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神経細胞と自己組織化 どうやって神経細胞は結びついてるの?


1. 神経細胞の結びつきは変わる

どーも、うぇいです。いつもはなるべく1記事完結で読めるように書いているのですが、本記事の内容は脳科学の知識を前提とします。ですから、ぜひ前回の記事を見てから本記事を読んでもらえばと思います。


本記事の目的は、前回の脳神経科学的知見をもとに、神経細胞がどのように結びついているかを説明することです。さらに、今回の内容を踏まえて次回の記事を書こうと思います。

さて、本記事の構成は以下のようになります。第2章では、神経細胞は自己組織化という現象によって結びついていることを示します。第3章では、神経細胞の結びつきが可変的であることを示そうと思います。第4章では本記事のまとめと、次の記事の予告をします。

2. 脳と自己組織化

前回の記事で脳はおよそ1000億個のニューロンが結びつき、情報を伝達していることを確認しました。それでは、その結びつきはどのように生じたのでしょうか

本章の目的は、神経細胞が自己組織化したものであること、つまり自ずから結びついたものであることを示すことです。

2.1 自己組織化とは何か

そもそも、自己組織化とは何なのでしょうか。本節ではまず、自己組織化という用語を説明します。

自己組織化とは一言で言えば、ランダムになろうとする力に秩序化しようとする力が打ち勝つことです

自然はふつうランダムな方向に向かいます(エントロピー増大の法則)。けれども、自然には様々な形や動きを自発的に形成する力が秘められています。雪の結晶、魚群や渡り鳥の統一された集団挙動、炭素原子が自発的に集合することで形成されるフラーレンやカーボンナノチューブなどというように、ミクロマクロを問わず自己組織化現象は自然界に広く見出されます。

また人間の集団行動人工システムにも自己組織化能力の発現が見られます。

つまり、自己組織化とは、ランダムから秩序へ、またはミクロからマクロへと自発的に組みあがってしまう現象なのです!

2.2 自己組織化と脳

前節でみた自己組織化は、人間の中枢神経である脳のニューロン(神経細胞)の結びつきにも見られます。

脳は、母親の胎内にいるときに基本的な「形」ができあがります。生まれたばかりの赤ちゃんと大人の脳の大きな違いは、ニューロンの結びつき方なのです。

神経細胞のつなぎ目である「シナプス」の数は、1~3歳前後までは急激に増え、その後は徐々に減っていきます。どういうことかと言うと、神経細胞はとりあえず最初は広く手をつないでおき、後で不要な手を離すという戦略をとっているのです。この「多めに作って後で減らす」方式のほうが、「必要に応じて増やす」方式よりも、周囲の状況に敏感に反応できるからだろうと考えられています。

例として、手の動き方に注目してみます。乳幼児は手を動かす神経回路が未熟なために、大雑把な動きしかできません。成長に伴い余計な回路が働かなくなることで、細かい手の動きが可能になるのです。

成長期を過ぎても、シナプスの結びつき方は変わります。次節では、その変化について説明します。

まとめると、脳の成長とは神経細胞どうしの結合が密になることです。神経細胞による複雑なネットワークを作り上げることこそ、脳の自己組織化に他なりません。

3. 脳の可塑性

ニューロン間の情報伝達は、前回の記事で示したように、1つのニューロンの発火がシナプスを介して他のニューロンに働きかけることで起こります。このシナプスの結合の強度は、電気信号の多寡によって変化していくという可塑性を持ちます 。

脳が柔軟に働くのは、必要に応じてシナプス結合の強度を変化させているからなのです。結びつきが強ければ興奮性のニューロンであり、弱ければ抑制性のニューロンといえます。

1つのシナプスの中で可塑性に影響を与える仕組みは、大きく2つあります。

1つ目は、シナプス間隙にシナプス小胞から神経伝達物質を放出する確率を変えることです。

2つ目は、シナプス後部で神経伝達物質が結合する受容体の数を変えることです。シナプス後部に受容体が増えれば放出された神経伝達物質と結合する頻度が上がります。一方、受容体が減るとすぐに結合が飽和してしまいます。

これら2つの要素が、ニューロンの発火が伝達される効率であるシナプス強度に影響します (下図は、甘利、2016、34頁参照)。

ニューロンのつなぎ目のシナプス

可塑性とは、神経活動に応じて神経回路の構造や機能が変化する性質です。神経回路のニューロン間結合度合の変化こそ、脳における自己組織化なのです。

4.まとめ及び次回予告

脳は、約1000億個の神経細胞(ニューロン)が自発的に結びついたものです。しかも、その結びつきは大人になっても変化します

次回の記事は、人工知能(AI)と神経細胞が密接に関わっていることを示します。実は、AIは神経細胞をモデルにしているのです。最後には、生命とAIの違いを指摘しようと思います。


思考の材料

参考文献

甘利俊一(2016)『脳・心・人工知能』、講談社ブルーバックス

石渡信一(2009)「自己組織化とは——生物」、19-21頁、国武豊喜監修『自己組織化ハンドブック』、エヌ・ティー・エス

大倉和博(2009)「機械学習」、830-831頁、国武豊喜監修『自己組織化ハンドブック』、エヌ・ティー・エス

カーツワイル(2016)『シンギュラリティは近い』井上健監訳、NHK出版

カールソン(2013)『第4版 カールソン神経科学テキスト』泰羅雅登・中村克樹監訳、丸善出版

黒柳奨(2003)「ニューラルネットワーク/コネクショニズムとは何か」、1-7頁、戸田山和久・服部裕幸・柴田正良・美濃正編『心の科学と哲学』、昭和堂

蔵元由紀(2009)「総説 自己組織化の科学に向けて」、5-7頁、国武豊喜監修『自己組織化ハンドブック』、エヌ・ティー・エス

合田裕紀子(2016)「ニューロンをつなぐ情報伝達」、93-125頁、理化学研究所 脳科学総合研究センター編『つながる脳科学』、講談社ブルーバックス

櫻井武(2018)『「こころ」はいかにして生まれるのか』、講談社ブルーバックス

髙玉圭樹「組織学習」、828-829頁、国武豊喜監修『自己組織化ハンドブック』、エヌ・ティー・エス

ダマシオ(2010)『デカルトの誤り』田中三彦訳、ちくま学芸文庫

チャーチランド(1998)『認知哲学』信原幸弘・宮島昭二訳、産業図書

都甲潔・江崎秀・林健司・上田哲男・西澤松彦(2009)『自己組織化とは何か 第2版』、講談社ブルーバックス

利根川進(2016)「記憶をつなげる脳」、17-57頁、理化学研究所 脳科学総合研究センター編『つながる脳科学』、講談社ブルーバックス

信原幸弘(2017)「コネクショニズム」、232-235頁、信原幸弘編『ワードマップ 心の哲学』、新曜社

ベアー・コノーズ・パラディ―ソ(2007)『神経科学:脳の探究』加藤宏司・後藤薫・藤井聡・山崎良彦監訳、西村書店


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