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丸くおさまらず、自分の直感を大事に。高知工科大学 芝田 京子 先生

清家先生にご紹介いただき芝田先生にインタビューさせていただきました。

友達と飲んでいたときに大学時代の研究室の先生に偶然出会ったことがきっかけで、考えもしなかった研究者の道に進むことになった芝田先生。
最近の若い人は失敗をいしてはいけないと思い込んでいる、無難で妙に落ち着いているように感じるそうです。
失敗しても成果が出るまで続ければいつかは成功する。仮説や直観を大切に、諦めずに挑戦し続けたいと感じました。

セルフヘルスケアができる環境を全ての人に

―今、どんな研究をされていますか?

芝田先生:今は、セルフヘルスケアの研究をメインでやっています。
高齢者や障がい者に限らず、全ての人に自分でセルフヘルスケアができる環境を提供したいと思っています。
健康を維持することや、人を支援する様々なシステムを研究、開発、更に展開していきたいと考えています。

ー所属されている高知工科大学は、数年前に私立から公立になりましたよね。
芝田先生のことをWebで検索させていただくと、「博士(工学)」や「メカトロニクス」、と研究内容が出てきました。今はセルフヘルスケアの研究をされているのですね。

芝田先生:高知県は高齢者が多いです。
高知工科大学は工学系なので、医療福祉系のシステムを構築するプロジェクトを任されており、私も参加しています。

芝田先生にオンラインでインタビューさせていただきました。

大学卒業後、企業に就職。大学時代の先生に再会し、考えてもみなかった研究の道へ

ー大学卒業後、企業に就職されていたとお聞きしました。

芝田先生:大学で修士課程を修了後、ソニーの子会社に2年弱勤めました。そのあと大学に戻りました。ちょうど私が就職した頃は、就職氷河期時代でした。

―就職氷河期にソニーグループ就職されたとは、先生すごいですね!
企業に就職後、なぜ大学に研究者として戻られたのですか?セルフヘルスケアの研究をするためですか?

芝田先生:よく聞かれる質問です(笑)。
聞かれた方の期待に添えず申し訳ないのですが、高い志があったわけではありません(笑)。

友達と新橋で飲んでいたときに、大学時代の研究室の先生に偶然出会って、
「仕事楽しいか?面白くないなら大学に戻ってこないか?」と聞かれたんです。
仕事は面白いとは言えなかったし、酔った勢いで、「いきまーす!」ってなりました(笑)。もちろん、後で真剣に考えましたが、いつの間にか大学に戻っていましたね。

大学に戻った当初は発明のためのブレーンサポートシステムを作る研究をしていました。
その後、高知工科大学に移り、お医者さんと組んで医療福祉系のサポートシステムやアシストシステムを作る大きなプロジェクトに参加しました。
全く分野は違いますが、ゴルフの研究もしていました。

安定した収入のある企業の仕事を辞めることに、躊躇いはなかったのですか?

芝田先生:お金の心配はなかったです。
私はドクターは持っていませんでしたが、大学では助手として雇ってもらえました。ただし5年間の期限付きでした。
今は、論文博士は推奨されていませんが、当時、論文博士としてドクターをとりました。

―なるほど。5年間の間に論文を出して博士の学位を取得するんですね。そんな方法もあるんですね。面白いです。縁とタイミングですね。
大学の先生も、可能性のない方には声はかけないですよね。先生から見て、芝田さんならやってくれるんじゃないかという素質があったんだと思います。その当時(修士課程を卒業する時)、博士課程進学は考えておられなかったのですか?

芝田先生:全く考えてなかったですね。ずっと企業にいると思っていましたし、まさか、研究者や教育者になるなんて思ってもみませんでした。
修士課程の時に、日本の教育を変えたいっていう友達もいましたが、その時は全くやってみたいと思わなかったです。
今でも大学時代の友達に会うと、「何でお前が大学にいるの?」と言われます(笑)。

―大学に戻ってきてみて、率直にどうでしたか?

芝田先生:合ってないとは思わなかったですね。
発明サポートシステムは修士課程の時にやっていて、まだやり残したこともありました。
ゴルフの研究や、腰痛の研究は助手の時にやっていて、新しいことをするのも楽しいなと思っていました。
学部3年生の実験の担当をしていたので、「若い人たちの吸収力ってすごいな、返ってくる反応が大きいのも面白い、この道でいくのもいいのかな」と思いました。

芝田先生の開発中のサポート器具

「なんとかなる、やってみよう。」幼い時からどんな時も母親が味方でいてくれる絶対的な安心感。

―お話を伺っていて、新しいことにどんどん飛び込んで行かれている印象です。それは、幼い頃からですか?

芝田先生:子供の頃から積極的なタイプではなかったです。意気込みがあって、飛び込んだ気持ちは全然ないですね(笑)。
大学に戻るのは5年の任期付きだったので、「もしかしたら仕事がなくなるかもしれない。」とは思いましたが、「まあ、やってみよう、何とかなるんじゃないか」との思いが強かったです。

今思えばですが、幼い頃から、母親がどんな時でも味方でいてくれている、絶対的な安心感がありました。もしダメでも味方はいるしいいだろう、と思いました。

―理系に興味を持ったのはいつ頃からですか?

