お地蔵さんになります。
突然ですが、私、お地蔵さんになることにしました。
事の発端は、中古で買った鎌倉のガイドブックでした。店がつぶれている事が多いので、ガイドブックは中古はいかんということがわかったのですが、一つ面白い話が載っていたのです。
それは鎌倉のカフェの話でした。お店に来るお客さんが、カフェの店主に言ったのです。「店主はいつも同じ場所でやってくる客を待っている。定期的にお参りに行くかのように客はやってくる。マスターがふらふらして掃除もせず、精進せずにいると、客もご利益を感じず、お参りにこなくなるよ」と。
この話はすごく心に響きました。店を開くということは、その場所でお客様を待っているしかないということをお地蔵さんになぞらえています。そして、その場所をきれいにしておくことを店主の行動としていて、来ても来なくてもやることはやりなさいとたしなめられたような気持ちになったのです。
わざわざ代表 平田はる香が開業時より毎日綴ってきた膨大な文章のアーカイブから、厳選してnoteに掲載するわざわざ傑作選。この投稿は2013年2月のブログ「お地蔵さんになります」の再編集版です。
だからお店を磨いて、じっと待つ。
店を始めて4年が経ちました。5年目に入ります。早いものです。開店してからずっと通ってくださっているお客様もいらっしゃりますが、店にはいつも別れと出会いがあります。誰かが去り、新しい人がどこからかやってきます。
開店当初は、ずっと来てくださると思い込んでいたお客さまが、いつのまにか来なくなることになかなか耐えられず、色々な思いが錯綜したものです。
自分が何か失礼なことをしてしまったのではないか?
パンが美味しくなかったのではないか?
いや、病気かなにかになってしまったのかもしれない。
店の者にとっては、お客様の行動はお客様が店に来ることでしか知ることができません。来ない理由をいくつも考えて、自分の行動を振り返り悩む、胸中はいつも複雑でした。
ところが、どうでしょうか。いつの間にか私はそれを受け入れ、何も感じないようになっています。そりゃあそうです。自分だってなかなか通い続けない。ブームが去れば終わる事もあるし、たかがパン屋なのです。
人生の中で通り過ぎたり、せっせとお参りしたり、色々とあるでしょう。私はお地蔵さんになります。やるべきことをしっかりやって、お店を磨いて、今週も来るか来ないかわからないお客様をじっと待ちたいと思います。
すぐに結果を求めない。
これは庭の話。
東京から長野へ引っ越す前。庭作りを楽しみにして、図鑑や庭本で勉強し、近所の園芸店に通い、アドバイスを受けた上で庭作りを始めてみるも、わざわざのある東御市・御牧原の寒さと風の強さ、粘土質の三重苦にやられ、植えた植物の半分以上が枯れてしまったのでした。
庭をやりたいやりたいで始まったのが5年前。嫌になって投げ出した数年間。そして今、少しづつだけど、何となく展望が見えてきて楽しくなってきた。植物は手を貸せば応えてくれる。庭は一日にしてならず。今日やったことが数年後に花開く。
辛抱強く、イメージを大事に、取り組むのです。すぐに結果を求めない。
店と一緒だなぁ。手がかかるのが面白いです。
【編集より】わざわざというお店はこのあと2017年に法人化し、現在は約20名のスタッフが働いています。けれど皆がお地蔵さんになれているかと言われれば、決してそうではありません。
日々の仕事が結果になかなか結び付かない時期は、どうしても焦ります。焦りのあまり「売りたい売りたい」という気持ちばかりが先走ってしまうことも。けれどひとたび我に返ってお客様の立場に戻れば、自分だって、お店が売りたいものだけを常にチェックしてあげているわけではありません。
買い物したい瞬間はふと訪れるもので、毎日スタッフとしてオンラインストアに関わっていても、実際に自分が買い物したいと思う瞬間は本当に「ふと」なんです。
だから数字とばかりにらめっこするよりも、辛抱強く、お客様に喜んでいただけるイメージを大切に。お客様がふとわざわざで買い物したいと思った日に、いつもよいお店であれるように。スタッフが増えお店の大きさが変わっても、お地蔵さんの心構えで変わらずよいお店作り、面白い・楽しいと思っていただける記事作りに励みます。(編集>鈴木誠史)
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