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木造高層建築について | 木でできた建物が都市を森へと変える日 | 第1回

カーボンニュートラルを目指すために

最近、ニュースで「カーボンニュートラル」という言葉をよく耳にすると思います。

これは、経済活動における二酸化炭素の排出量を実質0にできた状態を指しています。

EUを始め、多くの先進国では環境負荷を減らし、気候変動を止めるために、2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言しました。

アメリカは、トランプ前大統領の時代に目標を白紙に戻したものの、バイデン大統領になってからは、2050年カーボンニュートラルという目標が再設定されました。

日本でも菅前総理が臨時国会で演説された際に、同じく2050年という目標を掲げられました。

2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き - 環境省
に基づいてWayfinder Inc.,が作成

この記事では、各国がカーボンニュートラルを目指す上で、欠かすことができない要素である木造建築について、その特徴、各国の取り組みの現状と、日本の取り組みについて、3回に分けて、まとめていきたいと思います。

なぜ木造建築が重要なのか

気候変動の原因として挙げられる二酸化炭素は、年間で363億トン(2021年, IEA公表値)排出されており、長い間増加傾向にあります。

そのうち、37%は建物関連と言われています。

IEA 2021a. “Tracking Clean Energy Progress”
に基づいてWayfinder Inc.,が作成

細かく見ていくと、この37%のうち、10%は建材製造と建設業とで発生しているということがわかります。

つまり、2050年のカーボンニュートラルを目指すためには、建物が排出している二酸化炭素量も、他の工業や運送業と同じく、大きく減らしていく必要があるということです。

現在、建築素材の中心となっている鉄筋とコンクリートは二酸化炭素を多く排出しています。

これらを別の素材に切り替えることで、建築にまつわる二酸化炭素排出量を減らせる可能性があります。

そういう背景から、世界中で木造高層建築が非常に注目されているのです。

木造高層建築とは

木造というと、日本では主に居住用一戸建ての印象が強いと思います。
実際、日本の一戸建ての8割は木造になっています。

一方、商用などで使われる中・高層ビルが木造であるケースは、全体のわずか5%未満です。(林野庁、建築着工統計調査2021)

これは、これまでは防火・防災の観点や、大きなサイズの木材が高価になるという経済的観点から、木材が階層の高い建物に不向きだったためです。

しかしながら、これらの問題は木材を加工する技術の進歩によって解決されつつあります。

特にヨーロッパ・北欧では、積極的な技術開発や、法整備が行われ、結果2015年以降から多くの木造高層建築が誕生し始めています。

日本国内でも、海外に習って木造の中・高層建築の取り扱いを始めた事業者や、政府からの助成が増えており、今後数年で大きく広まることが期待されています。

木造高層建築のメリット

木造高層建築は、従来の鉄筋コンクリートビルにくらべて多くのメリットがあると言われています。

以下に代表的なものを4つ挙げました。
これらは、従来より木造一戸建てのメリットとして挙げられていましたが、木造高層建築にも同じく適用される項目です。

【1. 製造される際の二酸化炭素発生量が少ない】

一般的な高層建築では、鉄筋コンクリートが使用されています。

コンクリートは、水と混合される過程で化学反応を起こし、二酸化炭素を排出します。

鉄筋は、素材の鋼を溶かしたり、整形する際に多くのエネルギーが必要であり、ここでも多くの二酸化炭素を排出します。

また、鋼を自国で生産できない国もあり、海外からの輸入に頼っています。
海運もまた、大きな二酸化炭素排出源です。

一方で、木は伐採された後、乾燥、整形、接着などのプロセスを経れば、そのまま建物用の素材として使用することができます。

このため、木材は製造プロセスの二酸化炭素排出量が少ないのです。

【2. 木は二酸化炭素を貯蔵できる】

木は成長するために、二酸化炭素を吸収し、酸素を排出する光合成を常に行なっています。

木が伐採される際、それまでに吸収した二酸化炭素は、空気中に排出されずに、木の中に残ります。

これを炭素固定と呼びます。

成長している際には二酸化炭素を吸収し、素材になった後も二酸化炭素を固定することから、木材を使用する方が長期的には空気中の二酸化炭素総量を減らすことにつながります。

【3. 木は保温性が高い】

従来の建物で使われていた鉄筋やコンクリートと比べると、木材は水分の含有量が高いため熱伝導率が低いのも特徴です。

つまり、内部空間の温度が変化しにくく、どの季節でも快適な温度に保ちやすいということです。

これにより、木造建築を建てた後の冷暖房に使うエネルギーが少なくなるため、ここでも二酸化炭素削減効果が見込まれています。

【4. 木は再生可能な材料】

再生可能素材としての木材の良さは、木が切られた際と、木造建築の寿命が尽きた後、廃棄される際に発揮されます。

木の廃材は、バイオ燃料として使うことが可能です。

木材加工工場全体が廃材から生み出された再生エネルギーだけで稼働している工場もあるそうです。

また、鉄やコンクリートが一度使用された後は、産業廃棄物として複雑なリサイクルを行なって始めて、再利用が可能な状態になります。

一方、建築としての役目を終えた木材はそのまま土に返すことができ、今後の木材になる木の肥料として使うことも可能なのです。

上記以外にも、優れた防音効果や、加工のしやすさなど、多くの点が挙げられています。

また、木で作られた空間が人間の精神面にもたらすメリットも挙げられており、更なる研究が進められています。

まとめ

この記事のまとめになります。

次回は、世界各国から、木造高層建築の実例を紹介していきたいと思います。

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