゃいでにぎやかな感じなのだが、この方はちょっとキャラクターが違うようだ。

そういえば、海外挙式の場合はウェディングプランナーはどうなるのだろう。プランナーとの相性はとても大事だと聞いたことがあるし、最後まで一緒に伴走するイメージだ。実はこの職業に密かに憧れていたりもする。わたしはイベントを企画したり、装飾を考えたりするのが結構好きなのだ。夫婦のストーリーを共有して人生の一大イベントを一緒に作れるなんて、本当にやりがいのある仕事なんだろう。

この方が、プランナーのような存在になるのだろうか。

「わたしたちの希望としては、海がきれいな場所、食事がおいしい場所などとざっくりとしたイメージしかまだないです。クロアチアのドブロブニクとか、さっき写真が目に入ったのですがサントリーニ島とかもきれいですよね。でもサントリーニ島は結構みんな写真を撮りにいっているイメージなので、あまりメジャーじゃないところの方がいいのですが・・・」

「海でしたらイタリアもおすすめです。たとえばアマルフィはそこまでまだ知られていないので、良いのではないのでしょうか。チャペルが良いのか教会が良いのか、どのような形の結婚式を挙げるかによってご提案できる内容も変わってきますが、こちらですといくつかご提案できるチャペルや、ホテルでのリゾートウェディングもございます。」

アマルフィ。たしかに一度行ってみたい場所だ。青い海、ゆったりと進む白い船、カラフルな建物、黄色いレモン、鮮やかなピンク色の花。南イタリアの風に吹かれながら挙げる結婚式は、素敵な香りがする。

しかし、チャペルと教会の違いは今回はじめて知った。チャペルは結婚式のために建てられた商業施設なのだとか。そもそもほとんどのヨーロッパの人は、宗教に入っていればその教会で挙げるが、結婚式場というものがあるわけではなく、区役所で挙げることが多いそう。海外で日本人しか使わないチャペルを建て、日本人が次々に結婚式を挙げる。地元の人の、あーまた日本人がやってるよというまなざしが目に浮かぶ。

「いいですね、南イタリア。でも、アマルフィって映画にもなってるし、結構有名な気がしますが・・・」

「アマルフィはまだまだメジャーにはなっていないですよ。知る人ぞ知る、という感じです。」

わたしたち夫婦が旅好きだから、有名と感じるだけだろうか。

「それに、アマルフィだったらその後クロアチアにも行けるので、そのまま新婚旅行にドブロブニクへ行かれるのもおすすめです。」

なるほど、ここは結婚式だけでなく、それを含めた旅行を提案してくれるのだ。旅行代理店に来ているような感じだ。今回は海外初心者の母もいるし、きちんと手配してくれる人がいるのはありがたい。

「アマルフィ、結構魅力的だね。」

夫はかなり気に入っているようだ。わたしもかなり魅かれているが、なにか、なにかが引っかかる。

「___アルベロベッロのプランはありますか?」

なぜ、この土地の名前が出てきたのかはわからない。なんとなく、口から出ていたのだ。そしてここが、わたしたちの運命の場所になる。

もしかしたらこれは、サンタさんからのクリスマスプレゼントだったのかもしれない。

To be continued...

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