芝田先生:もともとロボットやシステムが好きだったわけではありません。
高校の時の進路選択で、理系と文系に分かれる時は、何となく理系だろうなと選びました。
物理の成績は良くなかったんですが、面白いなと思っていました。
大学には推薦で行くことになり、選んだ大学に工学部しかなかったというのがあります。

工学部に行くならエンジニアになりたいと思いました。
当時の工学部って危ない感じや汚いイメージがあって(笑)。学科は機械、電気、化学は選ばずに、新しくできていた綺麗っぽい学科に行きました(笑)。

芝田先生の研究室での様子

「工学は工楽」尊敬する恩師、川口先生の存在は特別

―印象的なエピソードはありますか?やはり先ほどお聞かせくださった居酒屋の帰りで再会した先生でしょうか?

芝田先生:そうですね。新橋で声をかけてくださった川口忠雄先生
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200901045549396471)のことは今でも尊敬しています。助手をやっていた時にも色々教えていただきました。
あまり人に影響されることは少ないのですが、川口先生は特別です。
川口先生もずっと企業にいらして、50歳過ぎてから大学に戻られたそうです。
学生を子ども扱いせず、「エンジニアとはこうあるべきだ。」と後輩を育てるように接しておられました。

―芝田先生が大切にされていることはありますか?

「工学は、工楽」だと川口先生に教わりました。
「engineeringとenjoyをかけて”enjoyaring”、楽しまなきゃだめだよね、ものを作り喜ぶ、そしてそれが世の中の役に立つものである」と仰っていました。
いつも楽しいわけではなく、5年後10年後に楽しかったな、でもいいんです。その時は苦しくても、後になって、あの頃楽しかったな、と感じられる努力をしたほうがいいのかな、と思っています。

修士課程の時は辛かったです。でも、やってよかったですし、今思えば苦労もしていてよかったな、楽しかったなと思っています。

―修士課程の時は、スパルタな研究室だったんですか?

芝田先生:川口先生はいつも褒めて励ます方でした。
もうひとりの指導教員の先生は追い込むタイプで、厳しかったです。
ドクターの先輩には鍛えられ、周りに支えてもらいました。
「楽しんでやること」と、「とことん最後まで考えること」は大事だと思っています。

自分の仮説や直感を大事に激しく研究してほしい

―これから挑戦したいことと、若手研究者に一言お願いします。

芝田先生:今の世の中、ハラスメントや、難しい部分があると思いますが、
喜んでやることや、先越された、と悲しむ気持ち。怒りをもってやってやろう!という気持ち、それに、内なる燃えるものでもいいんです。
喜怒哀楽をもって、激しく研究してほしいと思います。
そんな若手がいたら、応援したいな、と思いますね(笑)。

自分が最初に思った仮説や直観を大切にしてほしいんです。
少し調べてすぐ投げ出すタイプが最近増えてきているように思います。
情報収集も大事だけど、そこじゃないよ、と思っています。

―今、SNSやWeb検索したらすぐに出てくる時代です。自分じゃなくて、周りが判断基準になってしまうんでしょうかね。

芝田先生:失敗してはいけないという思いが強いんですかね。失敗してもいいんです、やってみたらいいんです。
もっと食らいついて、もっと自分で組み合わせてみたり、考えてみて欲しいですね。
最近30歳前後の人も、妙に落ち着いているんです。丸くおさまってほしくないと思います。

人々が、自分の意思で「健康でいたい」と意識する環境を提供し、世の中に浸透させたい

―これから先、目指すゴールや挑戦したいことをお聞きしたいです。

ヘルスケアのエンジニアリングです。
システムにやらされる、医者や指導の先生ににやらされる、ではなくて、自分が納得してやれるようにしたいです。

私がしたいことは、ヘルスケアではなく、セルフヘルスケアです。
「自分」の意志で、健康でいようと意識を持てる環境を提供する。助けるシステムを作り、それを世の中に浸透させたいと思っています。

―それってすごく難しいですよね。健康でいたいという欲求よりも、食べたい、ゆっくりしたい欲って大きいですよね。

芝田先生:無責任ですが、食欲に負けるとか、そういうところまでは研究していません(笑)。
個人的には、食べ物は食べたいだけ食べればいいじゃん、その分効率よく運動すればいいんじゃないかとか思っています。バランスとって、プラスマイナスゼロって感じですね(笑)。我慢したら楽しくないんですよ。

とはいえ今はまだ取り組みとしては、セルフヘルスケアのトータル的なことではなく、その一部です。
例えば、腰痛持ちの人が歩いた時、下半身にはこういう力が働いてたんだ、など細かいことを解析し、自分でコントロールして、病気を未然に防いだり、治せるような情報を提供したいと思っています。


芝田先生ありがとうございました。先輩研究者の皆様の悩んだこと、どうやって乗り越えたか、成功の裏側などをどんどん発信していきます。

次回もお楽しみにしていてください。

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