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映画と車が紡ぐ世界chapter74

サイコ ~ フォード カスタム300 1957年式 ~
Psycho ~ Ford custom 300 1957 ~ 

「すいません センセイ! 
 急患受入の要請です 5歳の女の子 チアノーゼが出ているようです!」

「わかった 至急 受け入れの準備!」
街の小児科に就業時間と言う概念は存在しない
再び白衣に戻った僕は カノジョの携帯に連絡を入れた・・・

 Ptunn・・・

予定延期の話とわかった途端 カノジョは電話を切った・・・
「当たり前だよな・・・」

2月14日も同じだった
2時間遅れで スタートしたバレンタイン
カノジョのプランを台無しにした僕は
3月14日に ”RISTORANTE OZIO”のフルコースを約束をした

「そんな・・・悪いわ・・・」
隠し切れない笑顔を浮かべた 
あの日のカノジョが 大脳の中で再生される 
天使のようなカノジョの笑顔が 
90度左に転回し 阿修羅のごとく憤怒の形相に変わった・・・

「喘息による気道閉塞が起きていて  体内の酸素量が低下したんだ
 怖かったと思うけど 気管支拡張薬を投与したので もう安心ですよ」
女の子に付き添う母親の目には 涙が浮かび 
父親は僕に向かって何度も頭を下げた

この瞬間(ひととき)が 僕の疲れをすべて打ち消してくれる・・・
いつもなら 
充実感でいっぱいのところだが・・・
安堵と共に戻ってきた来た プライベートタイムが 
暗黒世界だったことを思い出した

「さすがに 今度は許してくれないだろうな・・・」
時計を見ると 日付は3月15日に突入していた・・・

Bar ”Hitchcock”

おや・・・ 眩しいな・・・

Ford Custom 300 Fordor Sedan
看板代わりに 店の前にいつも停まっている
マスターは この車はもう動かないと言っていたのに・・・
今日は ヘッドライトが灯されていた
珍しいなと思いつつ 
僕は 向かいにあるマンションに向かった

Kaaaaaaaaaaa Kaaaaaaaaaa Kaaaaaaaaaaaaa

深夜なのに 遠くでカラスが鳴いた

「さみしい 夜だな・・・ 襲ってくるなよ・・・」
ヒッチコックの鳥を思い出しながら 玄関のカギを開けた

真っ白なカバーのベッドと 観葉植物だけの 寝るだけのPlace・・・
生活感のかけら一つない部屋の 
灯りをつけると 
すっかり眠りについていた アカサヤネムノキが 迷惑そうに葉を広げた

「悪い悪い・・・」
僕は 部屋の灯りを あわてて消した と そのとき・・・

ほのかに漂う柑橘系の香り

???・・・
ベランダを向くと 
白いカーテンに 人影が写っていた 右手には・・・ナイフ・・・

ノーマン・ベイツ(Anthony Perkins)か・・・

シャワールームで女性が襲われるシーンが 脳裏をよぎる・・・
3月15日・・・315・・・あぁ 今日はサイコか・・・

「また 私を置き去りにして・・・」
カーテンの向こうから 女性の声がした・・・

あぁ・・・ 
カノジョに 部屋の鍵を渡していたことを思い出した
キミに刺されて僕の人生 The End・・・ 
そう思った直後 
春の温かい風が カーテンを押し上げた 
右手にあったのは・・・ ワインだった

「御馳走のお返しに 用意していたの・・・」

「ゴメン・・・」
僕は それ以上何も言えなかった

「あなたと付き合うと誓ったときに 
 こうなることは覚悟していたのに・・・  
 でも やっぱり つらいわね・・・」

「ゴメン・・・」
僕は ポケットから小さな箱を取り出した
 
「こんな生活が続くと思う 
 でも そばにいてほしい 恋人ではなく 僕の妻として」

月明かりで輝く ダイヤのリングに
90度右転回した 優しさと涙で一杯のカノジョの顔が写っていた

「私を待たせたときは プレゼントが必要よ・・・」
そう言うと カノジョは 僕をきつく抱きしめた

眩しい月明かりで 目を覚ました 
アカサヤネムノキが 二人の約束の証人になった

♪Rick Springfield - Don't Talk To Strangers♪


・・・ ・・・

貴方は 気付かなかったみたい・・・
Bar ”Hitchcock”のマスターに協力してもらって
Ford Custom 300 Fordor Sedanのヘッドライトを灯しておいてもらった
もし・・・
坂道を 歩いてくる 貴方の隣に女の人がいたら・・・

アカサヤネムノキは もう一つ見ていた 
月明りで ギラリと輝くものを カノジョが そっと 背中に隠したことを 


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